インタビュー

「アーマード・コアV」発売延期の真意を語る鍋島プロデューサーインタビュー


多くのファンの期待を受けながら、当初の発売予定日から2012年1月まで発売日が延期となった「アーマード・コアV」。その延期の理由とこのタイトルにかける想いを、シリーズのプロデューサーを担当する鍋島俊文プロデューサーにインタビューしてきました。

ARMORED CORE V OFFICIAL SITE | アーマード・コア V オフィシャルサイト

◆目次
・なぜ発売延期になったのか
・フロム・ソフトウェアとはどんな会社なのか
・アーマード・コアとはどんなシリーズなのか
・アーマード・コアVはこれまでのシリーズとは違うステージのタイトル
・圧倒的に拡大した戦略性
・オンライン要素が拡大しても1人でも遊べる仕組みに
・コミュニケーション手段はどうなる?
・アーマード・コアの海外展開状況
・なぜ「キック」なのか
・ダウンロードコンテンツと初心者用オススメアセンブル
・製品版ではユーザーの50%くらいが領地を持てるように


アーマード・コアの開発と販売を行っているフロム・ソフトウェアがある笹塚ノース小田急ビル。


1階と3階~10階までがフロム・ソフトウェアのオフィス。


フロム・ソフトウェアで15年にわたって「アーマード・コア」シリーズの開発・プロデュースを行ってきた鍋島俊文プロデューサー。


◆なぜ発売延期になったのか

GIGAZINE(以下、G):
アーマード・コアVについては、8月1日に発表があり、発売日が2012年1月まで延期されました。まずはどうして発売延期になったのかというところから聞いていきたいと思います。延期となった主な原因というのはどこにあったのでしょうか。

鍋島俊文プロデューサー(以下、鍋島):
一番大きいのはクローズド・ベータ・テストを実施した反響によるものですね。家庭用のゲームでクローズド・ベータ・テストをやるというのは、日本では少ないのですが、それだけに我々もそこをすごく重視していました。

ベータテスト版というのは、荒削りなところがあるというか、機能が限定されていますし、まだ未実装な部分もかなりありましたが、非常に反響が大きくて、いろいろな意見をいただきました。5000組1万人に、PS3とXbox 360の両ハードにそれぞれ参加していただいたのですが、当選者にはかなり高い割合でプレイしていただいて、フィードバックも沢山いただくことができました。

鍋島:
そのフィードバックにどう応えるのかという話が当然あって、「やれるだけのことはやりましょう」ということは方針として最初からあったのですが、いただいた意見がかなり多く、そもそもベータテストの実施期間自体が少し後ろにずれてしまったということもあり、発売までの残り時間を考えたときに、いただいた意見をきちんと反映した形で商品を渡すというのは難しいという判断があり、会社と相談をしました。

今までアーマード・コアというシリーズで10数作品を作ってきましたが、今回のアーマード・コアVは、その中でも一番時間をかけて制作しています。会社から見ても、商品としてすごく力を入れて作っているものなので、ある意味、悔いはないようにというか、やれることは全部やろうということで、今回の延期となりました。

G:
今回の開発期間は3年ほどでしょうか。

鍋島:
そうですね、3年ほどかかっています。アーマード・コアとしては異例な期間ですね。

G:
ということはオンラインでの動作上の問題のような、完全にゲームとして遊べないからという理由ではなく、反響としていろいろな意見が出て「これを反映させるには時間が掛かる」ということであったと。

鍋島:
テストの当初の段階で、いくつか不具合が出ましたが、それに関しては「予想していたとおり」という言い方は語弊がありますが、やはりオンライン要素の大きいゲームなので、大規模にテストをやらないと出てこないという不具合は当然あると思っていました。

それを出すためのベータテストという意味合いもあったので。そこに関して解消するというのは当たり前のことですね。ただ、今回の延期に関しては、「そこに対処するために時間が掛かる」というより、いただいた意見に、こうして欲しいということがものが多くあったからですね。


自分もPCゲームのベータテストをやったことがあるのですが、結局出てきたものを見たらあまり変わっていなかったという経験もあるので、そういった現象に慣れていないコンシューマの人たちにとっては、すごくショックが大きいだろうという配慮もありました。それを考えると、要望として出た意見はきっちり反映してから出そう、という判断になったというのが実状です。

G:
家庭用でクローズド・ベータ・テストをやっているタイトルというと、どんなものがあるのでしょうか。

鍋島:
私の知っている範囲では、日本だと多分、Xbox 360のモンスターハンターファンタシースターオンライン、あとはファイナルファンタジーなどですね。海外のFPSとかだと、家庭用でもベータテストを行うタイトルが多いですね。

G:
まだ日本だと家庭用タイトルの文化としては、クローズド・ベータ・テストをやってから発売というのはあまり浸透していないのでしょうか。

鍋島:
これはゲームの性格とも少し関わってくることなのですが、家庭用は長い間「1人で遊ぶもの」という文化がずっとあって、オンラインという要素に対しても、まだ尻込みしてしまう人が多くいると思っています。

現在、ゲームだけでなく、社会全体がオンラインという環境と適合してきているのに対して、家庭用ゲームに関しては、その部分の進みが遅いように感じています。そうした状況もあって、ベータテストもあまり一般的にならないのかな、とも思っています。

G:
ベータテストの実施期間がPSNの関係で伸びましたが、いちユーザーから見ると、一体それがどれだけ開発に影響するのかとよく分からない部分でもあります。あの影響によって開発にかなりの支障が出たということはあるのでしょうか?

鍋島:
タイミング的には難しいタイミングではありましたね。ちょうどオンラインの機能のところを絶賛制作中という感じのところでした。開発ですらネットワークに繋げないという状態になったので、結局クライアント側で作れるところだけ作って、繋げるのを待ってみないと分からないという感じになっていました。少なからず影響はあったというのは間違いないですね。

G:
ファンもかなりクローズドベータを楽しみにしているところでもあったので、復旧したあとはすぐにクローズドベータを始めなければいけないという雰囲気もあったのかなと思うのですが。

鍋島:
そうですね。スケジュールが大きく変わってしまったというところもありますよね。でも3年もやっていると、その辺りはいろいろありますからね。

3月11日の地震の時も、12日にちょうどイベントを計画していたんです。実機のプレイ画面を見せるイベントを秋葉原でやろうとしていて、ちょうど開発のフロアで機材を箱に詰めているときに、ドッと揺れが来ました。

「めちゃくちゃ揺れたけど、今のどうなってるの」といって、他社さんと一緒にやっているイベントだったので、そちらの会社にすぐ電話したんですが、通じないという状況でした。

G:
そんなタイミングだったんですね。

鍋島:
一回、お祓いに行った方がいいじゃないかという話もありましたね。

G:
当初PS3版のクローズド・ベータ・テストが始まった時に、マッチングの不具合が若干あったということでした。これに関しては、発売延期の主な原因はオンラインの障害によるものではない、ということでよろしいでしょうか。

鍋島:
そうですね。

G:
今回、発売延期決定ということでGIGAZINEでも記事を掲載したのですが、驚いたのは、Twitterなどの反応で、延期に対しても批判が少なく、好意的な反応が多かったことです。やはりその辺りは、長年のシリーズで築いてきたファンとの信頼感というものがあるためだと思われますが、延期を決断する上でも、ファンは待ってくれるという期待はあったのでしょうか。

鍋島:
そういうのは個人的にはないですね。やはり自分がユーザーだったときに、ゲームを買うというのはすごく楽しみにしていましたし、もうすぐ出るんだと期待していたものが延びてしまうのはすごくショックでした。

言ってみれば、発売日というのは約束なわけです。そのタイミングで発売すると言った以上、そこに向けてやるんだというのを、可能な限り守るべきだと思っています。「延期して良かった」と言ってもらえるのは複雑な心境ですが、基本的には申し訳ないなという気持ちです。


鍋島:
ゲームでは発売延期がなぜかよくありますが、普通の仕事では考えられないことですね。納期が間に合わないなんて、大問題なわけじゃないですか。そこを考えると、やはりおかしいだろと思いますし、待っていただけるのは非常にありがたいですけれど、だからといってダラダラ作っていていいわけもないですし、そこはしっかりしないといけないと思っています。

G:
最近のゲームはオンラインでアップデートできるようになっているので、とりあえず発売をして、あとはアップデートで何とかしようとするイメージがファンの中にあるのではないかなと思います。そこを、アップデートで解決しないで、完全な形で完成させてから発売しようという姿勢をファンも感じているのかなと思うのですが。

鍋島:
実際のところ、アップデートというのもPCゲームとは違って、そんなにイージーにできる仕組みではないんですよ。それに、やはり単価が高い商品なので、そこで中途半端なものを出すのは良くないですよね。

あとは、できあがったものが買えるという前提の元でやってきたビジネスモデルみたいなものがあるので、アップデートでというやり方は、なかなかコンセンサスを得られないだろうなという感覚もあります。付加要素としてのダウンロードコンテンツとか、そういったものがやっと一般的になり始めたところで、ほかの一般的なアプリケーションだとか、ネットワークを前提とした商品とは性質が違うのかなとは思いますね。

◆フロム・ソフトウェアとはどんな会社なのか

G:
もともと、フロム・ソフトウェアというのは前身が大型汎用コンピュータ向けのビジネスアプリケーションを開発していたということですが。

鍋島:
設立したのが25年前ですね。ゲームに参入したのが、17年くらい前です。

G:
ということは8年くらいはずっとアプリケーションを制作していたということですね。当時はどんなアプリケーションを作っていたのでしょうか。

鍋島:
私が入社したのが15年前、96年ですね。その頃はまだ半々だったんです。スタッフの半分がゲームを作っていて、半分がそれまでの業務のシステム開発をやっていて、私はゲーム側のスタッフとして採用されていて、ゲーム開発しかやっていないので、あまり詳しくはないのですが、豚の餌やりの管理システムとかを開発をしていたみたいです。

G:
そうなんですか? それは全然知りませんでした。

鍋島:
JAさんのシステムなどを作っているという話は聞きましたね。当初の名残なのか、以前は全員スーツで開発をしていました。JAさんとか、そういった堅いところとお付き合いしていて、出向したりもしますから、そうなると当然スーツで仕事をすることになります。

それで、ゲームの方だけ私服じゃダメだろうということで。10年くらい前まではみんなスーツで開発をやっていましたね。逆に珍しがられて面白かったです。「本当にスーツなんですね」みたいなことを言われたりしました(笑)

G:
鍋島さんが入社された頃というのは、すでにキングスフィールドの開発が始まっていた頃でしょうか。

鍋島:
私が入ったのは、キングスフィールドのIIIが発売された直後で、初代のアーマード・コアのプロトタイプを作っていた頃ですね。

G:
アーマード・コアの初代を作るときに、それまでビジネスアプリケーションを開発していたというところで、そういう会社だからこそできたというようなことはありましたか?

鍋島:
私は本当にゲーム開発を開始した時点ではまだ入社していなかったので、詳しいことは分からないのですが、ビジネス的な話でいうと、社長が従来のビジネスモデルに行き詰まりを感じていたようです。第一次ITバブルみたいなものが終わった時期だったんですね。

それで何か違うことを始めないといけないという危機感みたいなものがあったんです。もともと社長が個人的にゲームが好きで、スタッフの中にもゲームが好きだという人が何人かいて、一時期はPC用にゲームを作ろうみたいな話をしていたらしいんですね。当時から無謀にも「ポリゴンでやりたい」と考えていたようです。

G:
その当時からですか。95年以前ということですよね。

鍋島:
以前ですね。こんなのできるわけないじゃないかとなって頓挫したらしいです。そこにプレイステーションが出てきて、これだったらやれるんじゃないかと。アーケードだと、バーチャファイターとかがあった頃ですよね。あれができるようになったのだから、やれるんじゃないかみたいな話で。

だから最初に始めたときは本当にプログラマーだけで、グラフィッカーとかモデリングをする人間とか、音を作ったりする人間とかはまったくいない状態で始まったという風には聞いています。

ノウハウ的にというと、システムを作るのは、全員そういうスタッフだったのでなんとかなったのかなと思いますが、そうじゃないところは多分、相当カオスだったと思います(笑)


G:
いきなり、3Dモデリングから入るわけですからね。

鍋島:
昨日までプログラムやっていた奴がモデリングをやってと言われて「何ですか、モデリングって」と。私が聞いた話では、ゲームがどうやって成り立っているのか知らなかったためか、最後の最後まで制作をしてみたらエンディングが無くて、「エンディングって必要だよね」と言い始めたというような。

ビジネスアプリケーションには普通、エンディングなんてないので。「普通は何かあるじゃん、スタッフロールとか」と言い出したころには、もう時間がないという。

G:
それはすごいですね。

鍋島:
本当かウソかは分かりませんが、そんな話がありましたね。

G:
今に至るまで、アーマード・コアシリーズだけではなくて、フロム・ソフトウェアの作品というと3Dモデリングが圧倒的に優れているというのが魅力かと思いますが、3Dモデリングに対するこだわりのようなものを会社として持っているのでしょうか。

鍋島:
こだわりというか、逆に言うとそれしかできないんですよ。本格的な2Dのゲームとかをまともに作ったことがあまりないので、そういうスタッフもいないですから。

これも伝聞になりますが、当時珍しかった3Dゲームというものを作りたいという気持ちのほかに、やはり後発メーカーだったということも大きいと思います。当時、スーパーファミコン時代からずっと開発を行ってきたメーカーがすでに沢山あったわけです。そういうところに割り込んでいかなくてはいけなかったので、差別化をしなくてはいけないという部分は強くあったようです。


鍋島:
3Dモデリングというのは、既存メーカーもやったことがない領域なので、そういう意味では横並びだろうと。今そちらに向かって頑張っていけば、チャンスがあるかもしれないというような発想だったということは聞いています。特に今回の「アーマード・コアV」も、ロボットのモデリングやアニメーションがすごいという風に褒めてもらえますけど、逆に我々はアレしかできないので。

苦手なのもありますよ。2Dも苦手だし、特にアーマード・コアのチームのスタッフはかわいい女の子作れと言われても絶対に無理ですし。女の子とかって言うとすごく渋い顔をしますから、モデラーの人間とかは(笑)

G:
逆に今そういう会社さんも珍しいですね。

鍋島:
だから変だと思いますよ(笑)

G:
そういう極めて特殊な会社ということで。

◆アーマード・コアとはどんなシリーズなのか

アーマード・コアというと、自分でメカを作って戦うゲームとして知られていますが、こういうコンセプトのゲームというのは、当時すでにあったのでしょうか?

鍋島:
2Dのゲームではあったと思います。それを3Dにして、かつ立体的に動けて、というのが目新しかったかも知れません。

初代のアーマード・コアの頃は、社長が陣頭指揮を執って作っていたんですけれど、社長が言っていたのは、アイデア自体はそんなに特殊なものではない、と。自分で手足をカスタマイズして、ロボット作りたいというのは男の子だったら、誰でも夢想するものなので。

アイデアの部分というよりは、それをいかに具体的な形にして「そう、これをやりたかったんだよ俺は」という風に実現できるかが勝負だと思うので、そこをちゃんとやらないとねという話をされたのを覚えていますね。


G:
初代の頃から、そういう感じだったということですね。

鍋島:
基本的なゲーム性というか、基本的な仕組みというは初代のころからあるものをバージョンアップさせてきて、今までやってきていますね。そこは最初のところでがっちり作ったところがよかったのかなとは思います。

G:
初代に限らずアーマード・コアというシリーズは、少し特殊な世界観を持っているかなと思います。企業体がたくさんあって、そこからミッションの依頼を受けて、特定の名前を持たないような主人公が、傭兵として戦っているというような世界観なのですが、この設定は既存の作品からインスパイアされていたりするものなのでしょうか。

鍋島:
最初のアーマード・コアを作っているときはまったく違う設定でした。すごくベタな感じだったと思います。父の残した設計図を元にロボットを作ったっていう、「なんかアムロっぽいじゃないか!」みたいな。それを社長が気に入らなくて、当時入ったばかりの私のところに来て、「何か新しいものを考えてくれ」と言われました。

世界観の設定は、システム上の制約から生まれているところもあります。初代のアーマード・コアというとPSなので、やりたいことに対してスペックが追いつかない部分もあります。

例えば最初の世界の設定は、人類が地下で暮らしていて、地下に街があってという話ですね。あれも最初、プログラマーから「外はできない」と言われたんです。無限に平面が空間に広がっているというのは厳しいと言われて「どこならできるの」という話になって、「閉鎖空間だったらできます」と言われました。それで、じゃあみんな地下に住んでいるということにしようと。

そういう風にして、だんだんSF色が入ってきたようなテイストになっていって、一般的な軍隊とか国家というような話というのはあまり合わないのかなという方向になってきました。少しシュールというか、どこか飛躍した部分があるような設定の方が合っているんじゃないか、という話になってきたわけです。

自分が傭兵になって、いろいろな依頼を受けて、いろんなミッションがあってというのも、いろんなパーツが出てきて、それを組み合わせて遊ぶ前提なので、いろんなことをやらせたいというゲームデザインが先にあったからなんです。誰が自分に頼んでくるのかというのも、お金をもらっているわけだからお金を払っている人がいるんだよねと。その人はきっと商売をやっているだろうというところから、企業という形になったんですね。軍隊とかじゃなくて企業みたいなものが世界を牛耳っている、というような設定がだんだん生まれた感じですね。

G:
ゲームデザインと密接に絡みつつ、世界観が出来ていったという感じなんですね。

鍋島:
特に昔はそういう作り方をすることのほうが多かったですね。先にゲームができて、こういうゲームだからそれに合ったような設定や世界観を考えるというような。

アーマード・コアの主人公に関しては、自分で好きなロボットを作るというところがコンセプトだったので、そこで主人公のプロフィールみたいなものが明確にあると、仕組みにそぐわないという部分がありました。

いろんなことを好きにやりたいということがゲームのコンセプトとしてあるんですね。だから主人公はプレイヤーであるあなたですよというような位置づけにして、世界観としては、自分が傭兵でやりたいことはやるし、やりたくないことはやらないんだというような感じの孤高の存在みたいな感じになっています。結局、自分の好きなようにやるゲームだよというところが一貫した仕組みにしたかったというところはありますね。

◆アーマード・コアVはこれまでのシリーズとは違うステージのタイトル


G:
これまでのシリーズに比べて、アーマード・コアは今回「V」になってかなり大きく変わったなという印象を受けました。かなり多くの部分に変更があったと思われますが、それぞれの変更がなぜ行われたのかというところについてお聞きしたいと思います。

まずオンライン要素の拡大という部分についてなんですけれども、これについては鍋島プロデューサーの中では以前からあった構想なんでしょうか?

鍋島:
少し経緯が長くなりますが、まず「クロムハウンズ」というゲームを以前作っていて、これも私がプロデュースしているものなんですけれど、セガさんと一緒にやらせていただいたものです。

今回「V」はクロムハウンズをある意味で土台にしていて、クロムハウンズで作ったシステムとかを発展させて作っている部分があります。クロムハウンズというタイトルは、売れ行きはともかくとして、あの当時としてはけっこう面白いことをやっていたのかな、という印象が自分にもあって、一時期は続編を作るという話もあったんですが、結局実現できませんでした。機会があればもう一回やりたいな、という気持ちはずっと持っていたんですね。

それで、今回「V」を作るとなったときに、あの仕組みを生かした形でやれないかな、と考えました。現在ローマ数字の「V」になっていますが、もともと数字の「5」で発表したんです。1年くらいかけて制作して、ある程度形になったときに、改めて見ると、「2」が「3」になって、「3」が「4」になった時のように、「4」から「5」も言ってみれば今までと同じような変化の仕方だったわけです。

そこで本当にこれでいいのかという疑問が、僕自身にも、会社としてもあったんです。長いことやってきたシリーズなだけに、ここらでもう一段新しいステージに行かないと、多分このまま右肩下がりになっていっちゃうんだろうな、という危機感ですね。

そうした危機感もあって、「もう一回時間をかけて作り直しましょう」という話をしました。じゃあ新しく何をやるんだ、ということで、根本的に変えるなら、もうオンライン要素しかないんじゃないかと。

アーマード・コアというシリーズは、もう十何年間も1人で遊ぶ部分をいろいろ開発してきたわけです。ここでオフラインの要素をさらにいじりまわしても、何をやってもマイナーチェンジにしかならないだろうなと。少なくとも、ユーザーからするとそうとしか見えないんじゃないかと思ったわけです。

だったらもう、今まであまりチャレンジをしてこなかったオンラインの部分を発展させるほういいんだろうな、ということになりました。それで、クロムハウンズの要素をうまく組み合わせて、新しいアーマード・コアという形を作ろうとしたんです。それが2年前ですね。

G:
変更を始める前にかかっていたのが、大体1年くらいですか。

鍋島:
1年くらいですね。大体アーマード・コアって、1年から2年弱くらいで作っているんですね。多分、私は15年くらいこの会社でアーマード・コアを作ってきて、1作目から全部関わっているんですが、それが15作ですからね。平均すると1年に1本出しているわけです。

当初、「5」の時はそれと同じ感覚でやろうと考えていたんですが、そのノリでやっていると、それなりに新しいんだけど、やっぱりそれは「それなり」だったと思うんです。それじゃ多分ダメだろう、と。

会社としても、アーマード・コアというタイトルは長い間看板になっているタイトルでもあり、これからも大切にしていきたいタイトルなので、ここでもう一回テコ入れをして、根本的に作り直して、新しいゲームとして認知されるような商品にしなくちゃという結論に至ったのが、2年前ですね。

G:
「アーマード・コア」という名前を捨てようという話もあったと聞きますが、ちょうどその頃のことだったんでしょうか。

鍋島:
それは1年半くらい前ですね。作り替えようって話になってから、そもそも違うステージに行くんだっていう話をして、じゃあ新しいゲームなら「アーマード・コア」っていう名前は要らないんじゃないの、という話にまで発展したんです。逆になにか、今までの「アーマード・コア」の延長線上にあるものだって見られたくないという気持ちがあったんですね。

もちろんシリーズの延長線上にあるっていうのは、ロボットのデザインとかを見れば分かる人には分かるんですが、今までとは一段違うステージに持っていこうとしていたわけです。そこから話がもつれにもつれて、タイトルについては半年くらい協議していましたね。「今週のタイトル案」みたいなことをずっとやっていました(笑)

G:
そのくらい変わっている、ということですね。

鍋島:
変わっているってことをなんとかして伝えたかったんですね。だから、「名前も変えちゃおうよ」っていう話も出たわけですね。結局「アーマード・コアV」になったわけですが。

◆圧倒的に拡大した戦略性


G:
オンライン要素を拡大して、ほぼ違うゲームなんじゃないかというところまで変わったということですが、自分が操作するロボット、いわゆる「AC」自体のサイズの設定も小さくなっていますね。これはどういう理由で変更されたんでしょうか?

鍋島:
もともと「アーマード・コア」シリーズは、高速戦闘っていうのをウリにしてきた部分があるんですが、それを「4」で究極的なところまで突き詰めてみよう、というコンセプトで作ったんですね。それ自体はうまくいったんですが、一方でその弊害として、地形の意味が消えてしまったんですね。

例えば複雑な地形、街並みとかの中で、マッハ2とかで動けるわけがないんです。どうしてもこう、すごく開けた空間の中で、下のほうに街の残骸があったりというステージの構成になったわけです。極端に言うと、フライトシューティングのような、空中戦みたいなゲームになっていたんですね。

そこに、「これまでとは違うステージに行く」という目的が入ってきて、「4」との差別化はすごく強く意識しました。ビジュアルだったり、ゲーム性だったり、そうした部分を誰が見ても「違う」と感じるように、大きく変える必要があると。

機体のスケールを小さくするのも、そういった差別化という視点から出て来たアイデアで、今までビルより大きいロボットだったのが、ビルと同じくらいかそれより小さいくらいのサイズにすることで、まず視覚的にけっこう変わってくるわけです。それから、そのサイズにすることで、建物と建物の間に入るっていうようなことが出来るようになります。障害物を利用したり、敵から身を隠したりするゲーム性を盛り込めないか、という話だったんですね。


鍋島:
そこから連鎖的にいろいろと変わっていって、例えば建物の陰に隠れたときに、レーダーがあると見えちゃうので、レーダーとか無くしちゃおうよ、とか。それに、今までみたいにボタンを押すとピョーンと自由に飛べるよ、ということになると、結局みんな飛んじゃうから、地形の意味が無くなっちゃうので、飛べるのも無くそうと。最終的には飛ぶのに工夫が要るゲームの仕組みにしています。いまは簡単に言っていますが、この辺りの変更は実はかなり悩んだところでもあります。従来のスタイルをそこまで変えていいのか、という不安もあって。

G:
クローズド・ベータ・テストをプレイした時も、やはりものすごく戦略性が広がったなぁという感じを受けましたね。

鍋島:
そうですね。オンラインで、チームでプレイしてもらうっていうのが前提にあったんで、今までみたいに万能なロボットというか、1人でなんでもできる「超強い俺」みたいな感じだとちょっと困るんですよね。そういうのがロマンとしてあるのはすごくいいと思っていて、1人で全員なぎ倒すみたいな人が出て来て欲しいとも思うんですが、基本的な遊び方としては、複数のメンバーで協力しあって、作戦を練って、それぞれの役割をこなすっていうデザインを目指しています。

そういう意味では、「4」とかに比べると、機体の性能にも特性が強調されている部分があります。1人でなんでもできるわけじゃなくて、苦手なことっていうのがはっきりと有って、そこは仲間と協力してなんとかしましょう、と。仲間の力をうまく活かせるように立ち回ってください、というようなゲームデザインにしています。

G:
今までのシリーズだと、敵がいっぱいいる中に単機で突っ込んでいってバーッとなぎ倒すっていうイメージがあって、「V」のクローズド・ベータ・テストの時も、そういう感覚のままトンネルを抜けて行ったら、タンクの集中砲火を浴びて一瞬で撃墜されてびっくりしましたね。ああ、これは今までと違うな、と。

鍋島:
特に「4」の時は、敵の中に突っ込んで行く感覚が強かったですね。ちょっとディープな話になるんですが、そこが特に開発で苦戦したところでもあって、開発でプレイしてても、敵を見つけると突っ込んでいっちゃうんですね。

コンセプトとしては、「得意なこと」と「苦手なこと」っていうのの違いをある程度明確に作りたかったので、パーツのパラメーターだったり、機体の性能だったりっていうところも、今までより大きめに差をつけているんです。例えば、相性の悪いヤツと当たると、1対1で真っ向から撃ち合ったら普通は勝てないよね、というバランスに持っていっています。

でも、開発陣ではそういう話をしているにも関わらず、実際にプレイするとやっぱり敵を見つけると突っ込んで行って、ボコボコにやられて、「強すぎないですか、コレ?」みたいな話をするわけです。「いや、だから相性悪いって言ってるじゃん」って(笑)

そういう状況では、敵が強いっていうのが分かったら「退く」っていう発想をして欲しいんですね。いったん撤退して、味方に連絡して、「あいつ強いから助けに来て!」っていうような連携をして欲しいんです。

でも、開発の中でもどうしてもそれを気づいてもらうことができなくて、そこをやってもらうためにいろいろ工夫をしています。例えば「跳弾」の表現にしてもそうで、敵を撃っても相性によっては効いてない場合があって、「効いてないよ」っていうのを視覚的に分かるように当たった弾がカンカンって跳ね返るようになってます。

それからスキャンモードという偵察機能のようなものがあって、敵のパラメーターが見えたりするんですが、同時にそのモードの間は自分のエネルギーの回復が早くなるようになっていて、エネルギー回復が早くなるなら使ってみようって感じで使うと、敵が調べられるので、「あいつは俺より強いから逃げる」みたいな動きになるのかな、と思って作ってます。

G:
なるほど、スキャンモードってそうなってたんですね。そのあたりは良く分かってなくて、クローズド・ベータ・テストではあんまり使っていませんでした。

鍋島:
使ってください(笑)

G:
でもやっぱり、「退く」感覚はすごく強くあって、対戦の時もスナイパーライフルを良く使ってました。今までのシリーズだとスナイパーライフルってあんまり強い印象が無かったんですが、今回は退きながら距離を保って撃てるっていうのが、すごく有利になってるのかな、という感じがしましたね。トレンドとしても、クローズド・ベータ・テストの最後のほうの日程になると、スナイパーライフルを使っている人が増えている印象もありました。

鍋島:
現状のパラメーターはあくまで暫定なのですが、けっこうクローズド・ベータ・テストの期間でそういう流れがあったっていうのは把握していて、最初は固くて強いタンクが流行って、それから重量2脚が流行って、それに対抗するためにスナイパーが流行って、今度はスナイパーが狙いにくい動きが速い軽量2脚が流行ってっていう風に。これは多分、もう少し続くと一周して元に戻ると思います(笑)

G:
こういうアセンブルのトレンドみたいなものって、今までのシリーズでもあったんでしょうか。

鍋島:
無くはないんですが、流れが速い感じはしますね。昔は「これが強い」って流行ってるものがあると、みんながみんなザザザッてそこに集まっちゃったんですが、今回はチーム戦なんで、全員それにするのはリスクが高いっていうのはみんな分かるので、何人かは流行のアセンブルにして、何人かはそのサポートのために工夫した機体にするんですね。そうやってると、「おや? サポートしてる俺のほうが強いんじゃないか?」みたいな発見もあったりして。

G:
対策機体も早く生まれやすいということですね。オンラインになって、アセンブルの面白さも倍加しているような感じがあります。

鍋島:
そうですね。自分だけの話じゃなくなっているんで。◆オンライン要素が拡大しても1人でも遊べる仕組みに


G:
もうひとつ、大きな変更があった点として、「4」から比べると機体のデザインがかなり変わったという印象があります。「4」の時はすごく線が細くてキレイなデザインでしたが……

鍋島:
「4」はイケメンでしたね(笑)

G:
それに対して今回は戦車みたいなデザインの機体がいっぱい出て来て、初代に戻ったような感じがするなぁと思っていたんですが、これはやっぱり意図的な変更だったんでしょうか。

鍋島:
そうですね、そこも完全に差別化っていう意図が先にあったところです。これまでのシリーズとは世界観が変わったことによる部分もあるんですが、まず「4」とは一見して違うというのが分かるようにしたいという意図がありました。

「4」って、あれは戦闘機のフォルムなんですよね。現代の戦闘機みたいなフォルム。それに対して「V」は戦車です。それも「古い」戦車。表面にリベットとかが見えていて、今時のステルスとか、そんなの知らないっていう。男の子がすごく好きそうな感じのをやるんだっていう話をしていました。

G:
戦車というとクロムハウンズのイメージがありますが、やはりチーム戦でやろうというのも、クロムハウンズを元にした部分が大きかったんでしょうか。

鍋島:
個人的には、もし「クロムハウンズ2」を作る機会があればこういうことがやれたんじゃないかなっていうアイデアがあって、そこを今回の「V」に詰め込んでる部分はありますね。

チーム戦にした理由のひとつは、オンラインを作る時に、今までの「アーマード・コア」のオンラインは対戦が基本で、実際に対戦をやってくれているユーザーはすごく熱量を持って夢中になってやってくれているんですが、総数で言うとそういうユーザーは全体の10%くらいというデータがあるんです。

そこをなんとかしたいっていうのがあって、その理由を考えると、対戦だと上手い人はものすごく上手いんですよね。やらない人から見ると、自分がそこに混じってもボコボコにされちゃうんじゃないかっていう壁みたいなものがあったと思うんですね。

さらに、さっきもちょっと話に出ましたが、家庭用だとユーザーのオンラインへの動きは鈍るところがあって、オンラインプレイそのものが怖いというか、変な話ですが「ゲームくらい1人でやりたい」っていう感覚も一方であると思っています。でも、そこをなんとか崩さないと新しくなっていかないんだろうな、と。


鍋島:
クローズド・ベータ・テストも、まだ対戦ベースで語られることが多いんですが、開発陣としては対戦ゲームを作っている感覚ではなく、対戦「も」できるゲームを作っているつもりです。クローズド・ベータ・テストでも、オンラインモードとオフラインモードを選ぶような場面は無くて、もう最初からオンラインに繋げてしまっています。

領地ミッションでも、相手がいたりいなかったりするような仕組みになっているのも、そこの境界をとっぱらってしまって、とりあえず一回やってもらおうと。

今までの対戦でも、上手い人はむちゃくちゃ上手いんですが、下手でも楽しんでいる人はけっこういるんです。なんか負けたけど面白かった、とか、なんか勝っちゃった、とか、やってみるとそんな風に面白さを感じられると思うんです。でも、今までの仕組みだと、壁が高くてそこにユーザーを連れていけていなかった。そこをなんとかしようというのが、今回の仕組みの中では、すごく大きな要素として考えています。

G:
そういう意味では、1人でも問題無くプレイできるようになっていますね。初めてクローズド・ベータ・テストをプレイした時は、1人でプレイしていたんですけれど、1人で戦っても勝てないなっていうのが分かって、「傭兵」を雇うことにしたら、すごく簡単に雇うことができました。雇うための交渉はなにも必要無くて、リストの中から良さそうな人を選んでボタンを押すと、勝手にメンバーに入ってくれて、1人でもすごく手軽にチーム戦を遊ぶことができました。

鍋島:
チーム戦であると同時に1人でも遊べるようにっていう部分も、すごく気にして作っていますね。別の話しになりますが、先ほどお話しした「5」を作っていた時の内容っていうのは、「V」の中に全部入っているんですね。新しいオンラインの部分というのを我々もどうしても強くアピールしている部分があるんですが、今までのアーマード・コアにあった部分、1対1でACと戦う場面とか、フリー対戦とか、そういう要素は全部入っています。

そういうこれまでのアーマード・コアの要素が全部あったうえで、オンラインの領地ミッションの仕組みが全体をくるんでいるようなイメージなんですね。なので、オンラインの部分でも、今までのシリーズをずっと1人で遊んできた人でも、仲間がいないと遊べないわけじゃないっていう仕組みはいろいろと考えています。傭兵とかもその内のひとつですね。

傭兵って、ボイスチャットが通じないようになっていて、あれもけっこう悩んだんですけれど、そのほうが気楽かなっていうのがあったんですね。誰だか分からない人に、話しかけるのも話しかけられるのもイヤだっていう感覚って、けっこうあるのかなと思っていて。

そこはクローズド・ベータ・テストでもそこのアンケートは採ったんですが、けっこう割れたんですよね。開発側としては、そこはプレイヤーが遊びやすいほうにしたいなと思っていて、今のままが気楽でいいという人もかなりの割合でいました。

◆コミュニケーション手段はどうなる?

G:
コミュニケーションの部分について、クローズド・ベータ・テストをプレイした感じでは、なかなか侵攻のタイミングを合わせるのが難しかったりして、簡単なテキストチャットが入るといいなと思ったりしました。

鍋島:
一応、テキストチャットの機能自体は実装しているんですが、それを傭兵にやらせるかどうかっていうのは、ちょっと迷いどころですね。

テキストチャット自体は定型文をつかう仕組みなんですが、それを編集できるようにしたいと思っています。20個くらいの決まった内容の中から選んでメッセージを送るっていうのが、家庭用のパッドでのプレイを考えると一番いいと思うんですが、チームによって作戦の立て方、コミュニケーションの仕方って異なると思うので、内容を自由に書き換えられるようにしたいな、と。

G:
なるほど、戦闘に入る前にもともと書き換えておいて、実際の戦闘の時にはそこから選んで送る、と。

鍋島:
そうです。その中身を自分で好きなように変えることができるようにしようと。でも、そうなると、傭兵がメチャクチャな内容を送ることができるようになっちゃうんですよね。不快な内容だったり、そこは多分イヤな人にとってはすごくイヤなんだろうな、と。

G:
それで、チームメンバー限定にしようという形になるわけですね。

鍋島:
今のところはそう思っていますね。でも難しい問題ですね。

G:
ボイスチャットに抵抗を抱いている人っていうのもいるかも知れないですね。チームの中であっても、「あんまりボイスチャットは……」っていう。

鍋島:
クロムハウンズもボイスチャットが基本なんですが、その時は開発のメンバーからもものすごくそれは言われましたね。「絶対にテキストチャットを入れてくれ。ボイスチャットとか恥ずかしくてできない」と。「俺とやるのも無理なの?」って聞くと「無理です」と(笑)

6年くらい前の話で、テキストベースのチャットが主流なころですよね。「絶対に無理です」というスタッフもいましたね。

G:
クローズド・ベータ・テストの時は、自宅でプレイしてもらうメンバーもいたんですが、隣に家族がいるところで、ボイスチャットをしながらプレイするのは、やっぱりちょっと異様な光景だったみたいですね。

鍋島:
ボイスチャットについては、抵抗があるっていう人もいるし、ゲームをプレイする環境だと隣に家族が寝てるっていう人も当然いますよね。なので、テキストチャットを入れようっていうのは初めから話していました。

雇い主側から傭兵に対してショートメッセージ的なものを送れるようにしようとも思っています。傭兵側は、読んでもいいし読まなくてもいい。それに加えて、前に雇った人は分かるようにするつもりです。傭兵の雇用画面に、仲良し度みたいなもので、何回も一緒にプレイした人はそれが上がっていく。それがある程度高くなってきたら、「チームに入りませんか?」って誘えるようにしたり。

G:
なるほど。傭兵としてだけプレイしていても、その内どこかのチームに入る機会が自然に生まれてくるっていうのはいいですね。

鍋島:
そうですね。そこら辺はさじ加減がすごく微妙なところだなと思ってます。特に日本人はね。アメリカ人は「なんだよ、もっと声出せよ」みたいな雰囲気がありますけど。

面白かったのは、1年前にヨーロッパにプレゼンに行った時、現地のゲームメディアのインタビューを5社くらい合同で受けたんですが、「ボイスチャットでのコミュニケーションについて抵抗があるか」って逆質問したんですよ。ヨーロッパってどうなんだろうなって。

その場ではみんなポジティブだったんですが、インタビューが終わって帰ろうとした時、はじっこに座っていた人が「さっき言えなかったけど、僕はそういうの無理なんです……」って。ヨーロッパは大丈夫ってひとくくりにしないで、ダメな人もいるって分かって欲しくて言いに来たって言うんです。そういう人もやっぱりいるんだ、かわいいなって思いましたね(笑)

日本の場合は、慣れている人と慣れていない人の差が大きいって言ったほうがいいかも知れないですね。今は公式のファンサイトを設けていて、そういう場所ですごくポジティブにやってくれる人もいて、「どんどんうちのチームに入ってきてよ」っていう人もいる一方で、「そういうなれ合いみたいなのは無理」っていう人もいるわけですね。そこの差が激しい感じはしますね。

G:
どちらも楽しんでもらえるようにしないといけない、と。

鍋島:
そこの壁を崩す商品にしないといけないと思っていますね。両方の要素を入れておいて、片方しかやりたくない人は、片方だけでも構わない。だけど、今まではそこに壁があって、壁の向こう側が見えなくなっていたから、そこはお互い見えるようにしようと。それで興味があったらやってみてよ、きっと面白いからっていうような、仕組みにしているつもりです。

◆アーマード・コアの海外展開状況

G:
アーマード・コアシリーズの海外展開はどんな状況なのでしょうか。

鍋島:
北米とヨーロッパ、アジア圏で発売しています。でも、ロボットものってこともあって、ユーザーは日本が一番多いかなという感じですね。今回はバンダイナムコさんと販売のアライアンスができたので、海外に関しても積極的にやっていきたいなと。海外に関しては、ロボットものっていうよりは、チームでできるゲームという方向で打ち出していくことになると思います。

海外でもけっこう熱烈な人がいて、今回のクローズド・ベータ・テストでは日本のユーザー限定だったんですが、海外でも参加できるようにして欲しいっていう要望は多くありました。今、Facebookでもファンサイトがあるんですが、そこにも1700人くらい登録してくれていますね。

過去には海外のプレイヤーとのイベントもいろいろやっていて、韓国のチャンピオンと日本のチャンピオンが戦うイベントもやったりしてます。

G:
オンラインだと、そういう大会も気軽に開催できたりするのでしょうか。

鍋島:
ヨーロッパとかだと、遅延の問題がけっこうあって、現実的にはちょっと難しいかなとも思ってます。スピードの速いゲームなんで、オンラインによるラグがすごく影響するんですよね。

これまでのシリーズで言うと、現実的に日本と繋げて快適にプレイできるのは、アメリカ西海岸くらいまでという印象ですね。東海岸まで行くと、ちょっとあやしくなってきて、ヨーロッパまで行くと、真剣勝負みたいなゲームは難しいかな、という感じです。

◆なぜ「キック」なのか


G:
ゲームのシステムの話に戻るんですが、今回「キック」の要素が追加されましたね。これは従来の作品からプレイしているユーザーにとってはけっこうびっくりする機能だと思うのですが、これを追加した経緯について教えてください。

鍋島:
シリーズをやっている人からするとそうですよね。シリーズ歴代の課題として、撃ち合いのゲームなので、敵が遠くにいると敵がよく見えないというのがありました。弾が当たっているのかどうかもよく見えなくて、撃ち合ってるうちに「あれ? あいつ死んだ?」みたいな状況もありました。

達成感とか爽快感という意味では、本当はバーンってとどめを差したところが見えて、「オッシャー!」みたいになるのが理想なんですが、どうしても離れたところでミサイルを撃ち合う形になっちゃうんですね。そこは1作目からの永遠の課題みたいな部分がありました。

なので、「V」に関しては、戦闘距離を縮めたいという気持ちがありました。建物とかを利用して、相手に近づいていって、接近して戦うっていう。少なくとも「4」よりは縮めたいと思っていました。それが出来れば、敵もよく見えるので、達成感もより出てくるのかなと。

それとまた別の話で、これも永遠の課題のひとつなんですが、「なんで人型してるの?」っていう部分があります。多分そこにはもう答えは出なくて、考えてもしょうがないっていうところなんですが、手なり足なりがついているからには、何かしらの機能があって、手や足を使ってなにかやらせたいね、という話がありました。

この二つの理由がくっついて、今回「足で蹴る」というシステムが追加されたわけです。襲うほうにしても、襲われるほうにしても、近接で格闘できる手段を必ず持っているようにしたかったというのもあります。今までのシリーズでもブレードという近接武器はあったんですが、武器の枠をひとつ使ってしまうので、違う攻撃手段を持てるようにしよう、と。

足でキックができるようになった一方で、手のほうでも武器の持ち替えができるようになりました。前から「ハンガー武器」というのはあったんですが、これまではどこからともなく持ってきて武器が変わるという形だったのが、これをちゃんと視覚的にやったらカッコイイんじゃないかなと。

それで、今回はちゃんと武器を引っかけて放して、次の武器を掴んで持ってくるっていう動作をちゃんとするようになりました。手がついている説得力にもなるのかなっていう。

G:
戦闘距離を縮めたいという話がありましたが、近接武器としてはファンの間で人気のたかい「とっつき」と呼ばれる「パイルバンカー」という武器が今回も登場していますね。やはりこだわりのある部分なんでしょうか。

鍋島:
我々というよりはユーザーさんの側にものすごいこだわりをもっている人たちが何パーセントかいますね(笑)

とりあえず新作の情報を出すと、とりあえず開口一番「今回のブレードはどうなんだ」と聞いてくる人がいたりするんですが、今回は近接戦闘をやって欲しいというのもあるし、そういう人達もいるんで、ブレードとかヒートパイルも出ています。実はもうひとつ近接武器があって、今回武器には3つの属性がありますが、属性ごとに違う種類の武器がある感じですね。

G:
今回、属性が追加されたというのも、戦略性を高める一因になっているのかなと思いますが、チーム戦を行う上で、ものすごく強いアセンブルのパターンというのを無くそうという意図があったのでしょうか。

鍋島:
コンセプトの話に戻っちゃうんですが、入り口の敷居を下げたいという気持ちがすごく強くありました。例えば今回通常のブーストでエネルギーが全く減らなくなっています。あれも、通常の移動手段をとったときにデメリットが生じるというのも難しいと感じられる原因のひとつになっていたんだろうと思って、そのあたりの障壁を取り払いたいと考えていました。

一方で、アクションゲームなので、「上手くなる快感」というのが無くてはいけないというのもありました。初心者がそれなりに動かせるという条件がありつつ、そこから成長していって、上手くなった人を見たときに、全然違うと思ってもらえるようにしないといけないんですね。間口が広く、奥深くというやつです。

そういう目標のもとに、操作を簡単にして、ブーストを使いやすくしてということをやっていく一方で、奥深さも追求しなくてはいけないわけです。アセンブルの中でも、パラメーターがドバーッて有って、「何これ、意味わかんないぞ」という部分は、それはそれでいいんだ、と。そこを簡単にしちゃったら、このゲームには何も残らなくなっちゃうので。


鍋島:
ただボタンを連打しているだけのゲームにならないように、複雑さをキープしなくちゃいけないと考えた時に、もう一段考える要素を追加しようと思って、今回「KE(実弾)」「TE(化学弾)」「CE(光学弾)」の3属性の考え方を導入しました。

チーム戦なので、3属性全部バランス良く揃えるのがいいのか、どこかに偏らせるほうがいいのか、そういう部分も考えて欲しいと考えています。

◆ダウンロードコンテンツと初心者用オススメアセンブル


G:
パーツは現在、11部位で500種類以上と言われていますが、オンラインでパーツのダウンロードなどの要素も出てくる予定はありますか?

鍋島:
考えてはいますが、パーツをダウンロードするというのは慎重にやりたいなと思っていて、強いパーツは有料ですとなっちゃうのはどうなんだろうと思っていて、そこはユーザーとしても意見が分かれるところだと思います。基本的な方針としては、強いパーツをダウンロードで買うということはしたくないな、と思っています。

その代わり、性能は同じなんだけど、デザインがちょっと違うとか、持っていて自慢できるようなものはいいかなと思っています。例えば、普通のはつるっとしてるけど、俺は角がついてる、とか。性能は一緒なんですけどね(笑)

G:
今回、実際にプレイしてみても、かなり操作が直感的になっていて、初心者が参入するハードルはぐっと下がっているように思いました。ただ、まったくシリーズをプレイしたことが無い人にとっては、やはりアセンブルでまず戸惑ってしまうのではないかと思いますが、まったくの初心者が初めてプレイするにあたってオススメのアセンブルはありますか?

鍋島:
最初にある程度のパーツを揃えてあげちゃおうかなと思っています。初心者用パックじゃないですが、何十個かのパーツを最初から持っていて、その中で組み立てる限りは、よほど外れたことをしない限りはそれなりな機体ができるという感じです。

そこから、慣れてきて違うパーツが欲しくなったら、お店にはもっとたくさんパーツが売っているわけです。今まで使っていたパーツに似たタイプのものを買ってみてもいいし、まったく違う種類のパーツを買ってみてもいいという。

G:
今回、アセンブルですごく特徴の強いとがった機体を作れるようになったなと感じました。これまでのシリーズでは、あらゆるミッションに対応する必要があったので、どうしても汎用的な機体を作ってしまいがちでしたが、今回は大きく性能を特化させた機体が作りやすくなったのかなと思いますが。

鍋島:
そうですね。ミッションに関しても、途中で補給ができたり、途中でアセンブルを変えられたりする仕組みを入れてあるので、そういう遊び方もできるようになっています。ミッションの途中ですごく強い敵ACが出現する場合は、その前のポイントでアセンブルを対策用の機体に変えちゃったりするやり方もアリだと思っています。

あと、アセンブルの内容をデータで個別に保存しておけるようになっているんですが、初心者向けのお手本の機体をいくつか最初から入れておこうかなと思っています。いわゆる標準的な機体が用意されていて、とりあえず分からなかったらコレを使ってください、という。そこから、慣れてきたらその機体の脚を変えてみたり、武器を変えてみたりという感じで使えるように。

G:
今回は脚のタイプの特性がすごく良く出ているように感じましたが、各タイプでこうしようというコンセプトはありましやか?

鍋島:
脚部が機体の特性を決める一番大きな要素っていうのは「V」でも一緒なんですが、チーム戦をやる上で、脚部の役割というか、このパーツはこんなことをするパーツなんですよ、というのを明確にした方が作りやすいのかな、と考えました。

例えば、2脚だと前線で近距離戦闘をするタイプ、4脚だと狙撃をするタイプ、タンクだと待ち伏せをしたりターゲットを守るようなタイプという提示をまずしておいて、それを組み合わせによってどう補完するか、あるいはもっと特化させるかという部分はユーザーが考えられるようにしようと考えました。

アクションをしながら狙撃をするような機体も、アセンブルの仕方によっては作れます。ただ、万能な機体というのは、今までのシリーズ以上に作りづらくなっています。

◆製品版ではユーザーの50%くらいが領地を持てるように


G:
今回のクローズド・ベータ・テストでは、マップがひとつでしたが、製品版ではもっと追加される予定でしょうか。

鍋島:
そうですね。もっといっぱい増えますし、ベータテスト版だと、領地を持っている人が防衛をして、持っていない人が攻めるという感じだったと思いますが、製品版では領地を持っている人が自分の領地をカスタマイズすることができて、ほかのプレイヤーがそれを攻略するという形になります。

なので、製品版では、マップの種類だけではなく、その上に乗っかるカスタマイズによって、無限のパターンが生まれる形になります。相当遊びごたえのある内容になると思います。

G:
PS3版のクローズド・ベータ・テストでは、チームを作ると領地がひとつもらえましたが、領地獲得の流れは製品版ではどうなるのでしょうか?

鍋島:
製品版では領地をただでもらえるということはなくて、誰かから奪い取るしかないです。最初に領地を持っているプレイヤーが誰もいない場合は、NPCのキャラクターが暫定的な所有者として出現するので、そこから奪い取る形になりますね。

基本的には領地というのはあらかじめ数が決まった状態で存在していて、Xbox 360でのクローズド・ベータ・テストでは、5000組1万名の参加者に対して、領地は2000個しか存在していません。PS3版ではちょっとテストしたい部分が別にあったので、あえて領地をばらまいてしまって、防衛戦で待機していると敵が全然来ないみたいな状況もたまにありましたが、製品版では領地を持っている人の数はずっと少なくなる想定です。

ただ、そんなに極端に少なくするつもりは無くて、参加者に対して半数分くらいの領地があって、上位50%くらいなら領地が持てて、「50%くらいなら自分も領地が持てるんじゃないかな?」みたいな感覚になってもらえるといいかな、と。

G:
では、最後にファンに向けてのメッセージをいただければと思います。

鍋島:
シリーズタイトルなので、ずっとプレイしていただいている人もいるし、今回初めて知ったという人もいると思いますが、今回の「V」は今までのアーマード・コアシリーズに対して、一段上の新しいゲームにするんだという気持ちで作っています。これからいろいろなところでイベントなんかもやっていきたいと思うので、どこかで見かけたらぜひやってみてください。

今回オンライン要素を大きく拡大していますが、オンラインプレイにあまり馴染みが無い人にも遊びやすいように作っているし、1人で遊べる要素についても、少なくともこれまでのシリーズと同じかそれ以上のものを用意しています。その上で、オンラインにも興味をもってもらえればと思います。

発売を延期してしまって申し訳ないのですが、1月には発売できるように頑張りますので、よろしくお願いします。

G:
ありがとうございました。

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in 取材,   インタビュー,   ゲーム, Posted by darkhorse_log

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