量子物理学の原理で地下に埋もれた構造物をマッピングする「量子重力勾配センサー」の実験に成功
量子物理学の原理を用いて微小重力の変動を検出する「量子重力勾配センサー(量子重力グラディオメーター)」の屋外実験に、イギリス・バーミンガム大学の研究者らが成功しました。微小重力の変動を高精度で測定することで地下構造のマッピングが大幅に改善され、建設プロジェクト・火山噴火の予測・天然資源の発見・考古学調査などに役立つと期待されています。
Quantum sensing for gravity cartography | Nature
https://doi.org/10.1038/s41586-021-04315-3
Sensor breakthrough paves way for groundbreaking map of world under Earth surface
https://www.birmingham.ac.uk/news/latest/2022/02/sensor-breakthrough-paves-way-for-groundbreaking-map-of-world-under-earth-surface.aspx
場所による重力の変動を超高精度で測定することで、地下に埋もれている自然および人工構造のマッピングが可能となりますが、測定においては周辺の環境から生じるノイズが課題となります。そこで、バーミンガム大学が率いるイギリスの国立量子テクノロジー研究ハブの1つであるUK National Quantum Technology Hub in Sensors and Timingの研究チームは、振動やその他の環境的問題を克服する量子重力勾配センサーを開発しました。
量子重力勾配センサーは、複数の原子を落とした際に生じる重力場の引っ張り強さの微妙な変化を測定する、量子物理学の原理に基づいた重力センサーです。測定対象となるオブジェクトの大きさや密度に応じて検出される引っ張り強さも大きくなるため、地下に埋もれていて目には見えない構造物をマッピングすることが可能だとのこと。
振動や装置の傾き、磁場や熱場による影響などが量子に影響を及ぼすため、実験室の外で量子重力勾配センサーを実用化することは困難です。しかし、UK National Quantum Technology Hub in Sensors and Timingの研究チームはこの課題を克服し、量子重力勾配センサーの性能に関する屋外での実証実験に成功したと、学術誌のNatureに発表した論文で報告しました。研究チームが開発した量子重力勾配センサーは、屋外の地下1メートルの地点にあるトンネルの存在をマッピングすることができたそうです。
量子重力勾配センサーの実証実験が成功し、地下の構造物をマッピングするための商業的な道が開かれたことで、従来より安価で信頼性が高い地下構造のマッピングを、既存の手法より10倍も速く提供することが可能になるとみられています。バーミンガム大学の研究チームによると、量子重力勾配センサーの開発によって以下のような改善が期待できるとのこと。
・鉄道や建物、道路などの建設プロジェクトにおけるコスト削減と期間短縮。
・火山噴火をはじめとする自然現象の予測精度の向上。
・地下に隠れている天然資源や人工的な構造物の発見。
・貴重な遺物にダメージを与えない考古学的な調査。
UK National Quantum Technology Hub in Sensors and Timingの主任研究者であるKai Bongs教授は、「これは社会・人間の理解・経済を変革するセンシング分野における『エジソンの瞬間』です」「この画期的な技術によって私たちは探索や建設、修復の際に乏しい記録と運に頼ることをやめられる可能性があります。加えて、目に見えない地下のマップを作ることが、『自分たちが住む街の地下数メートルにあるものより、南極にあるものの方がよく知っている』という状況を終わらせる重要な一歩となります」とコメントしました。
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