生き物

排水に含まれる抗うつ剤が魚の社会を混乱させている可能性

by Lance Anderson

2011年に行われた水質調査の結果から、処理済みの下水にも抗うつ剤が溶け込んでいることが判明しており、生態系に何らかの影響を与えることが懸念されていました。さらに、群れを形成する魚を抗うつ剤が溶け込んだ環境で飼育し、その社会的な行動を観察した実験により、実際に抗うつ剤が魚の行動に影響を与えていること判明したとのことです。

Field-realistic antidepressant exposure disrupts group foraging dynamics in mosquitofish
https://www.researchgate.net/publication/337226379_Field-realistic_antidepressant_exposure_disrupts_group_foraging_dynamics_in_mosquitofish

Antidepressants polluting the water can change fish behaviour - Scimex
https://www.scimex.org/newsfeed/antidepressants-polluting-the-water-can-change-fish-behaviour

Antidepressants in Our Waters Really Are Affecting Fish in a Strange Way, Study Shows
https://www.sciencealert.com/our-antidepressants-are-having-a-strange-effect-on-the-way-fish-hunt-for-food

選択的セロトニン再取り込み阻害薬の1種であるフルオキセチンは、「プロザック」などの商品名でアメリカを中心に広く使用されている抗うつ剤で、世界保健機関(WHO)が定める必須医薬品リストにも収録されています。特にアメリカでは精神科だけでなく一般内科内科でも処方されることから、1988年に認可されてから10年で1000万人が服用するほどの広がりを見せているとのこと。そのため、製薬会社と医師の癒着関係や抗うつ剤の乱用が問題として指摘されています。

by pxhere

そんな中、オーストラリアのモナシュ大学で生物学を研究しているジェイク・マーティン氏らの研究グループは、汚染に強いことで知られているカダヤシをフルオキセチンに暴露させる実験を行いました。まず最初の実験では、フルオキセチンが入っていない「対照グループの水槽」、フルオキセチンの濃度が1リットル当たり30ナノグラムの「低濃度の水槽」、1リットル当たり300ナノグラムの「高濃度の水槽」という3種類の水槽を8個ずつ合計24個用意して、各水槽に3匹ずつカダヤシを入れました。そして、カダヤシの好物である蚊の幼虫を水槽に入れて、餌の消費量を測定するとともに、フルオキセチンを処方してから効果が表れるまでの期間とされる28日間後にカダヤシの体重を測定しました。


その結果、「対照グループの水槽」およびフルオキセチンが「低濃度の水槽」では「魚の体重の標準偏差は、餌の消費量の正の予測因子」だということが分かったとのこと。標準偏差はデータの散らばりの度合いを示していることから、研究グループは「3匹の魚の体重に差があるほど、餌の消費量は大きいものでした。これらの水槽では、各個体が競い合うように餌を食べていたため、特に餌をよく食べた個体がいた水槽ほど多くの餌を消費したと考えられます」と述べています。

一方、フルオキセチンが高濃度の水槽では、魚の体重の標準偏差と餌の消費量との間に関係は見られませんでした。また、この実験と並行して3種類の水槽にカダヤシを1匹ずつ入れる実験も行いましたが、フルオキセチンの濃度と魚の行動や体重との間に関係は見られなかったとのことです。

マーティン氏は今回の実験について「高濃度の向精神薬にさらされた動物は社会的な行動を変化させてしまい、生態を予測することが困難になりました。これが原因となって、野生動物に対する化学物質汚染の生態学的影響が過小評価されている可能性があります」と述べました。

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in 生き物, Posted by log1l_ks

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