「宇宙には始まりなどなかった」との指摘、ビッグバンの前から宇宙は無限に続いていたという新説とは?
一般相対性理論では、宇宙は今から約138億年前に発生したビッグバンでできたとされていますが、一般相対性理論ではビッグバンで急膨張する前に宇宙が一点に凝縮されていた「特異点」について説明できません。この問題に取り組む科学者らが2021年9月24日に、「宇宙にはそもそも始まりがない」とするアプローチを提唱しました。
[2109.11953] If time had no beginning
https://arxiv.org/abs/2109.11953
What if the universe had no beginning? | Live Science
https://www.livescience.com/universe-had-no-beginning-time
原子より小さいミクロの世界から、広大な宇宙までを全て解明できる理論は記事作成時点では登場していないため、現代の物理学者は量子力学と一般相対性理論という2つの理論を使っています。量子力学は、自然界に存在する4つの力のうち電磁気力・弱い力・強い力の3つについて記述するもので、一般相対性理論は残りの1つである重力について記述するものです。
アインシュタインが1915年に発表した一般相対性理論は、「宇宙の見方を変えた」とまで言われている重要な理論ですが、不完全な部分もあります。それは、ブラックホールの中心や宇宙が始まったとされる一点にある、エネルギーが無限大の領域「特異点」を説明できないという問題です。
物理学者は特異点の謎を解明するため、量子力学と一般相対性理論を統一する量子重力理論を探しており、その候補には超ひも理論やループ量子重力理論などさまざまな理論があります。イギリス・リバプール大学の物理学者であるブルーノ・ベント氏が研究している因果集合理論もその1つです。
因果集合理論では、時空を連続した存在だと考える一般相対性理論とは異なり、時間と空間は非連続的な「時空原子」でできていると捉えています。この考えに立つと、画像を1つのピクセルより小さく分割することができないのと同様に、物体も時空原子より小さな領域に詰め込むことができないということになります。つまり、宇宙の全てが一点に詰まっていたビッグバンの特異点も存在しないことになります。
by NASA Universe
因果集合理論を使えば、ビッグバンの特異点の問題をうまく説明できますが、代わりに「ビッグバンの前の宇宙はどうだったのか?」という疑問が生じます。この謎に挑んだベント氏は、インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者であるスタブ・ザレル氏と共同で発表した論文の中で「古典的な考え方から言えば、宇宙は因果関係の連なりによって無から現在の姿へと成長したことになりますが、私たちの理論では因果関係が過去に向かって無限に続くと考えるので、何かが起きる前には必ず何かが起きていたことになります。つまり、そもそも宇宙の始まりはなかったわけです」と論じました。
ベント氏らの研究結果によると、宇宙はビッグバンで始まったのではなくそのずっと前から常に存在しており、「たまたまビッグバンの爆発で現在の姿になっただけ」と解釈されるとのこと。始まりがないと言われてもあまりピンときませんが、ベント氏は「この話に限らず、現実にはSFやファンタジーだと思ってしまうようなものがたくさんあります」と話しました。
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