サイエンス

1回の宇宙旅行で排出される炭素は排出量が少ない人々の一生分を上回る


2021年は民間人による宇宙旅行が盛んに行われた年であり、合計20人以上もの人々が宇宙旅行を実現しました。今後の宇宙開発に向けてさらなる希望が高まる一方で、World Inequality Lab(世界不平等研究所)が発表した「The World #InequalityReport 2022(世界不平等レポート2022)」では、「1回の宇宙旅行で排出される炭素は、排出量が少ない下位10億人が一生で排出する炭素量を上回る」として批判されています。

The World #InequalityReport 2022 : Global carbon inequality
https://wir2022.wid.world/chapter-6/


Jeff Bezos’ Space Trip Emitted Lifetime’s Worth of Carbon Pollution
https://gizmodo.com/jeff-bezos-space-joyride-emitted-a-lifetime-s-worth-of-1848196182

One Space Trip Emits a Lifetime’s Worth of Carbon Footprint
https://futurism.com/space-trip-lifetime-carbon

2021年は「宇宙旅行元年」とも言われており、2021年7月にはヴァージン・ギャラクティックの創業者であるリチャード・ブランソン氏らが民間人による宇宙旅行に成功したほか、数日後にはジェフ・ベゾス氏が率いるBlue Originがベゾス氏を含む4人の民間人の宇宙旅行を行いました。その後も次々と民間人が宇宙旅行を実現しており、12月には実業家の前澤友作氏がロシアの宇宙船・ソユーズMS20に搭乗して打ち上げられ、記事作成時点では国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中です。

「すべてが感動の毎日」宇宙旅行中の前澤友作さん | NHKニュース
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211214/k10013387831000.html

ところが、世界不平等研究所は世界の不平等に関してまとめたレポートで、「世界的な所得の不平等が1人当たりの二酸化炭素排出量の格差を生み出しており、気候変動に対処するには二酸化炭素排出量の不平等にも対処するべきだ」と主張。その中で「おそらく、近年の富の不平等に関連する極端な環境汚染を最も顕著に描き出しているのが、宇宙旅行の発展です」と述べています。


世界不平等研究所は宇宙旅行について、「間接的な排出量を考慮すると、11分間のフライトで乗客1人当たり75トン以上の炭素を排出します(そして、実際には250~1000トンに達する可能性があります)。分布のもう一方の端では、約10億人の人々が1人当たり年間1トン未満の炭素を排出します。これら10億人の人々は生涯にわたり、1人当たり75トン以上の炭素を排出しません。従って、宇宙旅行では少なくとも下位10億人の人々が生涯で放出するのと同じくらいの炭素を、わずか数分で放出するのです」と主張しています。

以下のグラフが、1人当たりの年間炭素排出量を「Full population(全人口)」「Bottom 50%(下位50%)」「Middle 40%(中位40%)」「Top 10%(上位10%)」「Top 1%(上位1%)」で示したもの。全人口の平均が6.6トン、下位50%が1.6トン、中位40%が6.6トンとなっており、上位10%はなんと31トン、上位1%に至っては110トンもの炭素を排出しているとのこと。


また、全体の炭素排出量に占める割合を「Bottom 50%(下位50%)」「Middle 40%(中位40%)」「Top 10%(上位10%)」「Top 1%(上位1%)」で示したグラフがこれ。下位50%は12%、中位40%が40.4%と90%以上の人々は全体の半分ほどの炭素しか排出しておらず、上位10%が47.6%、上位1%が16.8%もの炭素を排出しているそうです。


世界不平等研究所は宇宙旅行に関する試算において特定の宇宙開発企業を名指ししませんでしたが、「11分のフライト」という言葉から、11分の宇宙旅行を提供するとしているブルー・オリジンを想定した試算の可能性があるそうです。

ブルー・オリジンはロケットの燃料に液化水素と液化酸素を利用しており、生成された水は水蒸気として放出されるため、ヴァージン・ギャラクティックなどと比較してクリーンだと主張しています。しかし、液化水素や液化酸素を作るために大量のエネルギーを消費することが指摘されており、燃料の製造段階は炭素集約的なプロセスだとのこと。なお、「11分のフライトで75トン」という試算は宇宙へ行ってすぐに帰ってきた場合であり、打ち上げられてから長期にわたり宇宙に滞在している場合、時間当たりの炭素排出量は減少していきます。

by NASA Flight Opportunities

世界不平等研究所は、貧富による炭素排出量の格差が存在していることから、気候変動対策はこの不平等を解消する形で行われるべきだと主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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