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「極度の貧困に苦しむ世帯」は裕福な世帯の2倍以上も多くのエネルギーを消費している


一般的に裕福な暮らしを送るほどエネルギー消費量は増えると考えられており、「気候変動の大きな要因は『富』である」とも指摘されています。ところが、イギリス・リーズ大学の地球環境科学科でエネルギーフットプリントの研究を行うMarta Baltruszewicz氏は、「極度の貧困レベルにある発展途上国の人は、同じ国に住む裕福な人より多くのエネルギーを消費している」との研究結果を報告し、環境負荷の低減には不平等の解消が重要だと訴えました。

Household final energy footprints in Nepal, Vietnam and Zambia: composition, inequality and links to well-being - IOPscience
https://doi.org/10.1088/1748-9326/abd588

Reducing poverty can actually lower energy demand, finds research
https://theconversation.com/reducing-poverty-can-actually-lower-energy-demand-finds-research-159600

Baltruszewicz氏は、「結局のところ、極度の貧困を終わらせるための一般的な戦略は、『私たちは経済のパイを成長させる必要がある』という信念に依存しています」と指摘。つまり、社会全体がより多くの商品やサービスを生産し、消費者がそれらを消費できる好景気の状態を作り出すことで、貧困世帯を救えると考えられています。しかし、実際には好景気の利益を得られる層と得られない層の間に不平等が存在しており、極度の貧困状態にある人が恩恵を得られないケースも多いとのこと。

また、Baltruszewicz氏は「貧困」の問題が必ずしも「1日に使えるお金が一定額を下回ること」にあるのではなく、「衛生・教育・健康に関連する商品やサービスにアクセスできないこと」にあると主張しています。世界中では12億人が衛生的な水を利用することができないほか、30億人が料理のためにクリーンな燃料を使うことができず、汚染物質を排出する燃料を使って屋内で料理しているそうです。「確かに、収入は貧困層が直面する複数の欠乏状態の重要な予測因子ですが、唯一の予測因子ではありません」とBaltruszewicz氏は述べています。


そこでBaltruszewicz氏の研究チームは、発展途上国であるネパール・ベトナム・ザンビアで世帯調査を実施。収入に依存しない貧困状態の測定と、エネルギー消費量との関係を分析する研究を行いました。

研究チームは各世帯の生活状況を測定するため、「安全な水、食事、健康、教育、クリーンな燃料」へのアクセスに関する調査を行いました。また、国際エネルギー機関(IEA)のデータや複数地域の国際貿易データ、そして多様な支出や生活条件をカバーする詳細なアンケートを行い、家庭ごとのエネルギーフットプリントを計算したとのこと。このエネルギーフットプリントには家庭で直接使用される電気・調理用の薪などに加え、車両の運転に使うガソリン、家庭で消費された商品やサービスにかかるエネルギーが含まれていました。

このデータを分析した結果、クリーンな燃料や安全な水、基礎的な教育、十分な食料といったものにアクセスできる世帯は、ネパール・ベトナム・ザンビアにおける全国平均の半分しかエネルギーを消費していないことが判明しました。「この結果は重要です。なぜなら、『人々が極度の貧困から逃れるにはより多くの資源とエネルギーが必要となる』という議論に真っ向から反するからです」とBaltruszewicz氏は述べています。

極度の貧困状態にある家庭の方がエネルギー消費量が多くなった最大の要因は、薪や木炭といった従来の調理用燃料よりも、電気やガスといった燃料の方が効率的で汚染が少ないことだそうです。「ザンビア・ネパール・ベトナムでは、現代のエネルギー資源は非常に不公平に分配されています」とBaltruszewicz氏は指摘し、非効率的な燃料での調理や、不衛生な水を飲む前に沸騰させるなどの行為により、貧困世帯の方がエネルギー消費量が多くなってしまうとのこと。


Baltruszewicz氏は、電気や基本的な衛生設備を利用できない家庭は、たとえ金銭的な余裕があっても生活の基本的なニーズを満たせないと指摘。「皮肉なことに、多くの世帯にとってはクリーンな調理用燃料を入手するよりも、携帯電話を入手する方が簡単です。従って、世帯収入を用いて進行中の状況を測定することは、貧困やその剥奪に関する不十分な理解をもたらします」と述べています。

今回の研究結果から、発展途上国において極度の貧困状態にある人のエネルギー消費量を減らすには、電気・屋内衛生設備・公共交通機関といったサービスを提供し、貧困による不平等を緩和することが重要だとBaltruszewicz氏は主張しました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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