サイエンス

勃起不全治療薬を心血管系や脳に効果がある「万能長寿薬」としてインフルエンサーやオンラインクリニックが宣伝している


近年は長生きしたがる人々をターゲットにした「長寿産業」が盛んであり、インフルエンサーが健康にいいとされる薬や食品を宣伝したり、オンラインクリニックが長寿に役立つ薬の処方箋を出したりしています。そんな中、一部のインフルエンサーやオンラインクリニックは勃起不全(ED)治療薬である「タダラフィル(シアリス)」を長寿薬として宣伝しているとのことで、海外メディアのNPRが専門家の意見なども交えて報じました。

Some people are taking Cialis for more than sex : NPR
https://www.npr.org/2026/08/17/nx-s1-5928263/cialis-viagra-tadalafil-longevity-heart-health

シアリスは日本でもED治療薬として処方されている一般的な薬で、肺動脈性肺高血圧症前立腺肥大症による排尿障害などにも使用されています。シルデナフィル(バイアグラ)との主な違いは、シアリスは翌日になっても作用が持ち越されるという点です。

近年発表されたいくつかの大規模な研究では、シアリスを服用している男性は心血管疾患のリスクや死亡率が低いだけでなく、場合によっては認知症を発症する可能性も低いことが報告されています。これらの研究結果はあくまで観察研究であり、シアリスと死亡率などの関連性を調べることはできても、「シアリスを服用することで死亡率が下がる」といった因果関係を証明することはできません。


これらの研究結果は、オンラインでの長寿に関する議論で注目を集めています。すでにスタンフォード大学の神経科学者兼ポッドキャスターのアンドリュー・ヒューバーマン氏や、不老不死を追求するテクノロジー界の大物ブライアン・ジョンソン氏らなどのインフルエンサーが、シアリスを性行為以外の目的で服用するアイデアを提唱しています。

女性にも賛同者は存在し、長寿に関するインフルエンサーであり分子腫瘍学の博士号を持つクリスティー・サウィッキー氏は、「シアリスは無害に思えます。むしろ血流を促進する効果があり、脳や心臓にとって良い影響を与えるでしょう」とコメントしています。

実際にサウィッキー氏は、ダイエットなどに使われるGLP-1受容体作動薬の処方を受けるために利用していたオンラインクリニックを通じ、1年前からシアリスを服用し始めているとのこと。サウィッキー氏の家族には心臓病の既往歴があるため、シアリスは心血管系の健康を保つ手っ取り早い方法だと感じているそうで、ジムでのトレーニング効果向上といった効果も実感していると語りました。


シアリスやバイアグラにはシグナル伝達分子の分解を阻害して血管の平滑筋細胞を弛緩(しかん)させ、血管を拡張して血流を改善する効果があります。この効果は特定部位だけでなく全身に作用するとのことで、これが心血管疾患のリスク低下などに関係している可能性があります。

南カリフォルニア大学のロバート・クローナー博士らが行った研究では、シアリスを服用した8000人以上の被験者は対照群と比較して、心血管疾患による死亡率が55%低く、全死因による死亡率が44%低いことがわかりました。

クローナー氏は「これ(シアリスの服用による心血管疾患のリスク低下)は真剣に議論すべき分野です。心血管疾患は依然として最大の死因であり、効果が期待できる可能性のある薬剤は存在するものの、さらに多くのことを学ぶ必要があります」と述べています。

また、合計50万人以上を対象にシアリスやバイアグラの影響を調べた別の研究では、シアリスを服用した人において認知症リスクが32%低下したことが示されました。この研究を主導したテキサス大学医学部のディートリッヒ・ジューレ博士は、「私は特に認知症に関する部分に興味をそそられました」とコメントしました。

クローナー氏やジューレ氏のような研究者は、これらの結果はあくまで観察研究に基づいたものであるため、結果は慎重に解釈するべきだと強調しています。ED治療薬を求める男性の死亡率が低いことには別の要因が関わっている可能性もあるほか、女性への影響も十分に研究されていません。その上でクローナー氏は、「シアリスは心臓専門医が日常的に推奨している薬ではありませんが、これらの薬は一般的に非常に安全です」と述べています。


シアリスに関する既存のマーケティングのほとんどは、サウィッキー氏が利用しているようなオンラインクリニックによるものです。サウィッキー氏が宣伝しているAgelessRxというオンラインクリニックは、長寿を目的とした低用量のシアリスの処方箋を月額70ドル(約1万1200円)で販売しています。

AgelessRxの医療ディレクターであるジェネル・デッカー博士は、 40歳以上の男女両方にこのサービスを提供するに値するだけの、十分なデータがあると主張しています。デッカー氏は、「長寿という問題に関しては、多くの事柄について推測しなくてはなりません。なぜなら症状が現れるまで待っていては、手遅れになってしまうからです」と述べています。

しかし一部の専門家は、人間における詳細なデータがないままシアリスを適応外使用することに懸念を抱いています。クリーブランドクリニック心血管胸部研究所の最高学術責任者を務めるスティーブ・ニッセン博士は、「有害性の証拠がないからといって、有害性がないとは限りません。無作為化比較試験のデータがない状況では、正当化するのは非常に難しいといえます」と語りました。

シアリスと心血管系の健康や死亡率に関する議論はオンラインを超え、2026年6月にはEDや心血管系の健康に焦点を当てた専門家会議のプリンストン・コンセンサス・パネルでも議論されました。正式な勧告はされていないものの、プリンストン・コンセンサス・パネルは「動脈プラークの蓄積により心血管疾患を発症するリスクが高い一部の男性にとって、低用量シアリスは適切である」という合意に達したとのこと。

プリンストン・コンセンサス・パネルの共同議長を務めたマーティン・マイナー博士は、シアリスの広範な使用を支持することにためらいを感じたメンバーもいたと認めています。その上でマイナー氏は、「この国(アメリカ)では平均寿命の差が大きいため、男性には私たちが提供できるあらゆる支援が必要だと私は考えています」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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