鋼鉄の2倍・アルミニウムの3倍の強度を持つ「耐火ハイエントロピー合金」を新手法で作製、今後の金属の作り方を変える可能性

航空機から食器まで幅広い製品に使われる合金は、現代社会に欠かせない材料です。オーストラリア・モナシュ大学や中国・重慶大学などの研究チームが、原子の並びを制御する新たな方法によって、鋼鉄の2倍、アルミニウムの3倍の強度を持つ耐火ハイエントロピー合金を作製したことを報告しました。モナシュ大学はこの耐火ハイエントロピー合金を「世界初の『超合金(super alloy)』」と呼んでいます。
Strain-induced fully coherent triphase nanoarchitecture in refractory high-entropy alloys | Science
https://www.science.org/doi/10.1126/science.aec4995
Engineers create world-first ‘super alloy’ - Monash University
https://www.monash.edu/news/articles/engineers-create-world-first-super-alloy
World-First 'Super Alloy' Could Transform The Way Metals Are Made : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/world-first-super-alloy-could-transform-the-way-metals-are-made

一般的な金属は原子が規則正しく並んだ小さな領域である「結晶粒」が集まってできています。結晶粒の大きさを100nm未満にすると金属や合金の強度を高めることができ、10nm程度まで小さくすれば性能はさらに向上することが知られています。しかし、このようなナノサイズの結晶粒を持つ金属や合金を、まとまった大きさの塊として作るのは困難でした。
中国・重慶大学のユー・ジャン准教授やオーストラリア・モナシュ大学のジエンフェン・ニー教授らは、ハフニウム・ニオブ・タンタル・チタン・ジルコニウムを同じ原子数ずつ混ぜ、まとまった大きさの合金内部にナノ結晶構造を形成しました。1種類の金属を主成分にせず複数の元素を同程度の割合で混ぜたものは「ハイエントロピー合金」と呼ばれ、今回の合金は高温や極端な環境に耐えられる「耐火ハイエントロピー合金(RHEA)」に分類されます。
研究チームは5種類の金属をいったん高温で溶かして混ぜ合わせ、固体の合金にした後、比較的低いセ氏550度に保って数時間から数日かけて熱処理しました。この低温・長時間の熱処理によって、原子が自ら規則的な構造へ並び替わるよう促したことが今回の手法の特徴です。最も高い強度が得られたのは、熱処理を始めてから約32時間後の時点だったとのことです。

熱処理中には、5種類の金属を混ぜたことで生じる合金内部のひずみによって、固体の合金が異なる組成の領域へ分かれる「相分離」が発生。続いて通常とは異なる構造変化が生じ、体心立方格子構造(BCC)・面心立方格子構造(FCC)・六方最密充填構造(HCP)という3種類のナノ結晶が周期的に並びました。さらに、3種類のナノ結晶は境界部分でも原子の並びが途切れず、微細な欠陥や隙間を生じさせずにつながったとのこと。このように連続した構造が合金の強度と熱安定性を高めたと研究チームは説明しています。
こうして作られた耐火ハイエントロピー合金の圧縮降伏強度は2ギガパスカルを超えました。圧縮降伏強度は、合金に押し縮める力を加えた際に元に戻らない変形が始まるまで耐えられる強さを示す値です。研究チームによる比較では、圧縮降伏強度は従来の方法で作った同じ合金の約2倍に高まり、鋼鉄の2倍、アルミニウムの3倍に達しました。さらに、変形してもすぐに破断しない「延性」も保たれていました。

ニー教授は、今回の成果の意義は作製した合金そのものにとどまらないと述べ、重要なのは薄いコーティングやフィルム、顕微鏡サイズの試料だけでなく、まとまった大きさの金属の塊でも原子が欠陥のない構造へ自己組織化できると示した点だとしています。過去100年以上にわたる合金開発では、「どの元素をどの割合で混ぜるか」と「どのように加工するか」が重視されてきました。しかし今回の成果は、「製造中に原子をどのように並べるか」も同じくらい重要になる可能性を示しているとのことです。
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