父親と母親が一緒にいることが子育てにおいて有益かもしれないと脳活動の測定結果から判明
シンガポールの研究チームが行った実験から、両親が物理的に近い距離で子どもの声などを聞くことで、2人の脳活動が同期しやすくなることが判明しました。この結果から、親である配偶者同士が物理的に近い状態で一緒の時間を過ごすことで、子育てが上手くいく可能性があると研究者らは主張しています。
Physical presence of spouse enhances brain-to-brain synchrony in co-parenting couples | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-020-63596-2
Physical presence of spouse alters how parents’ brains respond to stimuli from children, finds NTU Singapore study
https://media.ntu.edu.sg/NewsReleases/Pages/newsdetail.aspx?news=37a99346-ed86-4b1d-85ed-1267e22d5391
シンガポールにある南洋理工大学の研究チームは、21歳以上である24組の異性愛者であるカップルを対象に今回の実験を行いました。被験者となったカップルはいずれも同居しながら4歳以下の子どもを育てており、既知の心理的または精神的問題や、血液の運搬能力に問題が確認されていない人々だったとのこと。
研究チームは被験者らに対し、ヘッドホンで「大人の女性の泣き声」「大人の女性の笑い声」「赤ちゃんの高い泣き声」「赤ちゃんの低い泣き声」「赤ちゃんの笑い声」「静音」の6種類の音声を聞かせました。この際、被験者らは機能的近赤外分光分析法(fNIRS)を用いて、脳内を流れる血液の酸素量に基づいて前頭前野の活動が計測されました。前頭前野は複雑な行動や感情に関連し、思考や創造性を担う脳の最高中枢であると考えられている部位です。
今回の研究では、カップルが同じ室内に入って横に並んで音声を聞くだけでなく、別々の部屋に入って1人で音声を聞く実験も行われました。また、正しいカップルの組み合わせだけでなく、男女の組み合わせをランダムにして同じ室内で音声を聞かせる実験も行われたとのこと。なお、男女は音声を聞くことに集中するように伝えられており、実験中の会話や相手の体への接触、アイコンタクトなどは禁じられていました。
実験の結果、カップルが同じ部屋で横に並んで音声を聞いている場合、別々の部屋で音声を聞いた場合と比較して、音声に対する前頭前野の活動がより大きな類似を示し、同期していることが判明しました。音声刺激の中でも、「大人の女性の笑い声」「赤ちゃんの笑い声」「静音」といった、比較的ポジティブまたはニュートラルな刺激に対し、脳の活動がより同期性を増したとのこと。この現象は本当のカップル同士の間でのみ確認され、ランダムに選出された男女が同じ部屋で音声を聞いていても、脳活動の同期性が高まることはなかったそうです。
論文の筆頭著者であるGianluca Esposito准教授は、「私たちの研究は、配偶者が物理的に一緒にいる時、彼らの子育てに関する注意と認知の制御メカニズムにより大きな同期があることを示しています。両親の脳活動は配偶者の存在に形作られる可能性があるため、多くの時間を一緒に過ごさない配偶者らは、お互いの視点を理解することが困難となり、育児において協力する能力が低下するかもしれません」とコメント。長期的に見ると、両親が一緒にいないことが、子育ての質を損なう可能性があると指摘しました。
子どもの世話をする際、両親が2人とも一緒にいることは時間の無駄だと感じ、一方が世話をしている間はもう一方が自由に過ごしているという家庭も多いかもしれません。しかし、Esposito准教授は、両親が一緒に子どもの世話をすることが有益かもしれないと考えており、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによる外出規制は子育て世帯にメリットがあると指摘。「COVID-19との戦いにおける社会的距離を保つ対策の一環として、家族が自宅で一緒に過ごす時間が増えます。家族全員が長期間一緒にいることはストレスかもしれませんが、両親はこの時間に子どもたちの世話をしながら、お互いの行動や感情を合わせることができます」と、Esposito准教授は述べています。
また、論文の共著者であるMengyu Lim氏は、「今回の研究結果は、子育てにストレスを感じている人々に力を与えるかもしれません。私たちは子育てを個人のタスクだと考えるべきではなく、配偶者の共同で責任を負っています。子育てには積極的なネットワークとコミュニケーション、そして信頼が必要です」と主張しました。
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