核融合エネルギーの新記録を核融合炉「JET」が樹立

ヨーロッパの核融合研究機関らが組織するEUROfusionが2022年2月9日に、欧州トーラス共同研究施設(JET)の核融合炉が過去の2倍を超えるエネルギーを生成することに成功したと発表しました。この成果は、日本も参加している国際熱核融合実験炉(ITER)の実現に大きく寄与すると期待されています。

Fusion energy record demonstrates powerplant future - Culham Centre for Fusion Energy
https://ccfe.ukaea.uk/fusion-energy-record-demonstrates-powerplant-future/

Fusion energy: Scientists just made an incredible breakthrough
https://www.inverse.com/innovation/fusion-energy-jet-record

Five seconds, 59 megajoules: A new record for tokamak fusion | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2022/02/european-project-sets-a-record-for-fusion-energy-produced-by-a-tokamak/

海水中に無尽蔵に存在する水素を、太陽と同じ原理でエネルギーに変換する核融合発電は、核分裂を利用する原子炉とは異なりメルトダウンや核暴走の危険がないため、夢のエネルギー源と呼ばれています。かつては実現不可能だとされたこともありましたが、近年に入り1京ワット超のエネルギーを生み出したローレンス・リバモア国立研究所のレーザー核融合や、1億2000万度のプラズマを100秒以上維持した中国の核融合炉「EAST」などが登場しているほか、Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏が支援する民間の核融合発電所・General Fusionが2025年の稼働開始を目指して建造計画を始動させるなど、にわかに発展が進んでいます。

Amazon創設者のジェフ・ベゾスが支援する核融合プラントがイギリスに建設決定 - GIGAZINE

さらに、EUROfusionは2月9日に「JETが5秒で59メガジュールのエネルギーを生成することに成功した」と発表しました。JETは、重水素と三重水素を太陽の中心温度の約10倍にもなる1億5000万度まで加熱してプラズマ化させ、それを強力な磁場で封じ込めて核融合反応を起こすトカマク型核融合炉で、この種類の核融合炉としては記事作成時点で世界最大の施設です。

JETはこれまでにも1997年に22メガジュールのエネルギーを生み出すことに成功しており、59メガジュールのエネルギーを生み出した今回の成果は前回の記録を大幅に更新するものです。JETを運営する原子力エネルギー庁のイアン・チャップマンCEOは発表声明の中で、「この画期的な成果により、科学と工学の最大の課題のひとつを克服することに大きく近づきました」と話しました。

by aglet

今回の「5秒で59メガジュール」の記録は、JETの以前の記録を塗り替えるものでしたが、1秒当たり約11メガワットという出力は平均的な石炭火力発電所の約5分の1程度とのこと。また、プラズマを加熱するのに大きなエネルギーを必要としたため、使ったエネルギーと生み出したエネルギーがつりあう「損益分岐点」にも達していません。

それでも、核融合の有力な方式の1つであるトカマク型核融合炉で一定の成果を上げることができた今回の実験は、同じくトカマク型核融合炉であるITERにとっても貴重な知見であるとされています。ITERのベルナール・ビゴ機構長はEUROfusionの発表に寄せた声明の中で、「ほぼ工業規模の電力を生み出した今回の結果は、世界中で核融合の探求に携わっているすべての人々に大きな確信を与えました。また、完全な核融合の実証に向けて前進しているITERプロジェクトにとっても、私たちが正しい方向に進んでいるという心強い自信をもたらしてくれます」とコメントしました。