Unityと国防総省の契約に従業員が懸念を表明、意図せず軍隊を支援するテクノロジーを開発していた可能性も
ゲームエンジンの「Unity」は今やゲーム開発だけでなく、映画やエンジニアリングなど幅広い分野で利用されています。そんなUnityを開発するUnity Technologiesがアメリカ国防総省と契約しており、「従業員が気付かないうちに軍隊を支援するテクノロジーの開発を行っていた可能性がある」として、社内から企業倫理を問う声が挙がっています。
Unity Workers Question Company Ethics As It Expands From Video Games to War
https://www.vice.com/en/article/y3d4jy/unity-workers-question-company-ethics-as-it-expands-from-video-games-to-war
Unity’s Military Deals Raise Ethics Concerns For Workers—Report
https://kotaku.com/report-unity-employees-not-thrilled-their-work-is-supp-1847541134
Unityは2005年にmacOSに対応したゲーム開発ツールとして誕生し、記事作成時点ではインディーズゲームから大規模予算ゲームまで、幅広いゲームの開発に使われる世界有数のゲームエンジンとなっています。開発者はUnityのツールを使用して3D環境やモデルを作成するだけでなく、ゲームで何が起こるのかをスクリプト化したり、キャラクターの動作を指示するソフトウェアを作成したりできます。
また、近年のUnity Technologiesは自動車産業や映画制作、建築やエンジニアリングなど、ゲーム以外の分野にも進出しています。そんなUnity Technologiesはアメリカの国防総省とも契約を交わしているとのことで、Unity内部では「従業員が気付かないうちに、最終的に軍隊が使用するテクノロジーの開発に携わる可能性がある」との声が挙がっています。
アメリカのメディア・Waypointに情報を提供したUnityの元従業員や現従業員は、Unity Technologiesの全従業員が軍隊に関連するプロジェクトについて正確に知っているわけではなく、自分が取り組むプロジェクトの詳細にアクセスすることも難しいと指摘。さらに、特定のアプリケーションを目的としないAIツールの開発に取り組む従業員は、最終的に自分が開発したツールが軍事関連プロジェクトに利用されたとしても、それに気付くことは困難です。
情報提供者によると、政府や軍事部門との契約を主導するのはUnity Technologies内部で「GovTech」と呼ばれる部門だそうです。GovTechの作業は全てが内部で完結しているわけではなく、その他の部門の従業員が知らないうちに軍事関連のプロジェクトに携わることもあるとのこと。Waypointが入手した内部文書によると、ある従業員は「政府のシミュレーションプロジェクトのためのランダム配置方式」の開発だと聞かされていたプロジェクトが、実はアメリカ軍向けの「仮想の滑走路上にある爆発物片のシミュレーション」に関するプロジェクトだったことに、後になって気がついたそうです。
ある情報提供者はWaypointに対し、「社内研修では自分たちがやっていることが軍隊を支援する懸念があるのかどうか、はっきりしませんでした」「人々がUnityの軍事イニシアティブに足を踏み入れている時、それは明確に通知されるべきです」と述べました。
Waypointが入手した「GovTech Projects - Communication Protocol」という内部文書からは、GovTechが自分たちの取り組む作業が社内の反発を招きかねないものであり、契約について話す際は慎重になる必要があると認識していることがわかります。この文書は、「私たちは政府、特に国防総省との関わりについて人々が感じ取る、多様な価値観と信念に敏感である必要があります」と述べているとのこと。
また、文書ではプロジェクトについて従業員に説明するマネージャーに対し、「軍隊」という言葉の代わりに「政府」または「防衛」という言葉を使うように指示している他、GovTechのプロジェクトについて説明するマネージャーが「やるべきこと」および「避けるべきこと」のリストも含まれています。「やるべきこと」リストには「自分たちの作業が実際の戦闘には使用されないこと」「プロジェクトは国防総省にサービスやソリューションを提供するものであり、単一の製品を主導するものではないこと」を強調することが含まれ、一方の「避けるべきこと」リストには「シミュレートされたあるいは仮想の武器を使うプロジェクトや、誰かを傷つける訓練のプロジェクトについて話すこと」が含まれていたそうです。
さらに文書には追記として、「倫理原則はAIの新たな課題に対処し、部門によるAIの責任ある使用を保証します」とする国防総省の倫理原則によって、Unity Technologiesと国防総省の協力が正当化されることも示されています。なお、この文書は広範囲への配布を予定したものではなかったそうで、最終的にこの草稿をもとにした文書が配布されたのかどうかは不明です。
Unity Technologiesが国防総省と協力していることは隠されているというわけではなく、公式サイト上で政府機関やアメリカ空軍とのプロジェクトについて紹介されています。Waypointによると、Unity Technologiesは2020年6月にアメリカ空軍と交わした「マルチドメイン運用の高度な戦闘管理システムファミリー」に関する42万8000ドル(約4700万円)の契約など、2020年だけで総額60万ドル(約6600万円)を超える契約を国防総省と交わしているとのこと。
国防総省がUnityを利用する一例として挙げられているのが、南カリフォルニア大学が開発したシミュレーションプラットフォームの「RIDE(Rapid Integration&Development Environment)」です。RIDEはUnity以外のゲームエンジンもサポートしていますが、元々はUnityで作成されたものだそうです。
Introduction to RIDE: Rapid Integration and Development Environment - YouTube
RIDEを使えば、兵士がVRヘッドセットを装着して……
VR空間上でさまざまなシミュレーションを行うことが可能です。
RIDEでは戦車の操縦や武器の取り扱い、複数人での軍事作戦のシミュレーションが可能な他、敵軍を含むシミュレートされたキャラクターの行動を強化するAIも含まれているとのこと。
また、Unity Technologiesは2021年3月に「防衛アプリケーションの応用研究&プロトタイプ」に関する講演を開催し、その場にRIDEの開発者をゲストとして招きました。講演の中でUnityの政府ソリューション責任者を務めるJohn Cunningham氏は、「Unityはアメリカ政府に選ばれるリアルタイム3Dプラットフォームになることを約束します」「私たちの政府チームは、政府と防衛のために(新しいUnity)テクノロジーを活用する方法を特定し、必要に応じて新製品を開発することに重点を置いています」と述べたとのこと。
一連の懸念についてWaypointがUnity Technologiesに問い合わせたところ、「従業員が故意または無意識に戦争兵器の作成に参加したことがあるのか」「これまでどの程度の軍事契約を履行したのか」といった質問には、機密保持条項などの理由で回答を拒否しました。一方、社内には「徹底的なレビュープロセス」が存在しており、2018年にブログで発表した「UnityのAI倫理原則」や価値観に反することはないと主張しました。
Unity Technologiesでは2019年、イランやスーダンといった制裁対象国で取引をした石油企業・シュルンベルジェとの取引に対する社内の反発が高まったことを受けて、Sales Ethics Advisory Council(販売倫理諮問委員会/SEAC)が結成されています。SEACはUnity Technologiesが検討する新たなプロジェクトを精査し、問題があれば経営幹部に推奨事項を伝達するとのことで、実際に推奨に従って取引を拒否したこともあるとのこと。しかし、実際にSEACがどのように運営されているのか、どのような判断基準に基づいて決定を下すのかが不透明であるため、Waypointの情報提供者はSEACにも問題があると指摘しています。
Waypointがコメントを求めた後、Unity Technologiesのジョン・リッチティエッロCEOはSlack上で全社員に対して、Waypointが国防総省とUnity Technologiesの契約などについて報じるだろうと従業員に伝えました。その中でリッチティエッロCEOは、契約が徹底的なレビュープロセスに基づいたものであり、Unity Technologiesの原則や価値観に反するものではないと説明し、8月24日のミーティングで「完全な透明性」を提供すると約束しました。情報提供者によると、このメッセージに対する社内の反応はさまざまであり、軍隊との協力に怒りを表明するグループ、動揺しているものの記事を読むまで判断を差し控えるグループ、アメリカの軍隊を支援することに理解を示すグループなどがあるとのことです。
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