アメリカの5兆ドル規模の医療制度のお金の流れをグラフ化するとこうなる

アメリカの医療制度は年間約5兆ドル(約800兆円)という膨大な支出が複雑に絡み合う巨大なシステムとなっています。そのシステムの構造をコラムニストのアンドリュー・ツァン氏は「われわれが創り上げた『忌まわしい怪物』」と表現し、その全体像を可視化しようと試みています。
An Abominable Creature - by Andrew Tsang
https://healthisotherpeople.substack.com/p/an-abominable-creature

以下がツァン氏の作成したサンキー・ダイアグラムで、2023年にアメリカで行われたあらゆる医療上の決定を含む4.9兆ドル(約778兆円)の医療関連支出について、矢印の色で流れの種類、太さで流れの量を表現しています。一番左の4軸は「誰が最初にお金を出しているか」という医療費の原資を示しており、一番上が「Taxpayers(納税者)」で政府による保険や福祉制度、2番目は「Employers(雇用主)」で福利厚生や従業員向け健康保険など、3番目は「Individuals & Families(個人・家族)」で家庭が直接負担している分、一番下は「Philanthropy & Research Grants(慈善・研究助成)」で医学研究や新薬開発などを表しています。これらの異なる論理で集められた資金が、1つの医療システムに流れ込んで複雑に絡み合っている状態を、ツァン氏は「忌まわしい怪物」と表現しました。

アメリカの医療関連支出の問題点として、ツァン氏はまず「個人に二重の支払いを強いている」点を挙げています。例えば雇用者の場合は一般税、給与から天引きされる税金、給与から支払われる保険料と複数の場所で医療費を支払っています。それに加えて自己負担分もあるため、単一支払者制度を採用している国に比べて「非効率」であるとツァン氏は述べています。

アメリカの医療制度の異常性を示すために、ツァン氏はイギリスの国民保険サービス(NHS)のサンキー・ダイアグラムも以下のように示しています。イギリスの医療制度は「ベヴァリッジモデル」と呼ばれる「医療は権利であり、税金で賄われ、サービス提供時には無料であるべきだ」という考えに基づいた形式であり、イギリスの2024年の医療費支出約3170億ポンド(約60兆円)の81%が一般税から賄われています。そのため、アメリカのサンキー・ダイアグラムと比較するとスッキリした構造であるとツァン氏は述べています。

また、ドイツでは国民が基金に料金を支払い、基金が医療活動に支払いを行う「ビスマルクモデル」が採用されています。ビスマルクモデルでは雇用主と従業員が給与の14.6%を医療費として負担し、140の競合する健康保険組合から選択して納付します。競争による国民皆保険制度とドイツ政府の規制による費用抑制により不当な価格設定が防がれています。以下の図の青色で示されている労働者・雇用者負担が大半であり、一定以上の年収がある人は民間保険(紫)に加入できるほか、長期介護(オレンジ)は独立したシステムとして運営されることで家庭の破産や病院の混雑を回避しています。

ツァン氏の図には含まれていませんが、日本の場合はイギリスやドイツのような単純さと、アメリカの複雑さの中間くらいに位置しています。日本はビスマルクモデルのように国民皆保険制度を採用しており、保険料とは別に税金や1~3割の自己負担で構成されています。資金の流れは複数あるものの、価格統制と皆保険によって全体はある程度整理された構造になっていると言えます。
それではなぜアメリカがイギリスやドイツのような単純な医療制度ではなく過度に複雑化してしまっているかについて、ツァン氏は「アメリカは技術的には単純な制度を選択できますが、政治的には不可能です」と述べています。ベヴァリッジモデルの場合は税金によって共同で賄われるため、巨額の増税や民間保険の廃止などを含めて国民が合意する必要があります。ビスマルクモデルの場合は政府の価格統制が重要な役割を担っていますが、アメリカの連邦政府が同様の規制を一律で定めることは難しいと考えられます。ツァン氏は「私たちは、何を重視するかについて、これまで一度も合意したことがありません」と語っており、その多元主義がアメリカの哲学としてあるため医療制度も複雑な選択肢が存在していると指摘しました。
ツァン氏は「私たちは、あらゆる場所、あらゆるものに費用がかかるシステムを構築しました」とアメリカの医療制度を表現しました。イギリスが単一支払者制度を導入したのは1948年、ドイツが規制された競争モデルを構築したのは1883年と歴史的に根強いものであり、既に制度が複雑化した状態で「医療制度を改善する」というのは、どこかの流れを変えるだけで根本的な改善にはなりません。ツァン氏は「問題は、この生き物のような図が美しいか怪物的かということではありません。私たちが作ったものを図として見た後、それについて何をしたいかということです」と語っています。
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in メモ, Posted by log1e_dh
You can read the machine translated English article Graphing the flow of money in America….







