1980年代に設計されたハッブル宇宙望遠鏡のコンピューターが停止、NASAが修理に苦戦中
NASAが、宇宙に浮かぶ巨大な望遠鏡であるハッブル宇宙望遠鏡の機器制御を行うペイロード・コンピューターが突如停止したと発表しました。ペイロード・コンピューターの停止によって、メインコンピューターがセーフモード状態となり、観測活動もすべて停止となりました。
Operations Underway to Restore Payload Computer on NASA's Hubble | NASA
https://www.nasa.gov/feature/goddard/2021/operations-underway-to-restore-payload-computer-on-nasas-hubble-space-telescope
1990年4月に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡は、長さ13.1メートル・重さ11トンの巨大な宇宙望遠鏡です。ハッブル宇宙望遠鏡は地上からおよそ600kmの軌道を周回するので、地上からだと大気の影響を受けて観測が難しい天体でも観測可能。過去にはシューメーカー・レヴィ第9すい星が木星に衝突する様子を撮影したり、太陽系外の恒星に惑星がある証拠を発見したりと、さまざまな天文学的成果を挙げてきました。
ハッブル宇宙望遠鏡には、1980年代に開発された「NASA Standard Spacecraft Computer-1(NSSC-1)」と呼ばれるシステムを採用した、科学機器を制御・調整・監視するためのペイロードコンピューターが2台搭載されています。2台搭載されているのは冗長性のためで、問題が発生した時に切り替えることができるように設計されています。
さらにハッブル宇宙望遠鏡には64KBのCMOSメモリを搭載したメモリモジュールが4基搭載されています。この4つのメモリモジュールのうち、実際に使うのは1つだけで、残り3つは冗長性を確保するための予備となっています。
NASAによれば、2021年6月13日に突如ペイロードコンピューターが停止したとのこと。ペイロードコンピューターとメインコンピューターは定期的にハンドシェイクの送受信を行っていますが、ペイロードコンピューターが停止すると共にこのハンドシェイクの送受信に失敗し、メインコンピューターは自動的にセーフモードに移行しました。
NASA continues to work to resolve an issue with the payload computer on the Hubble Space Telescope, which halted on June 13.
— Hubble (@NASAHubble) June 18, 2021
Launched in 1990, Hubble has contributed greatly to our understanding of the universe over the past 30 years. https://t.co/qEmIUQCtuX
翌日の14日に、ゴダード宇宙飛行センターの管制官がコンピューターを再起動するコマンドを送信したものの、再び同じ問題が発生。NASAは当初「メモリモジュールの劣化によってNSSC-1が停止した」と考え、予備のメモリモジュールに切り替えるコマンドを送信しましたが、このコマンドも実行に失敗したとのこと。
そしてNASAは、6月17日の夕方に再びペイロードコンピューターの再起動に挑戦。メモリモジュールの診断情報を取得するために、全てのメモリモジュールをオンラインにしようと試みましたが、結局失敗に終わりました。
このエラーによって、ハッブル宇宙望遠鏡の観測作業はすべて停止。記事作成時点では、問題が解決するまでメインコンピューターはセーフモード状態となっています。NASAによればあくまでもペイロードコンピューターが停止しているだけで、望遠鏡やセンサー類には異常が見られないとのこと。
ハッブル宇宙望遠鏡はもともと運用期間を15年に設定されていましたが、打ち上げ直後に発覚した不具合を宇宙飛行士の船外活動で修理したことで性能が劇的に向上し、結果的に30年以上も活躍し続けてきました。その一方で、2021年では入手困難なパーツも多いため、以前のように船外活動で修理することも困難な状況。そのため、ハッブル宇宙望遠鏡の老朽化は大きな問題となっており、2018年にも姿勢制御装置の故障で運用が停止しました。
ハッブル宇宙望遠鏡がジャイロスコープの不具合によりスリープモードに突入してしまう - GIGAZINE
なお、ハッブル宇宙望遠鏡が使えなくなっても、2021年10月31日にはハッブル宇宙望遠鏡の後継機となるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が打ち上げられる予定となっているので、宇宙からの高精度な天体観測が行えなくなるのはわずか数カ月の間といえます。
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