欧州中央銀行が独自のデジタル通貨「デジタルユーロ」の導入に向けた準備を開始
ユーロ圏19カ国の金融政策を担う欧州中央銀行が2021年7月14日、独自のデジタル通貨である「デジタルユーロ」の導入に向け、本格的な調査フェーズを開始すると発表しました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴って多くの人々が現金決済からデジタル決済に移行する中、デジタルユーロは現金を保管する役割を担うと期待されており、すでに予備的な調査や実験も行われているとのことです。
Eurosystem launches digital euro project
https://www.ecb.europa.eu/press/pr/date/2021/html/ecb.pr210714~d99198ea23.en.html
Preparing for the euro’s digital future
https://www.ecb.europa.eu/press/blog/date/2021/html/ecb.blog210714~6bfc156386.en.html
The ECB starts work on creating a digital version of the euro
https://www.cnbc.com/2021/07/14/the-ecb-starts-work-on-creating-a-digital-version-of-the-euro-.html
欧州中央銀行の理事会は7月14日、独自のデジタル通貨であるデジタルユーロプロジェクトの調査フェーズを開始することを決定しました。この会議に参加していた、ユーロ圏各国の財務相による会合・ユーログループの議長を務めるパスカル・ドノホー氏も賛意を示し、プロジェクトへの全面的な支持を表明したとのこと。
デジタルユーロの構想は以前から存在しており、欧州中央銀行は2020年10月に、デジタルユーロに関する(PDFファイル)報告書を発表していました。欧州中央銀行総裁のクリスティーヌ・ラガルド氏は、「私たちがデジタルユーロに関するレポートを公開してから9カ月が経過しました。その間、私たちはさらなる分析を行い、市民や専門家から意見を求め、いくつかの実験を行って有望な結果を得ました。これら全ての要因により、私たちはギアを上げてデジタルユーロプロジェクトを開始することを決定しました」と述べています。
発表された調査フェーズは24カ月にわたって継続され、ユーザーのニーズに基づいた機能設計に焦点を当て、プロトタイプの設計などが行われるとのこと。また、デジタルユーロが市場に影響を与える可能性を評価し、経済システム全体へのリスクを回避するためのオプションも特定するとしています。デジタルユーロに関する高レベルタスクフォースで議長を務めるPabio Panetta氏は、「私たちは欧州議会や他の欧州の意思決定者と協力し、私たちの調査結果について定期的に報告します。市民や商人、決済業界も関与するでしょう」とコメントしました。
Panetta氏は自身のブログ投稿の中で、「私たちはデジタルマネーの時代に突入しています。過去のコモディティや貨幣と同様に、デジタルマネーは社会とテクノロジーの変化に対応して出現しています」とコメント。以前からデジタルおよびオンライン決済の利便性や効率は大きなメリットでしたが、COVID-19のパンデミックに伴って多くの人々が支払い方法をデジタルに移行し、決済手段としての現金の役割は低下しつつあると指摘しています。
主権者は何世紀にもわたって安定性、安全性、信頼の象徴として市民に通貨を提供してきた歴史があり、欧州中央銀行もその使命に従うため、デジタルへの移行を無視することはできないとPanetta氏は主張。そこで、欧州中央銀行はデジタルユーロを発行する可能性に備え、製品設計に必要なリソースを投入することを決定したとのこと。
Panetta氏は、すでにユーロ圏の人々は安全で広く受け入れられた決済手段である現金にアクセス可能であるものの、これはデジタルおよびオンライン決済にも当てはまるべきだと考えています。「デジタルユーロは取引のコストを削減します。現在は金融サービスにアクセスできない人でもデジタル決済を利用可能にすることで、金融包摂を促進します。これにより、ユーザーはユーロ圏の全ての店舗と国で商品やサービスを購入できるようになります」と述べました。
デジタルユーロは多くの暗号資産とは違い、ユーロと同じく欧州中央銀行によって発行・管理されているため、流動性や信用、市場のリスクにさらされにくい点が特徴です。また、欧州中央銀行はユーザーのデータを収益化することに関心を持っておらず、データの商業的利用や不当なプライバシー侵害のリスクも低いとしています。一方、マネーロンダリングや犯罪組織への資金供与といった違法行為を防止するため、ヨーロッパの規制に準拠した適切かつ透明性が高い方法で、正当な当局のみがユーザーデータにアクセスできる仕組みも作る予定です。
今回の決定により、本格的な調査フェーズに突入するものの、実際にデジタルユーロを導入するかどうかは後のフェーズで判断されることであり、今回の調査フェーズ開始がすなわち導入決定を意味するものではないとのこと。また、デジタルユーロは現金に取って代わるものではなく、あくまで現金を補完するものになるだろうとPanetta氏は述べました。
欧州中央銀行とユーロ圏各国の中央銀行は2020年10月に報告書を発表してからの9カ月間に、「デジタルユーロの元帳」「プライバシーとマネーロンダリングの禁止」「デジタルユーロの流通量制限」「オフライン時のエンドユーザーアクセスおよび適切なデバイスによる包括性の促進」の4分野に関する実験を行ったとのこと。その結果、デジタルユーロの設計において主要な技術的障害はなかったとしています。
声明によると、24時間の資金移動をサポートする既存のインフラストラクチャー「TARGET Instant Payment Settlement(TIPS)」などをスケールアップすることで、1秒当たり4万件以上の取引を処理できることが確かめられたそうです。また、デジタルユーロの決済インフラストラクチャーに必要な電力は、ビットコインなどの暗号資産におけるエネルギー消費と比較して、無視できるほどに小さかったとのこと。
Panetta氏はブログの中で、「私たちの目標はこの2年間の調査フェースの終わりまでに、約3年かかる可能性があるデジタルユーロ開発の準備を整えることです」と述べました。
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