4000年前の古代バビロニア語を映画「エターナルズ」のために復活させた研究者の奮闘
2021年11月5日(金)に公開された映画「エターナルズ」では古代バビロニア人の会話が登場しますが、紀元前2000年~500年前に存在したバビロニアの言語を現代に再現することには多くの課題が伴います。バビロニア語を研究する世界でも数少ない学者であるマーティン・ワシントン氏は映画製作にあたってマーベルからバビロニア語のコンサルティングを依頼されたとのことで、バビロニア語翻訳の裏側を明かしています。
The Eternals – Marvel consulted me to help superheroes chit chat in Babylonian
https://theconversation.com/the-eternals-marvel-consulted-me-to-help-superheroes-chit-chat-in-babylonian-172009
バビロニアはメソポタミア南部で繁栄しましたが、メソポタミア文明の特徴の1つに「文字の目的が記録だったこと」が挙げられます。古代バビロニアの文書は現代まで数多く残って残っているものの、その多くが商取引の記録であり、家族や友人に向けた手紙のようなものはほとんど存在しません。カジュアルな会話を記す文章や表現がないため、実際にバビロニアの人々がどのように会話していたかという点には多くの謎が残っています。
このため、映画で「バビロニア人の会話」を再現するには、公式に残っている文書をもとに、それを模した新たな「口語表現」を作り出す必要があったとのこと。
例えば、エターナルに登場するキャラクターの1人であるギルガメッシュが「門を通り抜けろ!」と叫ぶシーンがあります。バビロニアの文書の内容は通常、「完全な文章」として存在するため、人々がどのように単語を切り取るかは定かではありません。また、バビロニアには門を表す言葉として「abullu」と「bābu」があり、どちらを使うかという問題もありましたが、ワシントン氏は「緊急性の高い状況ではより短い単語を使うはず」と考え、「bābu」を使用することにしたとのこと。加えて、言語学では動詞が省略されがちであることから、英語で「into the gate」と翻訳される「ana libbi bābi」というバビロニア語を訳に当てました。
他にも翻訳上の問題は存在しました。バビロニア語で前置詞「ina」は英語で「in」と訳され、「from」は「ana」と訳されます。この時、「to」や「for」といった前置詞の場合は次に続く言葉と合わさって1語になるにもかかわらず、inの場合は2語で表現されます。1語となるものと2語になるものの違いについては分かっておらず、これを映画でどう使用するかが課題となったとのこと。最終的にワシントン氏は、「より正式な場面では2語で表現し、緊急時あるいはカジュアルな会話の時には1語の方を割り当てる」と決めました。
加えて、映画では「感謝する」「助ける」「感じる」「振動する」「伝説」「神話」など、バビロニア語には存在しなかったと考えられる多くの言葉が交わされています。存在しない言葉であるため、規則性を持たせて翻訳することはできません。それぞれをケースバイケースで考える必要があり、ワシントン氏は都度利用できるフレーズがないかを調べ、可能な限り自然に聞こえるように翻訳を試みたそうです。この結果、「神話」はバビロニア語で「歌い手の嘘」と訳され、「周りの全てが振動しているのを感じる」というキャラクターのセリフには「周りのもの全てが自分に触れ続けているように感じる」という訳を与え、「feel(感じる)」と「vibrate(振動する)」を組み合わせた「iterative」という単語に相当する新しい言葉「lapātu」を「触れ続けている」という部分に当てたそうです。
エターナルズの翻訳作業について、ワシントン氏は「バビロニア語を話し言葉として処理するための素晴らしいトレーニングでした。これはずっと私が教育に取り入れようとしていたことです」と語っています。
なお、映画エターナルズの予告編は以下から見ることが可能です。
地球滅亡まであと7日の危機に立ち向かうアベンジャーズの後継ヒーローを描くマーベル映画「エターナルズ」最終予告編公開 - GIGAZINE
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