エジソンやダリが使った「創造性をアップする睡眠テクニック」の有効性が実験で示される
偉大な仕事を成し遂げるには創造性が重要だと考えられており、多くのクリエイターは創造性を高く保つためにさまざまなことを試しています。新たに、フランスのパリ研究所の研究チームが行った実験により、発明王のトーマス・エジソンやシュルレアリスムの代表的画家であるサルバドール・ダリが使っていた「睡眠テクニック」が、人の創造性を刺激するとの研究結果が示されました。
Sleep onset is a creative sweet spot
https://doi.org/10.1126/sciadv.abj5866
Sleep technique used by Salvador Dalí really works | Live Science
https://www.livescience.com/little-known-sleep-stage-may-be-creative-sweet-spot
エジソンやダリは創造性を刺激する方法として「夢」に着目しており、「指の間にスプーンを挟んだまま昼寝する」「手にボールを持ったまま眠る」といった睡眠テクニックを実践していました。この方法を使うと、眠りに入って体の力が抜けるとスプーンやボールが落ちて音が鳴り、ほんのわずかな時間だけ夢の世界に入ってから覚醒することができます。この夢と現実の境目が曖昧になる状態が、創造性を刺激するコツだそうです。
人間の睡眠は大きくレム睡眠とノンレム睡眠に分けられており、このうちノンレム睡眠は睡眠の深さによってステージ1(N1)~ステージ4(N4)に区別されています。エジソンやダリの睡眠テクニックは眠りに落ちた人間がN2に突入せず、N1の段階で目を覚ますために役立つとのこと。
パリ脳研究所のDelphine Oudiette氏は、人間は睡眠時間全体のうち5%をN1で過ごすものの、実際にN1の間に何が起きているのかはあまり研究されていないと指摘。Oudiette氏は科学系メディアのLiveScienceに対し、N1の段階では目を閉じたまま形、色、夢の断片を思い浮かべることができるほか、部屋の物音を聞くこともできると述べています。
Oudiette氏らの研究チームはエジソンらの睡眠テクニックに触発され、この手法が実際に人々の創造性を刺激するために役立つのかどうかを確かめる実験を行いました。研究チームはすぐに眠りにつく能力を持つ103人の被験者を募集し、「3種類の数字からなる8桁の数列から、決まったルールに従って別の数列を生み出し、生成した数列の最後の数字を答える」というタスクを行わせました。
実際に被験者らに課されたタスクは以下の通り。並んだ数字を2つずつ順番に、「2つの数字が同じであれば同じ数字(『99』と並んでいる場合は『9』)」「2つの数字が異なる場合は残る1つの数字(『91』と並んでいる場合は『4』)」というルールに従って操作していき、新たな数列を生成するというもの。たとえば、「99114141」という数列から導き出される数列は「9491194」となり、最後の数字は「4」です。
ところが、このタスクには「最後の数字は常に生成された数列の2桁めの数字」という隠されたルールが存在していました。もし被験者がこのルールに気付いた場合、タスクを解決する時間を大幅に短縮することができます。研究チームは睡眠テクニックを用いた被験者が、この隠されたルールを見つけられるかどうかを調べることで、N1と創造性との関連性を分析したとのこと。Oudiette氏は、「一般的な見解に反して、創造性は芸術などの分野に限定されません」と述べています。
被験者はまず、実験の第1段階として合計70問を解き、この時点で隠されたルールに気付いた16人が除外されました。続いて被験者は感覚刺激がない暗い部屋で20分の休憩を取るように指示され、右手にカップを持ったまま半リクライニング状態の椅子に横たわりました。この際、右手はリクライニングの外側に出すように指示されており、もし被験者が眠りに落ちて腕の力が抜けたらカップが落下して音が鳴り、目が覚めるようになっていたとのこと。
研究チームは被験者の脳波を測定して、眠りに落ちたのか、N1の段階まで突入したのか、N1を越えてN2まで突入したのかを監視しました。その結果、第1段階で除外されなかった87人中、眠らなかったのは49人、眠ったもののN1に入った段階で覚醒したのが24人、N1を通り越してN2に突入したのが14人でした。その後、被験者は休憩時間中に見た夢などに回答した後、再び合計270問のタスクに取り組みました。
実験結果を分析した結果、休憩中に眠らなかった被験者が実験の後半で隠されたルールに気付く割合は30%だった一方、N1の状態で少なくとも15秒間を過ごした被験者は83%の割合で隠されたルールに気付いたことが判明。また、N1を通り越してN2に突入した被験者では、N1を経験したことによる創造性アップの効果はなくなったと研究チームは報告しています。研究チームはこの結果から、浅い眠りと深い眠りの間に「創造性のスイートスポット」が存在すると結論づけています。
研究には関与していないハーバード大学医学部の精神医学教授・Robert Stickgold氏は、今回の研究結果が「ほとんど無視されていた半覚醒状態(N1)の重要性」に関する重要な証拠を追加すると主張しました。Oudiette氏はN1の睡眠段階が創造性を高める理由について、いくらかは認知能力が残りながらも考えが制御できない曖昧な状態が、「認知が緩んで奇妙な連想を行う理想的な状態」を生み出す可能性があると述べています。
また、今回の研究結果では被験者が休憩中に見た夢についても調査され、夢を報告した被験者のうち3分の1がタスクに関連する夢を見ており、それ以外はタスクと関係ない夢を見ていたことがわかっています。しかし、夢の内容と創造性の向上の間には関連が見られなかったとのことで、この点はさらなる研究が必要だそうです。
Oudiette氏は、「私たちはダリやエジソンではなく、普通の人々を研究しました」「私たちはたった3ユーロ(約380円)のオブジェクトを使用しました」と述べ、今回の実験で用いられた睡眠テクニックは誰でも使えるものだと示唆しました。
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