インタビュー

真島ヒロの人気漫画をアニメ化した『EDENS ZERO』の石平信司総監督&鈴木勇士監督にインタビュー


「週刊少年マガジン」連載の真島ヒロさんの漫画を原作としたアニメ『EDENS ZERO(エデンズゼロ)』が1クール目の放送を終えようとしています。真島さんの作品は「RAVE」「FAIRY TAIL」に続いて3度目のアニメ化。本作を手がける石平信司総監督と鈴木勇士監督は前作「FAIRY TAIL」のアニメから引き続いての担当。やはり真島作品に慣れているからこその抜擢だったのか、そしてどういった点に苦労しつつ作り上げていったのか、いろいろとお話をうかがいました。

ANIME - エデンズゼロ 公式サイト
https://edens-zero.net/anime/


GIGAZINE(以下、G):
そもそもどういう経緯で『EDENS ZERO』アニメ化の話が来たのですか?

石平信司総監督(以下、石平):
『EDENS ZERO』の制作をしているJ.C.STAFFさんのお仕事は、それまで、松倉プロデューサー経由でのコンテのお手伝いぐらいしかしていなかったんです。ところがある日、松倉さんから「『EDENS ZERO』やるので、監督よろしくです~」みたいなメールが来ていて。

G:
(笑)

石平:
FAIRY TAIL』のファイナルシリーズも終わって、自分の所には来ないものだと勝手に思い込んでいたところへの連絡で。自分としても2年先ぐらいまでの予定があって、それまで「来るもの拒まず」でやってきたんですけれど、他のタイトルとの重複とかもあるのでどうしようかと、1カ月ぐらい真面目に悩みました。それで「自分は総監督で、別の方に監督として立っていただける形でよろしければやります」と答えました。

G:
そういう経緯だったんですね。

石平:
監督をどうするかという話の流れで、松倉さんから「誰かいませんか?」と聞かれて、鈴木さんには何タイトルか入ってもらったことがあったので、時期的にはそろそろ監督だろうということで声をかけました。

鈴木勇士監督(以下、鈴木):
僕の所に石平さんから電話がかかってきて「『EDENS ZERO』、引き受けることになった」と。自分には絶対来ないといっていたのに(笑)

石平:
さんざん言ってたよね(笑)

鈴木:
『FAIRY TAIL』ファイナルシーズンをやっていた半年間、ずっと言ってましたよ。『EDENS ZERO』の連載が始まって「これ、アニメを請け負う人はプレッシャーだろうな」って。真島先生という他作品もアニメ化されているビッグネームの作品で、作品自体もスケールが大きくて……。

石平:
どんどん次の星に旅していくって、こりゃ大変だぞと。

鈴木:
宇宙戦艦は出てくるし……。「我々は『FAIRY TAIL』の有終の美を飾って、次に担当する人たちを応援しましょう」なんて言っていたんです。それが……打ち上げのときでしたよね、真島先生が挨拶をしたとき石平さんが「『EDENS ZERO』も待ってます!」って、絶対に話が来ないと思っていたからこその冗談を言って、真島先生もアニメの監督を決められるわけではないですから、お互いに「ハハハ」と苦笑いしたという場面があったんです。電話があったのは、まさにその年末でした。

石平:
そう。『EDENS ZERO』をJ.C.STAFFがやることになったという話は耳にしていたから、「だったら自分ではない人が監督をやるんだろうな」って思っていたら。

鈴木:
J.C.STAFFの松倉さんから電話があったという『無能なナナ』のラッシュの時、石平さんが珍しく無口だったので「どうしたんですか?」と声をかけたことがあったんですが、後で聞いてみたら、それが悩んでいる時期だったんです。

G:
そんな流れがあったんですね。今回、放送中の『EDENS ZERO』を見ていて、ハッピーがブラスターに変形するシーンには驚かされました。原作ではもっとあっさりした表現だったのに、あんな変形合体ロボみたいな感じになったのは、どういう経緯があったんでしょうか?

鈴木:
「ハッピーブラスターはちゃんと変形して欲しい」というのは、真島先生からのオーダーでした。「変身」みたいな感じでもモーフィングでもなく、「メカ」っぽく変形して欲しいと。だいぶ長いこと「どうしよう」と悩んだんですが、最後は作画担当の方が一発できれいに決めてくれて、みんなで大満足大安心、よかったよかったと。


G:
おお、なるほど。変形以外にも、なにか要望みたいなものはあったのでしょうか。

鈴木:
ハッピー以外だと、エーテルギアの中に流れている光の点々だとか……。

石平:
あと、シキのアクションに関しては、最初の方から重力をばんばんうまく使ってやっていって欲しいというオーダーでした。

鈴木:
そうですね、そこがキモになってくるので、と。

石平:
『FAIRY TAIL』では、ナツが固定砲台のように炎の魔法をばんばん放って、あとは走って行って炎でぶん殴るという動きがありましたが、「空を飛ぶ」という方向がほとんど出てこなかったので、その逆を、という意識ですね。宇宙船も出てくるから「やたらと飛ぶ」。アクションの構成がまったく違うものになっています。


鈴木:
『FAIRY TAIL』はむしろ、「ハッピーがいないと飛べない」というのが特徴でもあるんですが、『EDENS ZERO』に関しては最初から宙に浮けるので、それを軸にしていく。漫画でもそうなっていますが、改めてそこをお願いしますということでした。

G:
総監督、監督として作品に携わる中で、こういった部分が難しかった、苦労したという部分はどういったところですか?

鈴木:
難しかったところ、苦労したところ……どこでしょうね?

石平:
ないんですけれども(笑)

鈴木:
「ここ、困った!」というのは起きていないですね(笑)

石平:
どちらかというと「どこまで3Dモデルを発注するか」とか「これは3Dでやるから、手前の話数のコンテを後回しにしてCGのバトルアクションの部分を先にやってもらう」とか、段取りがいつもと違うというのはありました。原作がこうだから、みたいなものだとないです。

鈴木:
スタジオのパイプラインとして3Dをはめることが決まっていて、それに合わせたスケジュールで動いているのですが、3Dはなにかと打ち合わせや物作りが先行しがちなので、変則的な動きになったという感じです。でも、通常のものづくりの範囲内です。

石平:
自分はあまりCGが好きな方ではなかったんですが、今回、『EDENS ZERO』で見方が変わりました。やっぱり、CGはあったほうがいいなと。

鈴木:
宇宙戦艦、毎回は描けないですよ。

石平:
乗り物やナイトギアがCGでできるというのは大きかったですね。

鈴木:
困ったことではなく、むしろ助かったことですね(笑)


G:
まさにその宇宙戦艦では、第7話のラストでついに船名が明らかになるシーンが出てきました。漫画では見開きでどーんと戦艦が登場し、名前は吹き出しで静かにわかるという感じでしたが、アニメでは戦艦のマーク作品ロゴが重なり、そこにエンディングテーマが流れてくるという印象的な演出になっていました。あの表現は、誰のアイデアなのですか?

鈴木:
そんなに「原作と変えた」というイメージはなくて、「我々には原作がそう見えていた」という感じです。コンテは石平さんですね。

石平:
第7話は、脚本打ち合わせの段階で「作品ロゴと戦艦エデンズゼロのマークを重ねる」ということが決まっていました。

鈴木:
アニメにするにあたって自分としてこだわったのは、ホムラのソウルブレイドです。漫画ではそのコマになっていたらもう持っている、消えているでも大丈夫なのですが、アニメだと出てくるところ、消えるところも描くことになるので、こだわっていろいろな注文をしました。

石平:
メカ系はファンタジーではなく、あくまで「メカ」という機械描写にしています。

鈴木:
「スペースファンタジー」だけれどメカ描写に説得力が欲しいというのは、真島先生からのオーダーでしたね。

石平:
感触としてはメカメカしい部分が残るようにしています。

鈴木:
バリバリのミリタリーというのとは雰囲気が違って、ファンタジーの範疇だけれど「楽しいメカであれば」ということで、がっちゃんがっちゃん動くような感じのところです。アニメとしてやっていても楽しい部分です。

石平:
そして、絶妙なタイミングで『スペースコブラ』にハマってしまいまして。

鈴木:
確かに、いま作業している話数には『スペースコブラ』的な要素が増えているかもしれない(笑)。そうやって、石平さんの中で急に芽生えたものが入ってきて、いい感じになっていることがあります。ある日、「傭兵団のガノフが気になる」と。モスコでもないしジンでもない、一番なんでもない敵なんですよ?でも「ガノフの耳たぶ、いちいち動かしてみたら面白いんでは?」と言うので、私が伝えたらスタジオのみんなが実際にやってくれて、結果、ちょっと楽しい感じに仕上がりました。

G:
(笑) そうやって「こうするの楽しいよね」みたいにやったことは他にもあるんでしょうか?

石平:
細々とそういうのを積み重ねて作っていくのが自分のパターンなので、「これをこうしたら」みたいなことを、意外と細かいところまでやっているかもしれません。もちろん「言わずもがな」みたいなやり方をすることもあります。

鈴木:
石平さんのコンテ担当回に新しい要素が登場している比率は高いと思います。

石平:
「メカだから激しく壊してもいいんだ」とか。

鈴木:
そうですね、偽シスターの描写は原作よりもちょっと詳細になっていると思います。それは石平さんの趣味です。

石平:
「機械だからもっと壊そう」と。

鈴木:
「メタルスプラッター」的なところですね。

G:
石平総監督と桝田省治さんの対談が2014年にファミ通に掲載されていて、「そもそも、最初に就職したスタジオが、ゲームを作っている傍らでアニメの仕事もしている会社だったんです。それでゲームは好きだし、いいなと思ってその会社に入ってみたら、アニメに回されて」という話をされていました。Twitterでもゲームの話題、特に『モンスターハンター』のことはよくツイートされている印象です。お二人は、これまでどういったゲームをプレイしてきましたか?

石平:
最初に入ったスタジオがPCのゲームとかも作っていたので、縁があったんです。結局、ドリキャスとかプレステぐらいまでのソフトは開発していたかな?でも、どうせならアクションとかシューティングを作りたかったんですが、作っていたのはテキスト系のアドベンチャーでしたね。プレイヤーとしては……まさに今、『モンハン』です。

鈴木:
『モンハンライズ』の話は、毎週のように聞いています。最初は弓だったんですが、私が薦めてからガンランスになって、今週は「チャージアックスが楽しい」と言っていました。

石平:
自分は基本、洋ゲーがメインで何十時間もなめつくすようなオープンワールドものが大好物なので。

鈴木:
そういえば石平さんはメインシナリオを全然進めず、ひたすらフリーシナリオばっかりの人ですね(笑)。私も「人並みには」という感じですが、たまたまセガサターン、Xbox 360と進んできたおかげで石平さんの洋ゲー話についていけたのがよかったです。最終的には「全ハード所有すればハード戦争は起きないのだ」と思っています。今回は関係しそうなゲームとして『GRAVITY DAZE』を改めて復習したりもしました。

石平:
真島さんが参考にされたような話を聞いたので。

鈴木:
確か、顔合わせの時に直球で質問しました(笑)

G:
ええー(笑)

石平:
「それもある」という話だったので、動きの感触とかを知るために触りました。

鈴木:
とはいえ、真島先生の中には別のイメージがあって、あくまで「参考」ということだったんです。

石平:
それで結果として「まったく違うものだった」のがわかったという感じです。

G:
Twitterを見ているとお二人がずっと一緒に仕事をしているように見えてくるのですが、これは『FAIRY TAIL』でのつながりが大きいのでしょうか?そもそものきっかけというのはなんだったのでしょう。

鈴木:
『FAIRY TAIL』の第2期に最初、作画で参加させてもらっていて、制作会社のブリッジに「そろそろ演出をやりたいです」とお願いしたら、石平さんからOKが出て、演出として関わるようになりました。それからですね。作画のころは顔を合わせることすらなかったですから。実際、演出として何本か手がけたぐらいのところではそれほど他の演出さんと比べて大きな違いはなかったんじゃないかと思うんですが……。

石平:
いや、エフェクトが自分で描けるというのは大きいですよ。しばらく「アトラスフレイムの鈴木さん」になってたもの。

鈴木:
ああー。僕は作画出身なので、自分で手を出していろいろ描いていたのですが、作中に出てくる「アトラスフレイム」という全身炎のドラゴンの回を担当して、設定にもない炎の動きを自分で足していたんですが、それが記憶に残ったみたいです。

石平:
それから、やっぱり『へボット!』だよね。

鈴木:
『FAIRY TAIL』のラストから『へボット!』あたりにかけて、コンテを任せてもらえるようになって、特に第6話で印象付いたのかなと。

石平:
印象自体はもうちょっと前にあって、『へボット!』のときには「任せておけばいいや」となってました(笑)

鈴木:
あのときはもう首輪は取れていたんだ……って、そもそもついてたことがないんですよ(笑)。「こうした方がいいよ」というのはほとんど言われたことがないです。

石平:
僕は上がってきたものを見てゲラゲラ笑っている、という。

鈴木:
それは僕も踏襲していて、みなさんから上がってきたものを見て「ああ、いいですね。ゲラゲラ」と笑っています。でも「中には注意して欲しい人もいるんだ」ということは気をつけています。

G:
鈴木監督は「紅葉ブラシ同好会」名義でニコニコ動画にハイクオリティな映像をアップしていたことがあります。それだけに『EDENS ZERO』のOP・EDを見て、絵コンテ・演出のところに鈴木監督の名前があるのを見て妙に納得したのですが、ああいうかっこいい動きというのはどのように作り上げていったのですか?

鈴木:
OPのアクションシーンに関しては何悶着かありまして(笑)

G:
「一」じゃない(笑)

鈴木:
あれが最終的にできあがったのは、J.C.STAFFの作画さんたちの力です。どうも僕は、作画さんが受け取ってうれしくなるタイプの絵コンテが描けているみたいなんです。自分自身が作画マンなので、作画のクセというか「こういうのをやりたいよね」というのが言わずとも通じやすいというか。でも、最終的にはそれぞれのパートの作画さんの力だと思います。

G:
曲ともバチッと合わせられていますが、細かく調整しているのですか?

鈴木:
作業フローとしては、スポッティングシートに細かく「ここ」とマークがついたものをもらうこともありますし、編集で細かく追いかけるというのもありますし……僕がミュージックビデオが好きだからというのもあるかもしれません。でも、他作品のものと比べて特別なことをしているわけではないと思います。でも、よくできていると感じていただけているならラッキーです。

G:
石平さんがTwitterで「リモート効果で作業捗り」とツイートされていましたが、リモートワークではどういった効果が出ていますか?

石平:
まず移動に割いていた時間を作業に回せるので、純粋に作業時間を増やせるというのが大きいです。今のところ、音響関係だけは出るようにしていますが、そのほかは自宅で作業しながら打ち合わせとか、会議しながら手元でコンテ作業とか、そういうことができるので「捗る」というか、やれる量が増えました。でも、移動が極端に減ったことの弊害もありますけど……。

鈴木:
運動量が減りますよね……。

石平:
知らない間に店がつぶれていたり。でも、少なくとも仕事に関しては大変スムーズに行くようになったと感じます。

G:
こういった漫画原作の作品からシナリオ、コンテを作っていくときには放送の尺に収まるよう調整する部分が出てくると思います。そのとき「ここは残す」「ここは削る」という判断基準はどういったところに置いていますか?

石平:
今作に関しては、アクション多めのエピソードはむしろ尺が余りがちなので、あらすじや情景描写を足して調整してます。ちなみに、原作にないシーンを足すのはなるべく避けてます。尺が足らない(説明多めの)エピソードの時は、オーバーした尺から削っても意図が通じる範囲で細かい文言を削ってるカンジですかね、違和感ない範囲で。あくまで原作を忠実にアニメ化したいし、自分も(特に今作は)原作通りで見たいので。
さすがにある程度のボリュームは脚本作業時にコントロールしてあるので、コンテ作業でとんでもない尺オーバーや尺足らずは、ない……はず。更に細かいニュアンスはアフレコ時に調整したりはしてます。それも原作から違和感ない範囲で。

G:
ログ・ホライズン 円卓崩壊』放送に合わせる形で石平さんが枡田省二さんと2021年に対談した際、「桝田さんのやりかたを真似して自分の作品の本読みを回している」「ほぼ桝田さんの考えかたを踏襲してけっこううまくやれております(笑)」と語っておられました。この考え方の踏襲は、『EDENS ZERO』でも生かされているのでしょうか。また、どういったものなのでしょうか。

石平:
ログホラの対談時の「テクニック」に関しては、話数毎の仕掛けの話になります。が、今作にはあまり関係なくて、(現段階でも)発表前の別作品での応用になります。『EDENS ZERO』は元からそのテクニックを応用する必要がないほど流れが完成してるので。……その辺は読んでるだけじゃ分かんないしアニメ化する作業工程で改めて実感するわけですが。テクニックの内容は真島先生の週刊連載での手法とも通じる箇所は多いですが、まあ企業秘密で。

G:
なるほど。いろいろお話いただきありがとうございました!

『EDENS ZERO』は日本テレビ系列で毎週土曜24時55分から順次放送中です。また、Netflix・Huluにて独占先行配信中です。

アニメ『EDENS ZERO』ノンクレジットオープニング/西川貴教「Eden through the rough」 - YouTube

©真島ヒロ/講談社・NTV

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