サイエンス

わずか5%の発電所が「電力部門の二酸化炭素排出量の73%」を排出しているとの研究結果


石炭火力発電所は多くの二酸化炭素を排出しているため、気候変動に対処するために再生可能エネルギーを用いた発電への切り替えが急務とされています。世界221カ国にある3万近い発電所の二酸化炭素排出量を分析した新たな研究では、「化石燃料を用いる発電所のわずか5%が、発電による二酸化炭素排出量の約73%を排出している」ことが明らかとなりました。

Reducing CO2 emissions by targeting the world's hyper-polluting power plants - IOPscience
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/ac13f1

5% of Earth's Power Plants Create 73% of the Energy Sector's Emissions
https://www.vice.com/en/article/dyv5mm/5-of-earths-power-plants-create-73-of-the-energy-sectors-emissions

Top 5% Polluting Power Plants Account For 73% Of Global Emissions | OilPrice.com
https://oilprice.com/Latest-Energy-News/World-News/Top-5-Polluting-Power-Plants-Account-For-73-Of-Global-Emissions.html

Most of the power sector’s emissions come from a small minority of plants | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2021/08/most-of-the-power-sectors-emissions-come-from-a-small-minority-of-plants/

「再生可能エネルギーを使う発電所は環境によいものであり、化石燃料を使う発電所は環境に悪いもの」という認識を持つ人は多く、実際この言葉はある程度正しいものといえます。しかし、同じ化石燃料を使う発電所であっても発電効率はさまざまである上に、中には需要が高くなる一時期にだけ稼働してその他の時期は稼働しない発電所もあるなど、発電所の二酸化炭素排出の実態は複雑です。

そこで、コロラド大学ボルダー校の社会学教授であるドン・グラント氏が率いる研究チームは、221カ国にある2万9078基もの化石燃料発電所を対象に「二酸化炭素排出量のプロファイル」を作成しました。この作業は、発電所ごとの二酸化炭素排出量に関する詳細なデータを開示している一部の国では簡単でしたが、多くの国々では詳細なデータがなかったため、国際エネルギー機関(IEA)のデータや個々のプラントのエンジニアリング仕様などから排出量を推定したとのこと。


分析の結果、最も二酸化炭素排出量が多い発電所ワースト10は全て石炭火力発電所であり、いずれも生産するエネルギー量に対する二酸化炭素排出量が多い「非効率的」なものでした。ワースト10の発電所があるのは、ポーランド・インド・韓国・台湾・中国・ドイツ・日本の7カ国であり、世界で最も二酸化炭素排出量が多い発電所はポーランドにあるベウハトゥフ発電所でした。ベウハトゥフ発電所はヨーロッパ最大の石炭火力発電所であり、ポーランド国内の発電量のうち実に20%を占めています。

ワースト10の発電所はアジアに多く、中でも韓国からは3つ、インドからは2つの石炭火力発電所が世界のワースト10にランクインしていました。なお、日本からランクインしたのは愛知県碧南市にある碧南火力発電所であり、順位はワースト10位でした。

石炭火力発電が盛んな中国からは意外にも1つの発電所しかランクインしませんでしたが、これは中国の石炭火力発電所の多くが工業化の進んだ時期にまとめて建設されたため、発電効率という点ではバラつきが少ないことが理由だと見られています。一方、ドイツやインドネシア、ロシア、アメリカなどの国々では建設時期がバラバラであり、驚くほど非効率的な石炭火力発電所もあるそうです。


研究チームによると、ワースト10の石炭火力発電所は自国の石炭火力発電所の二酸化炭素排出量と比較して、実に28.2%~75.6%以上も発電効率が悪かったとのこと。また、「国内で最も非効率的な5%の発電所」が発電に関する国の二酸化炭素排出量に占める割合は、中国で約25%、アメリカや韓国で約75%、オーストラリア・ドイツ・日本では実に約90%に上ります。

さらに今回の研究では、世界中の発電に伴う二酸化炭素排出量のうち、実に73%が「最も非効率的なワースト5%の発電所」によって排出されていることも判明しています。これら5%の発電所は、平均的な発電所より14倍も二酸化炭素排出量が多いとのこと。「なぜこれらの非効率的な発電所が頻繁に使用されるのかは、将来の研究に残されたトピックです」と、研究チームは述べました。


もし、最も非効率的なワースト5%の石炭火力発電所が全て再生可能エネルギーを用いる発電所に置き換わった場合、電力部門の二酸化炭素排出量は73%削減されることになります。そこまで急激に変化しなくても、発電効率を国の平均レベルまで引き上げることができれば、オーストラリアやドイツでは電力部門の二酸化炭素排出量が25~35%減少するそうです。また、化石燃料を天然ガスに置き換えるといった方法でも、アメリカを含む多くの国で40%以上の二酸化炭素排出量を削減できるとのこと。

特に効果的なのが、発電所で排出される二酸化炭素を他の気体から分離して回収し、地中深くなどに貯留するシステム「Carbon dioxide Capture and Storage(CCS)」の導入です。ワースト5%の石炭火力発電所に回収効率85%のCCSを組み込んだ場合、電力部門の二酸化炭素排出量は48.9%減少すると研究チームは推定しています。

グラント氏は海外メディアのVICEに対し、「気候活動家が直面する課題の1つは、気候危機の責任を正確には誰が負っているのかを突き止めることです」とコメントし、今回の研究はその一歩だと主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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