メモ

「コミュニティにタダ乗りする人」の存在を隠した方が全体の協力を促進できる


自分にとっては面倒なことであっても、「他の人もやっているから」と言われるとつい自分も行動してしまう、という経験に身に覚えがある人も多いはず。ペンシルベニア大学の研究チームが発表した論文では、たとえコミュニティ内に「他人に協力しないでコミュニティの恩恵にタダ乗りしている人」がいたとしても、その存在をコミュニティのメンバーに隠した方が、結果として全体の協力を促進できることが示されました。

False beliefs can bootstrap cooperative communities through social norms | Evolutionary Human Sciences | Cambridge Core
https://www.cambridge.org/core/journals/evolutionary-human-sciences/article/false-beliefs-can-bootstrap-cooperative-communities-through-social-norms/B549455CC7B0ED4B1A0A8F196EDF5FB7

Obscuring the truth can promote cooperation | Penn Today
https://penntoday.upenn.edu/news/obscuring-truth-can-promote-cooperation

1990年代末に立ち上げられたP2P方式のファイル共有ソフト・Napsterは、ユーザーが音楽ファイルなどを相互に共有する仕組みが成り立っていました。しかし、実際にファイルをアップロードするユーザーは全体の一部であり、多くのユーザーは単に自分が欲しいファイルをダウンロードするだけの「タダ乗り」ユーザーだったとのこと。

Napsterはユーザー同士の協力を促進するため、多くのユーザーがタダ乗りしていることを隠しました。そして、「全てのユーザーがファイルを共有している」と虚偽の主張を行ったり、「ユーザー全体の平均ファイル共有数」のみを発表したりしました。この戦術は人間が持っている公平性の社会的規範を刺激し、より多くのユーザーがファイルを共有することにつながったそうです。

この話を知ったペンシルベニア大学の博士研究員であるBryce Morsky氏は、Napsterが採用した戦略がその他のコミュニティにも適用できるのかという点に興味を持ちました。「一般的に協力に関する文献では、協力を得るためには互恵関係が必要であり、関係する相手の評判を知る必要があるとされています。しかし、Napsterのユーザーは匿名だったため、ファイルを受け取るだけで共有しない『不正行為』が広がっていたはずですが、それでも協力は続いていました。不正行為の程度を曖昧にすることはNapsterで機能しましたが、これはより一般的に真実であり、持続可能なのでしょうか?」と、Morsky氏は述べています。


Morsky氏らの研究チームは、コミュニティの形成と維持をシミュレートする数学的なモデルを作成し、コミュニティに協力しないメンバーの存在を隠した場合の影響を分析しました。

現実では、周囲で誰一人コミュニティに協力していなくても自発的に協力する人もいれば、周りの大勢が協力していてもタダ乗りを続ける人もいるほか、コミュニティに幻滅して離れる人もいるため、「○割の人間がコミュニティに協力していたら自分も協力する」というしきい値は人によって異なります。そのため、今回のモデルでは「コミュニティに協力し始めるしきい値」や、「理想的な協力レベルと現実の差に落胆してコミュニティを離れるしきい値」を個人によって異なる設定にしたとのこと。


研究チームはまず、「コミュニティに所属する自分以外の全員が協力している」と信じる「純真な人」がコミュニティに参加すると想定しました。この場合、新たに参加した「純真な人」は、周囲のほとんどが協力していると思い込んでいるため、自発的な協力を始めます。

ところが、やがて「純真な人」はコミュニティ内部の事情に精通し、「実際に協力している人は思っていたほど多くない」ことを知ります。すると、あらかじめ設定されていたしきい値に従って、コミュニティへの協力を辞めたり、コミュニティから離れたり、あるいは協力を続けたりします。今回の研究は、このような流れで構築される数学的なモデルに関する分析です。

モデル分析の結果、参加者が真の協力レベルに気付く割合を下げるか、コミュニティ内の真の協力レベルを隠して実際より高いと偽り続けると、全体の協力レベルが高くなることがわかりました。また、早い段階で真の協力レベルに気付く賢い人は早いうちにコミュニティを抜けてしまいますが、結果的にはコミュニティ全体の協力レベルは高い状態が保たれるとのこと。


Morsky氏は、周囲の協力レベルが高くなければコミュニティに協力しないと考えている人が多い場合、実際にコミュニティに協力している人の正確な割合を明らかにせず、実際より多い数値を伝えた方が全体の協力レベルが上がる可能性があると主張しました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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