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なぜ慈善団体は寄付を集めるために「苦痛を伴うチャレンジ」を開催するべきなのか?

by Kymberly Janisch

慈善団体への寄付を集めるチャリティーでは、参加者や関係者がさまざまなチャレンジを行うケースがあります。たとえば長距離を走るチャリティーマラソンがその一例で、他にも下着姿で走ったり頭髪を剃ったり断酒したり屋外で眠ったりといったさまざまなチャレンジが寄付を募るために行われています。このように、チャリティーのために苦痛を伴うチャレンジを行うことのメリットについて、クイーンズランド工科大学のマーケティング教授であるGary Mortimer氏らが解説しています。

The Martyrdom Effect: When Pain and Effort Increase Prosocial Contributions - Olivola - 2013 - Journal of Behavioral Decision Making - Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/bdm.767

The 'martyrdom effect': why your pain boosts a charity’s gain
https://theconversation.com/the-martyrdom-effect-why-your-pain-boosts-a-charitys-gain-164486

たとえ慈善精神にあふれた人であっても個人が寄付できる金額には限りがあるため、チャリティーのために目立つチャレンジを行って周囲の注目を集めることには意味があります。しかし、注目を集めるだけであれば必ずしも参加のハードルが高いマラソンを開催したり、冷たい氷水を頭からかぶる「アイスバケツチャレンジ」を広めたりする必要はなく、別の苦痛を伴わないやり方で人目を集めることは可能です。

しかし、慈善団体が苦痛を伴うチャレンジを開催することは、人が持つ「何かを得るには痛みが必要だ」と感じる心理に訴えかけるとMortimer氏らは指摘。たとえば、世の中には「楽してダイエットできる装置」や「苦労せずに大金を稼ぐ方法」などを宣伝する企業や団体がありますが、過去の研究結果は人々がこうした「苦労や痛みを伴わずに利益だけを得ること」に懐疑的であることを示しており、この傾向が慈善団体への寄付活動にも影響しているとのこと。


2011年、プリンストン大学エルダー・シャフィール教授とウォーリック大学クリストファー・オリヴォラ氏(記事作成時点ではカーネギーメロン大学准教授)の研究チームは複数の実験を行い、寄付を行う人々が「苦痛を伴うチャレンジ」に参加することが、慈善団体への寄付を後押しする効果があることを発見しました。この効果は「殉教効果」と呼ばれています。

1つ目の実験では、被験者を「チャリティー目的のピクニック」あるいは「5マイル(約8km)のチャリティーラン」のいずれかに割り当て、任意の寄付金を支払ってチャリティーピクニックまたはチャリティーランに参加するかどうかを尋ねました。実験の結果、チャリティーピクニックに参加することを受け入れたのは86%であり、より苦痛が大きいと考えられるチャリティーランは76%でした。一方、参加者が自由に決められる寄付金額に目を向けると、チャリティーピクニックの参加者が平均13.88ドル(約1500円)だったのに対し、チャリティーランは平均23.87ドル(約2600円)と約2倍だったとのこと。

2つ目の実験では被験者にそれぞれ5ドル(約550円)の予算を与えて、その中から好きな金額を公共のプール施設に寄付できると伝えました。また、一部の参加者には「痛みを感じるほど冷たい水に1分間手を浸せば、自分が寄付した金額の2倍が公共プール施設に寄付される」と伝え、水に手を浸すかどうかを尋ねたとのこと。その結果、痛みを我慢して冷たい水に手を浸した被験者らは、苦痛を避けた被験者と比較して25%多く寄付したそうです。


3つ目の実験では、被験者を1マイル~20マイル(1.6km~32km)のいずれかに割り当てて、この距離のチャリティーランに参加するためにいくら寄付するかや、その距離を走ることにどれほど苦痛や努力を伴うかを尋ねました。すると、寄付金額と走行距離には有意な相関関係が見られなかったものの、「走るために必要な苦痛や努力の評価」が寄付金額を決定する重要な要因であることが判明したとのこと。

4つ目の実験では1つ目の実験と同様、被験者を「チャリティー目的のピクニック」あるいは「5マイルのチャリティーラン」に割り当てて、参加するかどうかや支払う寄付金額を尋ねました。しかし、その前に被験者に対し「チャリティーに参加した経験や寄付が自分にとってどれほど有意義か」と質問して、これに回答してもらったとのこと。その結果、被験者はチャリティーピクニックよりもチャリティーランの方が大幅に有意義だと考え、寄付金額もチャリティーピクニックが5.74ユーロ(約740円)、チャリティーランが17.95ユーロ(約2300円)と3倍もの差が出ました。


5つ目の実験ではチャリティーイベントの内容と寄付する対象の関係について調査するため、被験者に「食糧難の子どもを支援するために断食する」「食糧難の子どもを支援するためにピクニックをする」「公園に寄付するために断食する」「公園に寄付するためにピクニックをする」という4通りのシナリオを提示し、寄付金額がどのように変わるのかを調べました。

その結果を示したのが以下のグラフで、「Public Park(公園)」への寄付は「Fast(断食)」より「Picnic(ピクニック)」の方が多く、「Starving children(食糧難の子ども)」への寄付は断食の方がピクニックより多いことがわかります。一方、苦痛の少ないピクニックの方が断食より参加率が高いのも変わりませんでした。この結果からは、「寄付の目的とチャリティーイベントの内容を一致させた方が寄付金額が高くなる」という傾向が見て取れます。


一連の実験からは、苦痛を伴うチャレンジに参加した被験者ほど寄付金額が高くなる「殉教効果」の存在が見て取れます。そのため、資金集めに苦しんでいる慈善団体は、何かしらの苦痛を伴うイベントを開催することでより多くの寄付を集められるかもしれないと、Mortimer氏らは述べました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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