難しい母乳育児の継続率を向上させる簡単な方法とは?
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母親の乳房から分泌される母乳を与えて赤ちゃんを育てる「母乳育児」は、赤ちゃんにとってさまざまなメリットがある一方で、母親にとっては大きな負担となります。「どうしたら母乳育児の継続率を向上させられるのか?」という疑問について、イギリス・スターリング大学経済学部の上級講師を務めるDavid Comerford氏が解説しています。
Effect of obstacles/tips card on breastfeeding drop-off | British Journal of Midwifery
https://www.magonlinelibrary.com/doi/abs/10.12968/bjom.2021.29.9.510
Breastfeeding is tough: new research shows how to make it more manageable
https://theconversation.com/breastfeeding-is-tough-new-research-shows-how-to-make-it-more-manageable-168432
Comerford氏は、「母乳育児のメリットは幅広く、人生を変えるものです」と述べており、母乳にはぜんそく・アレルギー・下痢・耳の感染症などのリスクを軽減する抗体が含まれていると指摘。母乳で育てられた赤ちゃんは入院や死亡リスクが低く、肥満になりにくく、IQが高いといった研究結果が報告されています。また、赤ちゃんを母乳で育てた女性はそうでない女性と比較して、乳がんや卵巣がんのリスクが低いとの研究結果もあります。
こうした母乳育児のメリットから、イングランドの公衆衛生当局は母親が母乳育児を行うことを支援しており、スコットランド政府も母乳育児の期間を伸ばすという目標を掲げています。Comerford氏もこうした動きを「賢明」だと評価しています。
しかし、いくら母乳育児に多くのメリットがあるとはいえ、母親が赤ちゃんに自分の母乳を与えることが難しいことに変わりはありません。2010年の乳児の摂食に関する(PDFファイル)大規模調査では、大半の女性が母乳育児のある時点で乳房や乳首の痛みを経験したと回答しているほか、町中や自宅の庭で母乳を与えることに対する冷ややかな視線も、母親が母乳育児を行う上での課題となっています。また、母乳育児の支持者らは「母親が赤ちゃんに母乳を与えるのは自然なこと」と主張していますが、その母親個人にとってはこれまでにしたことがない新しい行為であり、慣れるのに時間がかかるのは当然です。
2010年の調査では、スコットランドで母乳育児を始めた母親の5人に1人がわずか2週間で母乳育児をストップしたと回答し、ウェールズおよび北アイルランドではさらに多い割合が最初の2週間で母乳育児を断念していることがわかっています。重要なことに、母乳育児をストップした母親の86%は「もっと長く母乳で育てたい」と思っていたとのこと。
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Comerford氏は、多くの母親が望みに反して母乳育児を断念しており、女性が赤ちゃんに母乳を与えるのを助けるサポートが必要だと主張。そこで、スターリング大学経済学部の行動科学センターに所属する修士課程学生・Tracy McGillivray氏は、「出産前の母親に研究チームが作成した『母乳育児計画カード』を渡す」という方法を考案し、Comerford氏と共にその効果を確かめるパイロット実験を行いました。
実験では、イギリス・エディンバラ周辺に住む81人の妊娠中の女性を募集し、無作為に「母乳育児計画カードを渡す実験群」と「カードを渡さない対照群」に割り当てました。研究チームが作成した母乳育児計画カードには、母親が母乳育児を始めた時に直面する可能性がある4つの課題と、それに対する専門家の回答が記載されていました。記載されていた課題と回答は以下の通り。
1:授乳の際に不快感または痛みがある
母乳育児は新しいスキルであり、習得には時間がかかります。体の接触が適切かどうかを確かめたり、他の授乳体勢を試したり、助産師や巡回保健師に授乳の様子を見てもらったり、授乳の実践をサポートするグループの助けを得たりしましょう。
2:十分なミルクが出ていないと感じる
赤ちゃんの体重は助産師や巡回保健師が定期的に測定しており、それがあなたの赤ちゃんが飲んだ母乳の量を知る目安になります。新生児の胃はビー玉ほどの大きさで、生後3日でピンポン球くらい、1週間でプラムくらい、1カ月で卵くらいです。赤ちゃんに必要なミルクは非常に少量なのです。
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3:日常生活に授乳を組み込めない
新しい人間があなたの家族に加わりました。しばらくは全ての物事が浮き足立って、新しいルーチンが形になるのは少し時間がかかります。新しい家族の時間を確保し、訪問者の間隔を空けることで、あなたは赤ちゃんを知り、赤ちゃんはあなたを知ることができるでしょう。
4:自分だけが赤ちゃんと触れ合っていることに罪悪感がある
新しい赤ちゃんとつながる方法はさまざまです。あなた以外の人は授乳の前に赤ちゃんを抱いたり、授乳の間に赤ちゃんの背中をさすったりできます。お父さんが赤ちゃんとつながるには肌と肌の触れ合いがよいでしょう。また、兄弟や祖父母にとっては赤ちゃんをお風呂に入れるサポートが理想の時間になるかもしれません。
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母乳育児計画カードの目的は、出産まで少し時間がある女性が母乳育児で直面するであろう課題を予測し、対策を立てるのを助けることにありました。また、いくつかの母乳育児計画カードの裏側には「私は赤ちゃんを母乳で育てるつもりです」といった文言を追加し、母親が目標達成のためにモチベーションを保てるようにしたとのこと。
以下のグラフは、「O/T Card(母乳育児計画カード)」「Enhanced O/T card(文言入りの母乳育児計画カード)」を受け取った母親と、何も受け取らなかった「Control(対照群)」の母親について、「any(何らかの形の母乳育児)」または「exclusively(母乳以外の食物を与えない母乳育児)」の継続率を示したもの。対照群の母親も「discharge(退院)」の時は80%ほどが母乳育児をしていましたが、退院から10~14日後の「At follow up(フォローアップ)」の時点で母乳育児を継続している割合は64%ほどでした。一方、母乳育児計画カードや文言入りの母乳育児計画カードを受け取った母親は、退院後もほとんど母乳育児を断念していないことがわかります。
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Comerford氏は、「母乳を与えられた赤ちゃんは健康上のメリットを享受するので、この結果は重要です」とコメント。今回の結果が、母乳育児を促進するための母乳育児計画カードの採用につながることを願っていると述べました。
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