電気自動車の航続距離を2倍にする可能性を秘めた「アノードフリーバッテリー」が開発される

近年は電気自動車(EV)の普及が進んでいますが、依然としてガソリン車よりも航続距離の面で不安があることから、EVへの買い替えに踏み切れない人もいるかもしれません。新たに韓国の研究チームが、EVの航続距離を2倍にする可能性を秘めた「アノードフリーバッテリー」を開発しました。
Synergistic Coupling of Host and Electrolyte Achieving 1270 Wh L−1 in Anode‐Free Lithium Metal Batteries - Han - Advanced Materials - Wiley Online Library
https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adma.202515906

Anode-Free Battery Doubles Electric Vehicle Driving Range | POSTECH
https://postech.ac.kr/eng/research/research_results.do?mode=view&articleNo=43617
EVのバッテリーは登場当時と比較して格段に進化を遂げており、満充電した場合の航続距離はおよそ200~750kmと幅広くなっています。しかし、航続距離の長いEVは価格が高い上に、ガソリン車の方が全体的に航続距離が長く、ガソリンスタンドと比較するとEV用の充電ステーションが街中に乏しいという問題もあります。
そこで、韓国の浦項工科大学校(POSTECH)や韓国科学技術院(KAIST)などの研究チームは、EVに使われている従来のリチウムイオンバッテリーを上回るエネルギー密度を持つ「アノードフリーリチウム金属バッテリー」を開発しました。
アノードフリーリチウム金属バッテリーとは、その名の通りバッテリーのアノード(負極)を完全に排除したバッテリーのことです。一般にリチウムイオンバッテリーでは、充電時にカソード(正極)のリチウムイオンがアノードへと移動して蓄積しますが、アノードフリーリチウム金属バッテリーではアノードが存在しないため、銅製の集電体に直接リチウムが沈着します。
不要な部品を取り除くことにより、同じサイズのバッテリーであってもより多くの内部空間をエネルギー貯蔵に充てることが可能になるというわけです。しかし、アノードを排除する設計には問題も存在します。
まず、リチウムが不均一に沈着するとデンドライトという針状構造が形成され、ショートや潜在的な安全性のリスクが高まります。また、充放電を繰り返すとリチウムの表面に損傷が生じ、バッテリー寿命が急速に短くなる可能性があるとのこと。

今回研究チームは、Reversible Host(RH、可逆性ホスト)とDesigned Electrolyte(DEL、設計電解質)を組み合わせた戦略を採用しました。RHは均一に分散した銀イオンナノ粒子が埋め込まれたポリマーフレームワークで構成されており、リチウムがランダムに沈着するのではなく、指定された場所に沈着するように誘導します。研究者らは、「簡単に言えばリチウム専用の駐車場のような役割を果たし、秩序立った均一な沈着を保証します」と説明しています。
また、DELはリチウム表面に酸化リチウムや窒化リチウムからなる薄くて強力な保護層を形成することで安定性を向上させます。この保護層は皮膚に貼ったばんそうこうのような役割を果たし、有害なデンドライトの形成を防ぎつつ、リチウムイオンが移動する経路を確保するとのこと。
新たに開発されたアノードフリーリチウム金属バッテリーは、100サイクル後も初期容量の81.9%を維持し、充放電の効率を表すクーロン効率は平均99.6%を達成しました。また、小型の実験室用セルだけでなく実際のEV用途に近いポーチ型セルでも、1270Wh/Lという高い体積エネルギー密度を達成しました。EVに使用されている従来のリチウムイオンバッテリーは約650Wh/Lであるため、アノードフリーリチウム金属バッテリーのエネルギー密度はおよそ2倍近くに達します。
論文の共著者であるPOSTECHのパク・スジン教授は、「この研究は、アノードフリーリチウム金属バッテリーにおける効率と寿命の問題を同時に解決することで、意義のあるブレイクスルーを実現しました」とコメントしました。

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in サイエンス, 乗り物, Posted by log1h_ik
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