なぜ人の目は「青色」に焦点を合わせることが難しいのか?
人々は青色の小物や家具、晴れた日の青い空や海などを普段から何気なく目にしています。ところが実際には、人の目は青色の光に焦点を合わせることが困難だそうで、科学系ブロガーのCaleb Kruse氏がその理由を解説しています。
Focusing on Blue - 10 Projects
https://calebkruse.com/10-projects/seeing-blue/
人の目で何が起きているのかを知るには、光がどのように移動するのかや、レンズがどのように光の焦点を合わせているかを理解する必要があるとKruse氏は指摘。まず、光速は常に一定というわけではなく、光が移動する媒体によって異なっています。たとえば、真空中を移動する光の速さは秒速約30万kmほどですが、ガラスの中を移動する場合は速度が50~70%ほどに低下するとのこと。
また、光はある媒体から別の媒体へ移動する時、速度が変わるだけでなく方向も変わります。ある媒体から別の媒体に進む光の速度および角度の変化はスネルの法則によって示されており、媒体の表面に対する入射角や媒体の屈折率により、光の進む方向が決定されます。
スネルの法則を利用して作られているのが「レンズ」です。レンズに対して平行に入ってくる光は、レンズの曲面や入射角、レンズの屈折率に応じて偏光し、レンズから出た後で1つの焦点を作り出します。この焦点を人間の網膜に合わせることにより、人は鮮明な画像を得ることができるようになっています。以下が、レンズが光を屈折させて焦点を作る仕組みを説明するためにKruse氏が作成した画像です。光はレンズに入る時だけでなく、レンズを出る時にも屈折していることがわかります。
上の例では光の波長(色)が一定であると仮定していますが、実際の自然光源はさまざまな色の光で構成されており、白色光であっても青、緑、赤などさまざまな色の光を含んでいます。そして、光の屈折率は色によって異なるため、白色光に含まれるそれぞれの色成分は異なる角度で屈折するために分割され、正確には単一の焦点に収束しません。色による分散で生じる像ズレのことを色収差と言います。Kruse氏が作成した以下の画像を見ると、白色光に含まれる青色光、緑色光、赤色光がそれぞれ異なる位置で焦点を結んでいることがわかります。
光の色によって焦点が違う以上、レンズから届く全ての色に焦点が合う単一の位置は存在しません。最新のカメラレンズではこの問題に対処できる特別なコーティングなどもありますが、人間の目を含む比較的単純なレンズには色収差を補正する仕組みが存在しません。そのため、人間の目はあえて色収差を補正するのではなく、「青色の光を切り捨てて、緑色と赤色の光が見えやすい場所に焦点面を配置する」という方法を選択しているとKruse氏は解説しています。
以下の画像を見ると、仮に青色光の見えやすい場所に焦点面を配置した場合、青色光と焦点の位置が離れている赤色光と緑色光は、焦点面で一点に集まらないことがわかります。この場合、赤色光と緑色光はぼやけて見えてしまいます。
一方、緑色光と赤色光は比較的焦点の位置が近いため、これらの光が見えやすい位置に焦点面を配置するならば、少なくとも2つの色を鮮明に見ることが可能です。こうした理由から、人の目は青色光を鮮明に見るのをあきらめて、緑色光と赤色光の付近に焦点面を置いているとKruse氏は述べています。
Kruse氏は人間が青色に焦点を合わせていないことがわかる例として、地球の画像を用いています。以下の画像は、アメリカ海洋大気庁(NOAA)とアメリカ航空宇宙局(NASA)が撮影した地球の写真です。
以下の画像は、Kruse氏が元画像から緑色光の要素を抽出してぼやかしたもの。地球の画像も全体的にぼやけているのがわかります。
一方、青色光の要素を抽出してぼやかした以下の画像では、地球の姿が鮮明に見えます。つまり、人間は普段から青色光をぼやけた状態で認識しているため、わざと青色光をぼやかしても違和感を覚えないというわけです。
Kruse氏は、人間の脳が青色光からいくつかの色情報を抽出しつつも、画像の鮮明さを緑色光と赤色光に委ねている仕組みについて、「このコンセプトは素晴らしいと思います」とコメント。「私たちの目は完璧なカメラだと考えることがよくあります。しかし、世界を解決するために全ての光学的欠陥を調節しているのは脳です」と述べました。
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