サイエンス

60年以上前に「生物学的な死」を宣告されたテムズ川にアザラシやタツノオトシゴなどの生物が戻ってきている


南イングランドを流れるテムズ川はイギリスの首都・ロンドンと海をつなぐ河川であり、ロンドンを舞台としたさまざまな創作物にも登場していますが、人間による汚染が深刻で1957年に「生物学的な死」を宣告されていました。ところが、近年では浄化努力によってテムズ川の水質は劇的に改善しており、テムズ川にアザラシやタツノオトシゴなど多種多様な生き物が戻ってきているとのことで、ロンドンの学術団体であるロンドン動物学会がテムズ川の環境について調査したレポートを公開しました。

The State Of The Thames 2021 | Zoological Society of London (ZSL)
https://www.zsl.org/natureatheart/the-state-of-the-thames-2021

Zombie river? London's Thames, once biologically dead, has been coming back to life : NPR
https://www.npr.org/2021/11/11/1054645619/state-of-the-river-thames-report-london

Seahorses and sharks living in River Thames, analysis shows | Rivers | The Guardian
https://www.theguardian.com/environment/2021/nov/10/seahorses-and-sharks-living-in-river-thames-analysis-shows-aoe

テムズ川は「シャーロック・ホームズ」や「ハリー・ポッター」などさまざまな作品に登場するロンドンの名所ですが、ロンドンが産業の中心になるにつれて垂れ流される工場排水や生活排水が増加し、1858年には「大悪臭」と呼ばれる記録的な悪臭が発生しました。そして1957年には、汚染がひどすぎて生物の生存に適していないことから、ロンドン自然史博物館の科学者らによってテムズ川は「生物学的な死」を宣告されてしまいました。

ところが、その後は下水処理施設の拡張や産業排水の制限などにより、テムズ川の水質は劇的に改善しているとのこと。ロンドン動物学会はテムズ川における生態系を評価するため、16以上の協力組織に属する専門家の助けを借りた調査を実施しました。調査の様子はロンドン動物学会が公開している以下のムービーで確認できます。

Landmark State Of The Thamaes report launches - YouTube


ロンドン動物学会のAlison Debney氏は今回の調査について、テムズ川が「生物学的な死」を宣告されてから60年以上が経過した現在、テムズ川の環境がどれほど回復したのかを示すベンチマークを測定するものであると述べています。


メンバーはテムズ川の水質や川岸の堆積物について調査した他、一定の面積内に生息する二枚貝の数などを調べました。


テムズ川が「生物学的な死」を宣告された1957年の時点では、少数のウナギ程度しか生息していなかったとのことですが、2021年には115種以上の魚や92種の鳥、サメ、タツノオトシゴなどが生息しているとのこと。


研究者らは見つけた生物をトレーの中に入れ、種類や数などを確認しています。


多くの生物が戻ってきたテムズ川は、二酸化炭素の吸収源として地球温暖化に対抗する機能も果たしているとのことです。


今回のレポートでは、「(テムズ川は)ロンドン自体と同じくらい多種多様な無数の野生生物が存在する」と述べられています。2000年代初頭までほとんど見られなかったゼニガタアザラシハイイロアザラシがテムズ川で頻繁に見られるようになっていることや、1842年までにイギリスでの繁殖が断絶したソリハシセイタカシギがテムズ川で増加していること、イコクエイラクブカスターリースムースハウンドツノザメなどのサメ類が生息していることも報告されています。

テムズ川の水質に関する調査では、魚の生存にとって重要な溶存酸素量の増加や、過剰に増えると赤潮などの問題を引き起こすリン濃度の低下など、下水処理機能の向上による長期的な水質改善が確認されました。

レポートでは有望な結果が報告されている一方で、いくつかの懸念も記されています。テムズ川に生息する鳥や哺乳類の長期的な見通しは改善されている一方で、1990年代以降は魚の種類が減少しており、原因特定のためにさらなる研究が必要だとのこと。加えて、都市からの排水によって硝酸塩の濃度が増加している点も、水質悪化につながる可能性があると警告しています。

また、ロンドンの下水道システムの大部分は人口が現在の4分の1未満だった19世紀に構築されたことから、暴風雨などに伴って未処理の下水がテムズ川に流れ込む点も水質の脅威となっています。しかし、ロンドンではテムズ・タイドウェイ・トンネルという大型下水道の建設が進行中であり、2025年に予定通り建設が完了して運用されれば、未処理の下水がテムズ川にあふれるのを防げるとのことです。

by Jorge Franganillo

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in サイエンス,   生き物,   動画, Posted by log1h_ik

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