サイエンス

「家を清潔に保っても子どもの免疫力は損なわれない」と研究者が主張


近年ではアレルギー性疾患になる人が増えており、その理由として「現代の家が清潔に保たれているせいで子どもの頃に細菌やウイルスに暴露する機会が減り、免疫力が付かなかったから」と主張する人もいます。これに対し、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究チームは医学誌のJournal of Allergy and Clinical Immunologyに発表した論文で、「家の中を清潔に保っても子どもの免疫力は損なわれない」と主張しています。

Microbial exposures that establish immunoregulation are compatible with targeted hygiene - Journal of Allergy and Clinical Immunology
https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(21)00811-3/fulltext

Being clean and hygienic need not impair childhood immunity | UCL News - UCL – University College London
https://www.ucl.ac.uk/news/2021/jul/being-clean-and-hygienic-need-not-impair-childhood-immunity

衛生仮説」とは、乳幼児期にさまざまな細菌やウイルスに暴露することで人は免疫力を得て、その後のアレルギー性疾患などを防げるという仮説です。この仮説に基づき、「幼少期に清潔過ぎる環境に住んでおり細菌やウイルスにさらされない人は免疫システムが十分に発達せず、後にアレルギー性疾患になりやすい」という考えが存在します。

UCLの医療微生物学教授であるグラハム・ルーク氏は、確かに人間の腸や皮膚、気道に生息する微生物が、健康を維持する上で重要な役割を果たしていると指摘。「私たちは生涯を通じて、主に母親、その他の家族、自然環境に由来する有益な微生物にさらされる必要があります」と述べています。

ところが、近年では「微生物に触れることはよいことである」という考えを突き詰め、「手を洗ったり家を清潔に保ったりすることは微生物にさらされる機会を減らし、健康によくない」という考えも登場しているとのこと。そこで、ルーク氏の研究チームは新たな論文で、「病原体を排除するために清潔な状態を保つ」ことと「免疫や代謝を調整するために微生物を体内に取り込む」ことの対立を調整し、本当に身の回りを清潔に保つことが健康に悪影響を及ぼすのかどうかを調べました。


研究チームは健康を維持するために必要な微生物や、家の中で暴露する可能性がある微生物の種類を分析したほか、微生物を取り込む以外の方法による免疫力の強化や、家の掃除とアレルギー性疾患の関連を調べた研究についても調査。その結果、以下の4点が判明したと主張しています。

・1:家の中で微生物に暴露しても免疫力は強化されない
自然から離れた都会にある現代の家で見られる微生物の多くは、免疫力の強化に必要なものではなく、むしろ人間にとって有毒な代謝物を放出してシックハウス症候群を引き起こす可能性があるそうです。

・2:免疫力を強化するために「病原体」に感染する必要はない
病原体に対する免疫を獲得するには、必ずしも病原体そのものに感染する必要はなく、ワクチンを接種することでも免疫を獲得できます。また、これまでの研究から、1つの病気に対するワクチンは特定の病気だけでなく、その他の病気に対する免疫力まで強化する場合があることも示唆されています。


・3:家の中はなく自然に存在する微生物が重要
研究チームによると、人間の健康にとって大事な微生物は家の中に存在するタイプではなく、自然の中に存在するタイプだとのこと。フィンランドで行われた研究では、保育園の庭に森の土や草を導入して自然と触れ合えるようにしたところ、園児の体内の細菌叢が多様化し、免疫力が強化されたとの結果が報告されています。

・4:家を清潔に保つことはアレルギー性疾患を増加させない
2002年の研究では、「生後15カ月までの時点で高レベルの衛生状態を保っていた乳児は、生後30~42カ月時点での呼気性喘鳴やアトピー性湿疹になる可能性が高い」と示された一方、2015年の研究では家の清潔さがぜんそくやアレルギー性疾患のリスクと関連していないことが示されました。このように矛盾した結果が出た理由について、研究チームは「一種の洗浄剤にさらされることがアレルギー性疾患の発症を促進している可能性がある」と指摘しています。


以上の結果から、ルーク氏は「清潔過ぎて健康に悪い」という状態は存在せず、危険な病原体の感染を防ぐためにも衛生的な状態を保つ必要があると主張しています。また、洗浄剤の悪影響が気になる場合は、特に病原体の感染経路となりやすい手や皮膚の表面に注力して洗浄することで、その害を軽減することができるとのこと。「母親や家族、自然環境、ワクチンなどにさらされることで、私たちが必要とする微生物をインプットできます。これは、賢明にターゲットを絞った衛生管理や掃除と矛盾するものではありません」と、ルーク氏は述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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