続けてきた運動をやめてしまうと肉体はどれくらい早く衰えるのか?
by Fiore Power
「運動は健康に良い」というのはもはや常識となっており、運動を勧めるテレビ番組やキャッチコピーが世の中にあふれていますが、運動を継続するのは困難です。一度始めた運動を「やめた場合」に身体に生じる変化について、運動と心肺機能に関する専門家であるダン・ゴードン准教授と、健康・運動栄養学を教えるジャスティン・ロバーツ准教授が解説しています。
How quickly do we become unfit?
https://theconversation.com/how-quickly-do-we-become-unfit-160500
ゴードン准教授らが指摘するのは、少しでもトレーニングを休んでしまうと、体を鍛える速度よりもはるかに速く身体がなまってしまうという事実。この事実を理解するために重要だと挙げられているのが、人間の肉体は心肺機能や筋力などの能力を問わず「慣れ親しんだ負荷」を超えることで成長するという点です。ゴードン准教授らによると、人間の肉体はいつも以上の負荷がかかると適応能力が働き、耐性を獲得し、より高いレベルに到達するとのこと。
健康になるために必要な時間は運動強度・年齢・努力量・環境などのさまざまな要因によって変わりますが、わずか6回のインターバルトレーニングでも有酸素運動能力を反映する最大酸素摂取量(VO2Max)が増加し、細胞内に蓄積された糖分を効率よく消化できるようになるという研究結果も存在します。一方で、筋力トレーニングは2週間程度で筋力が向上するものの、筋肉の大きさは8~12週間続けないと変化がみられないそうです。
本題である「運動をやめた場合に身体はどのように変化するのか」という疑問について、ゴードン准教授らはフルマラソンを2時間半で走りきるというマラソン選手を例に挙げて解説。このマラソン選手は、週5~6日はトレーニングに時間を割き、一週間あたりの総走行距離はおよそ90kmで、それまでに15年間トレーニングを続けてきたという設定です。
ゴードン准教授によると、このマラソン選手がトレーニングを完全にやめた場合、運動機能の低下は「数週間以内」に始まります。1986年の研究によると、VO2Maxはトレーニングをやめた直後の4週間で約10%減少することが示されているそうで、長期的には減少速度は低下するものの、一定期間は「4週間で10%」というペースで減り続けるとのこと。
VO2Maxが低下し続ける理由は、心臓と筋肉にかかる負荷が消滅したことによって、血液量と血漿量が減ってしまうことにあります。血液量と血漿量はトレーニングをやめた直後の4週間で12%も減少するという研究結果が得られており、血漿量に至ってはトレーニングをやめた48時間以内に5%減少することさえあるとのこと。ただし、運動していなかった頃よりも血液量と血漿量が少なくなることはないため、「運動を始めなかったほうが良かった」という状況にはなりません。
例に挙げたマラソン選手のように、高レベルのアスリートは最初の4週間でVO2Maxが急激に低下するものの、最終的には一般人に比べて高いレベルのVO2Maxを維持できます。一方、2021年に発表された研究によると、一般人のVO2Maxは「8週間以内にトレーニング前のレベルに戻る」とのこと。
筋力に関して言えば、一般人は約12週間トレーニングしないと持ち上げられる重量が大幅に減少すると示されていますが、トレーニング時の強さをある程度は保持し続けられるという「マッスルメモリー(筋肉記憶)」と呼ばれる機能が肉体には備わっているため、基本的に筋トレは有意義とされています。
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長期間運動しないと筋力が低下する理由について、ゴードン准教授らは「筋肉にストレスをかけないことが原因」と解説。筋肉は激しいストレスを受けない状態が続くと筋繊維の本数自体が減少するだけでなく、運動に用いられる筋繊維の本数まで減ってしまうとのこと。長期間運動をしなかった場合は運動に用いられる筋繊維の本数がまず減るそうで、2週間トレーニングを行わなかった場合は筋肉量自体は減らないものの、運動時に使用される筋繊維の本数が13%低下するそうです。この現象について、ゴードン准教授らは「筋肉は怠ける」と表現しています。
以上から導き出される結論として、ゴードン准教授らは「健康になるためにあらゆる努力を行っても、運動をやめてから48時間以内に心血管系の能力と筋力が低下し始める。しかし、実感が出るまでには心血管系では2~3週間、筋力では6~10週間の猶予がある」とコメント。衰えるまでの期間の長さは年齢や性別によらないそうですが、運動を続けた期間が長いほど長くなるそうです。
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