サイエンス

実験用に飼育されてきたマウスを野外に放すと何が起こるのか?


マウスはさまざまな研究で動物実験に用いられていますが、近年は「実験に使われるマウスの飼育環境が研究結果を変えてしまう可能性がある」ということも指摘されています。新たに、アメリカのコーネル大学の研究チームが実験用に飼育されてきたマウスを野外に放ち、マウスが感じる不安のレベルにどのような変化が現れるのかを調べる実験を行いました。

Transfer to a naturalistic setting restructures fear responses in laboratory mice: Current Biology
https://www.cell.com/current-biology/abstract/S0960-9822(25)01397-1


In lab mice rehomed to fields, anxiety is reversed | Cornell Chronicle
https://news.cornell.edu/stories/2025/12/lab-mice-rehomed-fields-anxiety-reversed

Scientists Released Caged Mice Into The Wild, And an Incredible Thing Happened : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/scientists-released-caged-mice-into-the-wild-and-an-incredible-thing-happened

研究者らがマウスの不安レベルを測定するためによく使うのが、高架式十字迷路という実験装置です。高架式十字迷路は以下のように高い位置に十字型の通路が設けられ、そのうちの2本が壁に囲まれて安心感のある「閉鎖アーム」になっており、残る2本は壁がなく開放された「露出アーム」になっています。マウスはこれらのアームの上を自由に探索可能で、その際の行動に応じて不安レベルを測定する仕組みです。

by Craig Berscheidt

高架式十字迷路に対する標準的なマウスの反応は、露出アームを含めて一通りアームを探索した後に閉鎖アームへ戻り、そこで長時間過ごすというものです。これは、露出アームにさらされたことでマウスが恐怖や不安を覚え、安心感のある閉鎖アームに閉じこもるためだと考えられています。

今回、コーネル大学の神経生物学・行動学准教授であるマイケル・シーハン氏らの研究チームは、実験用に飼育されてきたマウスを高架式十字迷路にさらして不安レベルを測定した後、半数を屋外の比較的広い空間に放しました。

以下が実際にマウスが放されたコーネル大学の屋外フィールド。これまでは靴箱より少し大きい程度のケージで暮らしてきたマウスたちは、ここで初めて外の空気の匂いを嗅いだり、草むらの中に入ったり、土の上に立ったり、穴を掘ったり、自分でエサを見つけたり、天候の変化や季節を感じたりしたとのこと。


そして1週間後、研究チームは同じマウスたちを再び高架式十字迷路にチャレンジさせました。その結果、実験室で飼育を続けたマウスたちは以前と同じく閉鎖アームで長い時間を過ごしましたが、野生に放されたマウスたちは露出アームでの恐怖反応をまったく示さないか、あるいは非常に弱い反応しか示さないことが確認されました。この影響は、「繰り返し高架式十字迷路にさらして恐怖反応を確立させた後に野外で飼育したマウス」でもみられました。

論文の筆頭著者でありコーネル大学博士研究員のマシュー・ジップル氏は、「1週間野外で飼育したところ、マウスの不安行動は元のレベルに戻りました。この自然環境での生活は、初期の恐怖反応の形成を阻害するだけでなく、実験室ですでに発達した恐怖反応をリセットすることさえできます」と述べています。

今回の実験はあくまでマウスを対象に行われたものですが、「経験の幅が広がると主体性が増して不安が軽減される」という人間心理学の研究結果とも一致しています。ジップル氏は、マウスの行動変化は基本的に「主体性」に関わるものであり、マウスらは屋外環境でさまざまな困難に直面し、それを克服したことで自信を深めたのだろうと考えています。

シーハン氏は、「マウスを非常に広く囲まれたフィールドに放つと、彼らはそこで走り回ったり、生まれて初めて草や土に触れたりできます。これは、経験がその後の外界への反応をどのように形作るのかをより深く理解するための新しいアプローチであり、これらのマウスから学んだことが他の動物や私たち人間にも一般化できることを期待しています」と述べました。


今回の研究結果は、実験室における不安の研究やマウスを用いた実験について、再考する必要があるかもしれないと示唆するものです。科学系メディアのScience Alertは、「実験用マウスにおいて不安と見なされるものは生物学的に固定化されたものではなく、その環境によって容易に緩和される可能性があります」と述べています。

また、今回のようなフィールド実験を用いた今後の研究課題として、「恐怖反応を逆転させるにはどれほど屋外環境にさらす必要があるのか?」「マウスの年齢は結果に影響するのか?」など、さまざまな疑問が山積しています。

シーハン氏は、この研究は人間の行動に直接言及しているわけではないものの、それでも人間にとって深い意味があると指摘。「若者の不安が高まっている原因のひとつは、彼らがより保護された生活を送っていることです。現代社会や私たち自身の生活に関する議論がこの研究に反映されており、非常に興味深くなっています」とコメントしました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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