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Twitch上では少数言語を存続させるための戦いが繰り広げられている


三省堂の言語学大辞典・世界言語編によると、世界には8000超の言語が存在するそうです。英語やスペイン語といった言語は世界中で広く使用されていますが、ごく一部のコミュニティでしか使用されていない少数言語も多く存在します。そんな少数言語がなくならないように活動している配信者がTwitchにいると、海外メディアのThe Vergeが報じています。

The Twitch streamers fighting to keep minority languages alive - The Verge
https://www.theverge.com/2021/6/16/22533319/twitch-streamers-minority-languages-basque-gaelic

少数言語の多くは高齢化が進む農村部などで話されている言語です。一般的には「国の人口の半数未満が話す言語」が少数言語と定義されています。ナショナルジオグラフィックによると、地球上には約7000もの言語が存在していますが、2週間に1つの言語が失われており、21世紀末までには半分の言語が誰にも使われなくなると推定されているそうです。多くの場合、少数言語は若者に忘れ去られ誰にも使われなくなっていくものですが、一部のゲーム配信者が少数言語を話すようになったことで、少数言語に注目が集まっています。

Twitch上には少数言語用のタグが存在しなかったため、少数言語を用いる配信者はTwitch上で「Other(その他)」というタグをつけて配信を行っていました。しかし、「その他」のタグ上にはさまざまな配信が並ぶため、少数言語の話者が自身の言語を用いた配信をタグ上から見つけることは困難だったそうです。


そんな中、Twitchは2021年5月21日に、性別・性的指向・人種・国籍・能力・メンタルヘルスなどに関する新しいタグを350種類以上追加すると発表しました。

Celebrate Yourself and Your Community with 350+ New Tags | Twitch Blog
https://blog.twitch.tv/en/2021/05/21/celebrate-yourself-and-your-community-with-350-new-tags/


しかし、スペインとフランスにまたがるバスク地方で話される言語で、現存する言語の中で最も古い言語のひとつとしても知られているバスク語のコミュニティは、専用タグ追加のチャンスを逃しています。

バスク語を使用する配信者のコミュニティは、2020年12月に「#3000Twitz」というキャンペーンを発足し、Twitch上に存在するバスク語を用いたコンテンツをより明確にわかるようにするための活動を開始。このキャンペーンはTwitchユーザーからのフィードバックを集めるためのフォーラムであるTwitch UserVoice上で圧倒的な支持を得ており、同じスペインのカタルーニャ語がTwitch上で専用タグを得るために行った請願時よりも多くの投票数を集めることに成功したにもかかわらず、専用タグを得るには至っていません。

バスク語を用いて配信を行っている「ARKKUSO」さんは、#3000Twitzの創設メンバーのひとりです。同氏は「バスク人がオンライン上、あるいはソーシャルネットワーク上で存在感を示すことは非常に重要です。今日、あなたがインターネット上にいなければ、あなたは存在しないも同様です。同じことが言語でもいえると思います」と語り、インターネット上でバスク語が使われることは重要であると主張。

ARKKUSOさんはTwitchが専用のタグを準備してくれなければ、バスク語を話すクリエイターはほとんど存在しないようなものであると主張しており、Twitch上でバスク語の存在を高めるために活動を行っている配信者たち全員を「活動家」と表現しています。

ARKKUSO - Twitch
https://www.twitch.tv/arkkuso


同じバスク語の話者であり、TwitchユーザーのEnekoさんは、「最初、バスク語の専用タグが存在しないため、もっと同じバスク人がいるのか、それとも検索で見つけるのが困難なだけなのかすらわかりませんでした。その後、バスク語で配信をしたいと考えたものの、障害にぶつかることとなりました。その障害とは、『バスク語で配信していることが誰にも伝わらない』ということです」と述べました。

さらに、「現在、我々の多くは複数の言語を話しているため、ひとつの言語に絞ってしまうと多くの人にコンテンツが行き届かなくなってしまいます。そのため、複数の言語をタグ付けする傾向にあるわけですが、そうなると少数言語がデジタル上で消滅してしまうか、少数言語を用いてTwitch上で誰にも見られない配信を行うか、の2択となってしまいます」と、少数言語の置かれた現状についてEnekoさんは語っています。

ARKKUSOさんは「我々はまだ小さなコミュニティであるため、バスク語でさまざまなコンテンツを作成し続け、より多くの人々にリーチするための活動を続けていきたいと考えています。それと同時に、Twitchとの対話を続けていきたいと思います。そのために、バスク政府と協力し、目標実現のために多くのフォロワーを獲得できるバスク人配信者を仲間に加えたいと考えています」と語り、公式タグが追加されるように活動を続けていくとしています。


他にも、ニュージーランドの先住民が使用していたテレオマオリ語のコミュニティも存在します。ニュージーランドの人口の15%がマオリ族であるにもかかわらず、マオリ族の4分の1しかテレオマオリ語を話しておらず、2018年の国勢調査によればニュージーランド人口のわずか4%しかテレオマオリ語を話していません。

「PrideLandz」という名前でTwitch上で配信を行っているというRangioraさんは、幼少期からテレオマオリ語を話してきたという人物です。同氏は「テレオマオリ語は私を文化・祖先・家族・コミュニティと結びつけ、私が生きる世界をナビゲートするのに役立つものです。しかし、過去5年間、テレオマオリ語の話者が周りにいなかったため、この言語をほとんど話していなかったことに気づきました。しかし、テレオマオリ語で配信を行うようになったことで、この言語を共有したり練習したりする機会が増えました」と語り、あえて少数言語で配信を行う意義を語っています。

Rangioraさんは自身の配信の中で現代のゲームの中で登場する単語をテレオマオリ語に翻訳するとどのようなものになるかを独自に翻訳するなどして遊んでいます。Rangioraさんの配信はテレオマオリの文化に興味を持つ人や、テレオマオリ語について学びたい人など、あらゆる人に向けた開かれたコンテンツになっているそうで、「私は完全にテレオマオリ語で配信しているわけではありませんが、『今週の単語』や『特定のフレーズ』などの、視聴者が気軽に利用できるようなテレオマオリ語を知識として共有しようとしています。過去の植民地化と抑圧によりマオリ語を話す人々がこの言語に自信を持っていないことを知っているので、より多くの人々がテレオマオリ語に自信を持ち、この言語を話すように促進できれば幸いです。実際、配信を行うたびに視聴者が何かしらを学べている手ごたえがあります」とRangioraさんは語りました。

なお、Rangioraさんはマオリ人の配信者たちが集まるDiscordコミュニティ「NgatiGaming」のサポートに後押しされながら、マオリ人のeスポーツ団体を立ち上げることを目標としているそうです。

PrideLandz - Twitch
https://www.twitch.tv/pridelandz


ウェールズ語で「プレイ中」を意味する「YnChwarae」というコミュニティは、ウェールズ語を話す配信者グループです。新型コロナウイルスのパンデミックが起きる前、YnChwaraeはウェールズ語でゲームをプレイしたりチャットしたりするために、毎月頻繁に直接会っていたそうです。しかし、パンデミック以降は完全にオンラインでコミュニケーションを取るようになっています。「自分が最も快適に感じる言語で自分を表現できることが重要だと感じています。言語としてのウェールズ語がより速く成長するには、ウェールズ語ですべてを行うことができるようになる必要があり、その中にはデジタルの領域も含まれます」と語るのは、同グループの一員であるモーガンさん。

過去10年間でウェールズ語の話者が徐々に増えているにもかかわらず、この言語を維持するにはやるべきことがまだまだあります。モーガンさんは「多くの人々が仕事の中でウェールズ語を使用することができないため、YnChwaraeでウェールズ語を使って配信を行うことが、ウェールズ語を有意義に使用し、忘れないようにするために役立っています」と語りました。

グウェンさんはフランス北西部のブルターニュ地方で古くから話されてきたブルトン語を使って配信を行っている唯一のTwitchユーザーです。ブルトン語はインターネット上でほとんど見られないだけでなく、1950年以降約80万人もの話者を失ってきました。そのため、フランスですらほとんど認知されておらず、メディアや公共サービスにおける支援はほとんど受けていません。

グウェンさんは「若いブルトン語話者はたくさんおり、彼らは若者が使うDiscord、Twitch、TikTok、Instagramといったものを使っています。これらのプラットフォーム上で少数言語コミュニティを成長させていくことこそが重要だと思います」と、若者向けのプラットフォーム上での活動の意義を語りました。


アイルランド語で配信を行っているTwitchチャンネルの「yunitex」は、「日常生活と同じようにアイルランド語を使用しています。そのことが人々の興味を引くきっかけになればラッキーです」と語り、他の人々とは異なり活動家として配信を行っているわけではなく、あくまで特徴のひとつとしてアイルランド語で配信をしているだけであると説明しています。

yunitexでは言語学習アプリのDuolingoと提携し、ファイナルファンタジーシリーズの実況や絵画のスケッチを、アイルランド語で配信しています。しかし、yunitexは少数言語の配信者が言語復興の最前線に立つことはできないと考えているようで、「私のような人、流ちょうな話者、個人の教師や翻訳者を何度も目にしてきましたが、それらを平等に扱うことはできません。私は教師ではなく、私です。コミュニティがひとりの人間に依存するのではなく、言語を存続させるために人々が協力することこそが重要だと思います」と語りました。

yunitex - Twitch
https://www.twitch.tv/yunitex


海外メディアのThe Vergeは、「Twitchからの正式なサポートの有無にかかわらず、少数言語で配信している人は母国語が若者の間で話されることを推奨するという重要な仕事をしています」と記しています。

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in メモ, Posted by logu_ii

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