急増する半導体需要に対し製造工場はどのように対応しているのか?
半導体は電動歯ブラシからゲーム機、自動車に至るまで、数々の電子機器の頭脳として使われる部品です。世界の半導体の需要は年々増え続けており、世界半導体貿易統計(WSTS)は、半導体市場の成長率が2020年の6.8%から、2022年には28.5%にまで上昇するものと予測しました。需要がひっ迫する半導体の製造に対する取り組みについて、海外紙のワシントン・ポストが紹介しています。
Making semiconductors is hard - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/technology/2021/07/07/making-semiconductors-is-hard/
半導体を設計している企業は世界に数百社ありますが、実際に半導体を製造している企業は世界で20社未満。半導体製造工場の建設にかかる膨大な費用と数カ月にもわたる製造プロセスのせいで、供給はほとんど需要に追いついていません。そのうちの1つ、Global Foundriesは、TSMC、Samsungに次ぐ世界第3位の規模を誇る、アメリカの主要なファウンドリの1つです。
ファブと呼ばれる一般的な半導体製造工場の機械は、メンテナンスの時間などを除くと稼働率は90%です。半導体製造には700もの処理ステップがあり、ウェハーと呼ばれる基板を運ぶ機械は3カ月動きっぱなしで、稼働中にストップすることはほとんどないとのこと。
工場内で最も重要で高価な機械は露光を行うリソグラフィーマシンであり、その価格は1億ドル(約110億円)。Global Foundriesの工場の1つでゼネラルマネジャーを務めていたピーター・ベニオン氏は「機械が故障した時は迅速に修理することが重要です」と述べます。機械を素早く修理すればするほど、工場がより多くのチップを製造できるからです。2020年にGlobal Foundriesのリソグラフィーマシンが故障した際は、通常派遣されるリソグラフィーマシン製造元の技術者が新型コロナウイルス感染症の懸念のために来られず、AR(拡張現実)ヘッドセットを装着した工場の技術者が指導の下で直接修理したとのこと。
しかし、生産量を劇的に増やすためには工場そのものを新設することが最も効果的。世界的な半導体業界団体のSEMIによると、2022年までに29軒の新しい工場の建設が開始される予定だとのこと。内訳は中国と台湾で8軒ずつ、アメリカで6軒、ヨーロッパと中東で3軒、日本と韓国で2軒ずつです。
アメリカは1990年代初頭に世界の半導体の内およそ3分の1を製造していましたが、半導体企業がより安い労働力を求めたほか、台湾・中国・韓国が半導体製造に多額の助成金を出し始めたため、製造の拠点は次第にアジアにシフトしていきました。2021年時点で世界の半導体のうちおよそ4分の3はアジアで製造されており、規模の大きい工場の多くは台湾に拠点を置いているとのこと。
アメリカ政府は経済や国防の観点から、半導体製造においてアジアに過度に依存することを避け、半導体の国内での製造を後押しするため、半導体製造工場の建設と研究のために520億ドル(約5兆7000億円)の助成金の支給を承認しました。Global Foundriesの最高経営責任者は「政府からの助成金の一部を受け取った場合、アメリカの工場の生産量を少なくとも25%増加させることを計画している」と述べました。
しかし、Global Foundriesで機械の修理・システム管理を担当するクリストファー・ベルフィ氏は「困難なことの1つは、技術力のある人物を確保することだ」と述べます。ベルフィ氏自身はニューヨーク州立大学アルバニー校で技術の学位を取得し、ロボットエンジニアリングを趣味としているとのことですが、半導体製造に絞ったカリキュラムを提供する大学はあまりなく、同僚は元自動車整備士や元空軍整備士などで、専門的な知識が不足していると述べました。Global Foundriesは学位のない従業員に2年間のオン・ザ・ジョブ・トレーニングを提供し、コミュニティ・カレッジと協力してチップ関連のカリキュラムの設計を支援しているとのことです。
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