母乳による育児と人工乳による育児では免疫システムにどのような違いが生じるのか?
乳児を母乳で育てることには赤ちゃんが病気にかかりにくくなるといったメリットがあると指摘されており、母乳による育児は赤ちゃんの免疫システムに影響を与えることが知られています。新たにバーミンガム大学の研究チームが発表した論文では、「母乳による育児は乳児の免疫細胞の数を変化させる」ことが示されました。
Breastfeeding promotes early neonatal regulatory T cell expansion and immune tolerance of non‐inherited maternal antigens - Wood - - Allergy - Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/all.14736
Research reveals new insight into why breastfed babies have improved immune systems
https://www.birmingham.ac.uk/research/immunology-immunotherapy/news/2021/01/why-breastfed-babies-have-improved-immune-systems.aspx
Why Do Breastfed Babies Have Healthier Immune Systems? There's a New Explanation
https://www.sciencealert.com/researchers-uncover-clues-on-why-breast-fed-babies-have-healthier-immune-systems
人間の体は常にさまざまな微生物やウイルスと接触しており、免疫システムがどれを無害なものとして受け入れ、どれを危険なものとして拒絶するかを判断しています。免疫システムによる判断に問題が生じた場合、アレルギーや自己免疫疾患などが引き起こされる可能性があるため、生まれてすぐの乳児における免疫システムの発達を研究することは重要です。
バーミンガム大学の研究チームは「母乳による育児」が乳児の免疫システムに与える影響を調べるため、満期かつ帝王切開で生まれた38人の乳児を対象にした調査を行いました。バーミンガム大学の新生児科医であるGergely Toldi氏は、「ミルクの種類が免疫反応の発達に及ぼす影響は、生後数週間の乳児においてこれまで研究されてきませんでした」と述べています。
研究対象となった38人の乳児のうち16人は完全に母乳で育てられ、9人の乳児は母乳と人工乳の両方で、13人の乳児は完全に人工乳で育てられていました。研究チームは乳児の出生時に採取した血液サンプルと、生後3週間の時点で採取した血液サンプルおよび糞便を分析し、ミルクの種類が乳児の免疫システムや腸内細菌に及ぼす変化について調査したとのこと。
なお、調査対象を帝王切開で生まれた乳児に限定したのは、出生時の乳児における免疫システムの変数を制御するためです。「産道を通って生まれた子どもは帝王切開で生まれた子どもと比較して、免疫系の疾患になりにくい」という研究結果もあることから、乳児は産道に生息する多様な微生物に触れることで、免疫システムを発達させている可能性が示唆されています。
人間の免疫細胞が「これまで感染したことのない細菌やウイルスの記憶」を持っている可能性 - GIGAZINE
by National Human Genome Research Institute
分析の結果、乳児の体内では生後3週間までに、免疫反応の抑制的制御をつかさどる制御性T細胞の割合が増加していることが判明。制御性T細胞が増加する割合は母乳で育てられた乳児で特に多く、人工乳のみで育てられた乳児より2倍も多かったとのこと。
また、実際に母乳で育てられた乳児では母体から乳児に移された細胞や微生物に対する免疫反応が抑制され、体内の炎症反応を促進する炎症性サイトカインの産生が少ないことも示されました。母乳育児のプロセスは無菌状態とはほど遠く、母親自身の細胞や皮膚に存在する微生物などが乳児に移されるため、制御性T細胞を増強して過剰な免疫システムの反応から乳児を保護することは重要だといえます。
母乳による育児が一連の変化をもたらすメカニズムは明らかになっていませんが、今回の研究で生後3週間の乳児から採取した糞便の分析を行ったところ、制御性T細胞をサポートすることが知られている特定の腸内細菌の量が、母乳で育てられた乳児でより豊富なことが判明。特定の腸内細菌の変化が、免疫システムの変化に関連している可能性が示唆されたとのこと。
今回の研究では直接的な比較によって母乳育児の利点が示されたものの、さまざまな要因を考慮した結果として人工乳を与えている母親も多いため、「母乳育児が絶対」というプレッシャーを母親に与える可能性については慎重になるべきです。Toldi氏は、「今回の貴重で新しい洞察が母乳育児率の向上につながり、より多くの乳児が母乳育児による恩恵を受けることを願っています。さらに、粉ミルクを与えられている乳児に対しては、今回の結果が免疫学的メカニズムの利点を得るために粉ミルクの組成を最適化するのに役立つことを願っています」と述べました。
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