火星で使われるコンクリートは宇宙飛行士の「血と汗と涙」で作られる可能性
地球から火星へ物資を輸送するには高いコストがかかり、たった1つのレンガを火星へ送るのに200万ドル(約2億2000万円)の費用がかかるとも言われています。そのため、資源の調達は人類が火星への居住を試みる上でネックとなりますが、新たにマンチェスター大学の研究者が「火星で調達可能な建築素材」について実験を行った結果、人間の体液に含まれる成分を岩石と混ぜることで、コンクリートの製造に成功しました。
Blood, sweat and tears: extraterrestrial regolith biocomposites with in vivo binders - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2590006421000442
Affordable housing in outer space: Scientists develop cosmic concrete from space dust and astronaut blood
https://www.manchester.ac.uk/discover/news/affordable-housing-in-outer-space-scientists-develop-cosmic-concrete-from-space-dust-and-astronaut-blood/
マンチェスター大学のアレッド・ロバーツ氏らは、人間の血漿(けっしょう)中に多く含まれるタンパク質のヒト血清アルブミン(HSA)が接着剤として機能し、HSAと火星の岩石、水だけでコンクリートを製造できる可能性があることを突き止めました。ロバーツ氏らは実際にHSAと月または火星の惑星模擬物質、純水を用いてコンクリートの製造を試みた結果、20時間以上を費やして製造に成功。その強度は、火星の惑星模擬物質を使用した場合およそ1.9MPa~9.3MPa、月の惑星模擬物質を使用した場合およそ6.1MPa~25.0MPaでした。なお、通常のコンクリートであれば、大規模な修繕無しで30年程度利用できる強度が「18MPa」と定められています。
さらに、強力なタンパク質変性剤となる尿素を混入して製造したところ、強度が全体的に112%~324%増加し、通常のコンクリート以上の強度をたたき出したとのこと。なお、今回の実験では実際に火星で製造することを想定してシンプルな機材を採用していたため、より高度な技術をもってすればさらに強度が増す可能性があるとロバーツ氏らは述べています。
ロバーツ氏らは「HSAは人間の血液中に1リットル当たり40g~45gの濃度で存在し、宇宙飛行士が献血を行うことで、1日当たり12g~15g採取することができます。私たちの計算では、6人の宇宙飛行士から72週間かけてHSAを採取することで、初期のコロニーを着実に拡大することができます」と述べています。また、血液や尿に限らず、髪の毛や爪、汗、ふん便なども建築素材として利用できる可能性があるとのこと。
さらに、宇宙飛行士の生理学的負担のためにHSAが結合剤として使用できないことが判明した場合、牛、ウサギ、山羊、またはその他の哺乳類から取れる血清アルブミン(MSA)も使用できる可能性があるとロバーツ氏らは述べています。ただし、月または火星での有人探査に人間以外の哺乳類を連れて行くということは、心理的な負担を解消したり、食糧問題を解決したりできるとして研究が進められているものの、残念ながら現在の技術では困難とされています。
ロバーツ氏らは「人間の体液を建築素材とすることで、居住スペースを着実に拡大できる可能性があります。ただし、低重力や高放射線環境において、宇宙飛行士の健康に影響を与えない程度に採取できるHSAの量を正確に決定する必要があるため、さらなる調査が必要です」と述べました。
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