異例の蜜月関係にあったワーナー・ブラザースとヴィレッジ・ロードショーはなぜ袂を分かつことになったのか

アメリカを拠点とする映画会社ワーナー・ブラザース・エンターテインメントは、同じくアメリカの映画会社ヴィレッジ・ロードショー・ピクチャーズと20年以上にわたり親密な関係を築いてきました。しかし、2022年になってヴィレッジ・ロードショーは映画「マトリックス・レザレクションズ」をめぐりワーナー・ブラザースを提訴しています。映画界では異例とも言われる長年の関係が崩れてしまった理由について、海外紙のロサンゼルス・タイムズが解説しています。

'Matrix' legal slugfest exposes Hollywood's shifting priorities - Los Angeles Times
https://www.latimes.com/entertainment-arts/business/story/2022-02-21/warner-bros-matrix-legal-slugfest-exposes-hollywoods-shifting-realities

2022年2月、ヴィレッジ・ロードショーが2021年公開の「マトリックス・レザレクションズ」の契約上の問題を巡り、配給元のワーナー・ブラザースを提訴しました。

「マトリックス レザレクションズ」を配信したことでワーナーが訴えられる - GIGAZINE

当初2022年に公開される予定だったこの映画ですが、ワーナー・ブラザースは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行への適応と自社傘下のストリーミングサービスであるHBO Maxにユーザーを加入させる「波」を作ることを目的とし、2021年12月17日に公開を前倒ししました。公開の前倒しおよびHBO Maxでの配信により、本来得られるはずだった興行収入やその他の補助的収入が減少し、収益についての説明もワーナー・ブラザースから拒否されたとヴィレッジ・ロードショーは主張しています。

一方ワーナー・ブラザースは、ヴィレッジ・ロードショーは1億ドル(約115億円)以上の資金調達を拒否するという契約違反を犯しているにもかかわらず、ヴィレッジ・ロードショーのロゴをクレジットとして表記し、さらには40枚以上のワールドプレミアチケットを受け取ったうえでプロデューサーとしてメディアに堂々と出演したと非難しています。

これまでヴィレッジ・ロードショーとワーナー・ブラザースは映画へ共同出資を行っており、興行収入の一部を受け取るなどの重要な契約を結んできました。しかし、ワーナー・ブラザースが映画を関連企業のストリーミングサービスで配信した場合、利益の多くを得るのはストリーミングサービスのほう。ロサンゼルス・タイムズは、成長を遂げた両社が経営戦略を転換したことこそがいさかいの原因だと指摘。特に、ワーナー・ブラザースがストリーミングやリブート作品・スピンオフ作品の制作権を囲い込もうとする方針にシフトしていったことが、両社の関係悪化に大きく影響していると指摘しています。

また、両社の方針がうまく合致しないようになっていった原因としては、運営会社の変更や経営陣の交代も影響しているとロサンゼルス・タイムズは指摘。ヴィレッジ・ロードショーは2017年にプライベートエクイティのVine Alternative Investmentsに所有され、かつてワーナー・ブラザースの幹部も務めたブルース・バーマン氏ら映画関係者は後に退社。ワーナー・ブラザースは2018年、親会社ワーナーメディアの買収に伴いAT＆Tの傘下に置かれ、前述のHBO Maxを開始するなど戦略を転換しています。

ロサンゼルス・タイムズは「両社の関係が良好だった時期に社に所属していた重要人物の多くはすでに去っている」と指摘。長年の関係にもかかわらず袂を分かつこととなった両社の裁判は、2022年3月11日に本格的に開始される予定です。訴訟に関与しないエンターテインメント業界担当のゼブ・ラベン弁護士は「エンターテインメント業界で好まれる、仲裁または和解によって解決されることを期待しています」と述べました。