乗り物

「風で走る車が風よりも速く走ることができるか」について物理学者とYouTuberが100万円を賭けて勝負


物理学の世界では「風で走る乗り物が風と同じ向きに進む時、風よりも速く走ることはできない」というのが定説です。そんな説が本当に正しいのかについて、人気科学系YouTuberで物理学の博士号を取得しているデレク・ミュラー氏が実際に風力自動車に乗り、カブリ数物連携宇宙研究機構所属の物理学者であるアレクサンダー・クセンコ氏に1万ドル(約110万円)の賭けを持ちかけました。

A Physicist and a YouTuber Made a $10,000 Bet Over the Laws of Physics
https://www.vice.com/en/article/pkb3pk/a-physicist-and-a-youtuber-made-a-dollar10000-bet-over-the-laws-of-physics

ミュラー氏は実験の様子と自分の見解を以下の動画にまとめて公開しています

Risking My Life To Settle A Physics Debate - YouTube


「水に浮かんでいるヨットを想像してみて下さい。風向と平行に進むヨットのスピードが風速と一致した時、ヨットはそれ以上速く進むことはできません」と語るミュラー氏。


競技セーリングなどでは風速よりも速く進むことも可能ですが、これはヨットの帆を風向に対して斜め45度に傾けることで揚力を発生させ、風上に向かって航行するという仕組み。


今回の実験で用意された風力自動車「Blackbird」はこんな感じ。後部の巨大なプロペラが2つの後輪にチェーンでつながっており、ブレーキに相当するプロペラのピッチ調節レバーとハンドルのみを備えたシンプルな構造です。今回の実験では、 Blackbirdのプロペラを風向と垂直に置き、風向と平行に走行させます。


2010年にエンジニアのリック・カヴァッラーロ氏がGoogleなどの協力を得て開発したBlackbirdは、当時北米ランドセーリング協会によって「風速のおよそ2.8倍で走る」と測定されましたが、物理学会などから「設計に疑問が残る」といった理由で大きく反発を受けました。そこで、YouTuberのミュラー氏が改めてこの説を検証したというわけです。

車体前方には吹き流しが付けられています。車のスピードが風速よりも遅い場合、吹き流しは前方に流れますが、車のスピードが風速よりも速くなると吹き流しは後方に流れます。この吹き流しで「車が風よりも速く走っているか」を判断するというわけ。


思ったように風が吹かない中、4度目の実験でようやく成功。「Blackbirdは風よりも速く走る」ということが証明されたと、ミュラー氏は主張しています。


ミュラー氏はBlackbirdが風速よりも速くなったことについて、「プロペラが風力を加速のエネルギーに変換したからです」と解説しています。

この実験について、ミュラー氏が以前物理学について話し合ったクセンコ氏に連絡を取ったところ、クセンコ氏は「Blackbirdの設計に問題がある」「突風により一時的に加速し、慣性の法則で風速よりも速いスピードに至った可能性がある」と指摘。10枚のスライドを用意してミュラー氏の実験を否定しています。


また今回、どちらの説が正しいのかについて1万ドルの賭けを行うことに両者が同意し、誓約書をTwitterに公開しています。クセンコ氏は賭けに勝った場合、自身が設立したオンライン学習プラットフォーム「Kudu」に寄付すると述べており、ミュラー氏は勝った場合いずれかの慈善団体に寄付すると述べています。


ミュラー氏は今後Blackbirdと同じ動作原理を備えたモデル車両を作成し、適切な環境下で再度実験する必要があるとのことです。クセンコ氏は「物理法則のおかげで賭けに負ける危険はないので、どんな額でも賭けを受け入れることができました」と述べています。

ミュラー氏は「クセンコ氏の『風力自動車は風速より速く走れない』という主張は物理学の基本法則に対する真の挑戦であると考えています。もし私が正しければ、物理学は非常に非直観的な方法で立証されたと言えるでしょう」と述べています。また、「知的な人々が互いに異なる意見を口にできることは素晴らしいと思います」と付け加えており、両氏は「この議論が教育的に良いものである」という共通見解を持っているとのことです。

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in 乗り物, Posted by log1p_kr

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