世界各地で撮影された写真のはずなのに「同じ空」が写っている奇妙なポストカードが大量に存在する理由とは?
名所の写真を裏面に印刷したポストカードは、観光地のお土産などでよく見かけます。ところが、カナダに住むコレクターの男性が「それぞれ別の場所の写真にもかかわらず、背景に同じ空が写っている奇妙なポストカード」を大量に発見したとのことで、その謎に迫るムービーが公開されています。
The mystery of the "same sky" postcards - YouTube
カナダのブリティッシュコロンビア州に住むジェームズ・ブラウワー氏は、レコード・写真・古い額縁など、さまざまなものを収集するコレクターです。
そんなブラウワー氏がコレクションするものの1つに「ポストカード」があります。ブラウワー氏はポストカードの写真の構図に着目し、似た構図のポストカードをまとめて収集しているとのこと。
そんなブラウワー氏はある時、自分すら気付いていなかった「奇妙な共通点」を持つポストカード群が存在することを発見しました。そんなポストカードが入っている箱がこれ。側面には「SAME SKY(同じ空)」と記されています。
箱に入っているポストカードを並べてみると……
奇妙な共通点が浮かび上がります。
手前の風景や建物はそれぞれ違うのに、背景に「同じ空」が写っているのです。
カナダのアルバータ州
アメリカ・カリフォルニア州のレッドランズ
メキシコのシウダー・フアレスなど、撮影場所は違うのに雲の形が一致しています。
ブラウワー氏はこの雲を見て、細長いヘビのような怪物を連想したとのこと。
雲の形は同じですが、背景のどこに写っているのかは写真ごとにまちまちです。時には左や右へずれたり、写真の上の方にはみ出したり、反転したりしていることもあります。
また、ヘビのような雲が写った空以外にも複数の空が、ポストカードに繰り返し登場しているとのこと。
たとえば、ある空にはキューバのような形の雲が確認できます。
ブラウワー氏は収集したポストカードを画像共有サイトのFlickrで公開しており、同じ空が写った大量のポストカードは「Same Sky Postcards」という名称のページで見ることができます。
Same Sky Postcards | Flickr
https://live-fts.flickr.com/photos/94207108@N02/albums/72157633060241527
ブラウワー氏が収集するポストカードは、1940年代後半~現代にかけて発売された「Chrome era Postcards(クローム時代のポストカード)」と呼ばれるものです。
この名称はコダックが発売した世界初のカラーフィルムであるコダクロームに由来しています。
クローム時代のポストカードは独特の光沢やパンチの効いた色合いのカラー写真を使っているのが特徴であり、特に1940年代~1970年代にかけて広く流通しました。
ブラウワー氏が収集したポストカードを調査したところ、「同じ空」が写っているポストカードはいずれも「DEXTER PRESS」というメーカーが製造したものであることが判明したとのこと。
DEXTER PRESSはクローム時代における世界最大のポストカードメーカーの1つであり、ニューヨーク州に本拠を置いていました。
ポストカードの説明書きによると、DEXTER PRESSはピーク時に1日400万枚ものポストカードを印刷していたそうで、カラー写真を基にしてはがきを印刷する「Natural Color(ナチュラルカラー)」というプロセスのパイオニアだったとのこと。
DEXTER PRESSが何かしらの理由で写真の背景を「同じ空」に差し替えたことはほぼ確実です。その理由については、DEXTER PRESSが「この空が顧客の目を引きつける」と考えた説や、「DEXTER PRESS製のポストカードだと示す署名代わり」という説も挙げられています。
DEXTER PRESSは異なる印刷物を1つの版で印刷するギャンギングという手法の特許を取得しており、これによって小規模なはがき販売者の印刷を引き受けることが可能となりました。
ブラウワー氏は「DEXTER PRESSは背景に同じ空を使い回すことが視覚的な署名を残す方法だと考えたのではないでしょうか」と推測しました。
ところが、ポストカード関連のオンラインマガジン・Postcard Historyの発行者であるビル・バートン氏はこの仮説を否定しています。
バートン氏は、DEXTER PRESSが自社にアーティスト部門を抱えており、「ポストカードにしたい画像にある問題を修正するサービス」を提供していたことを指摘。
たとえば、何らかの理由で写真の空が顧客の要望通りではなかったとします。
この場合、DEXTER PRESSのチームは手前の建物や人物のみを切り取って……
背景のみを手持ちのストック画像に差し替えていたとのこと。
こうして背景を差し替えた結果が「同じ空を背景に持つ大量のポストカード」だろうとバートン氏は主張しました。
わざわざお店で複数のポストカードを購入し、その背景に写っている空を照らし合わせて確認する人はまれです。
そのため、ブラウワー氏のように熱心なコレクターが現れるまで、DEXTER PRESSの行った「同じ空」の使い回しが今日まで明らかにならなかったと考えられます。
ブラウワー氏はコレクターとして、「同じパターンを繰り返す芸術作品」に影響を受けたとのこと。
それは、ポップアートの巨匠であるアンディ・ウォーホルが制作した同じパターンを繰り返す芸術作品や……
類似したパターンを示す産業用の建物や構造の写真を並べたベルント&ヒラ・ベッヒャーの作品です。
「同じ空」を使ったポストカードを並べるとそこに奇妙な意味が生まれ、単なるポストカード以上の存在になるとブラウワー氏は述べました。
・関連記事
1920年の消印のハガキが100年後に配達される - GIGAZINE
大正6年から昭和25年までの日本の姿を収めた写真がネットで公開中 - GIGAZINE
1985年~1986年の大阪で撮影された1000枚超ものモノクロ写真が一挙公開、その時代に生きた人々の息づかいが感じられる写真集に - GIGAZINE
写真撮影の歴史をたった5分で振り返る「The History of Photography in 5 Minutes」 - GIGAZINE
20世紀から現代までのカメラの歴史を名機で振り返るムービー「HISTORY OF THE PHOTO CAMERA」 - GIGAZINE
17万枚の貴重な1935~1945年当時のリアルな風景がわかる写真を好きなだけ見て探せる「Photogrammar」 - GIGAZINE
・関連コンテンツ