サイエンス

ブラックホールの強力なジェット噴射に関する謎が解明されようとしている


ブラックホールと聞くとあらゆるものを吸い込んでしまうイメージが強いかもしれませんが、一方で高温のプラズマをジェット噴射していることもわかっています。新たに、巨大ブラックホールを観測するために複数の電波望遠鏡を組み合わせたイベントホライズンテレスコープ(EHT)が撮影した画像から、ブラックホールが放出するジェット噴射のエネルギー源についての謎が解明されようとしていると、科学系メディアのQuanta Magazinがまとめています。

Physicists Identify the Engine Powering Black Hole Energy Beams | Quanta Magazine
https://www.quantamagazine.org/physicists-identify-the-engine-powering-black-hole-energy-beams-20210520/

ハッブル宇宙望遠鏡による観測の結果、ほとんどの銀河の中心には超大質量ブラックホールが存在すると考えられています。そんな超大質量ブラックホールは高エネルギーのプラズマジェットを噴射しており、銀河で最も明るいとされる天体のクエーサーの光も、ブラックホールがエンジンとなって放たれているとみられているとのこと。

超大質量ブラックホールの質量と銀河の中心部にあるバルジという膨らみの質量は比例関係にあることもわかっており、銀河中心のブラックホールは銀河の形成と深く関わっていると考えられています。2019年には高エネルギーのジェットを噴射し、複数の銀河にまたがって星の形成を促進しているとみられるブラックホールが発見されました

EHTはそんな超大質量ブラックホールを観測するための国際的プロジェクトであり、おとめ座銀河団の中核をなす超大質量ブラックホール「M87」の観測などを行っています。EHTが撮影した画像が超大質量ブラックホールによるジェット噴射のエネルギー源に関する1つの仮説を裏付けたとのことで、Quanta Magazinは今回の発見を解説したムービーを公開しています。

Black Hole Jets: One of the Biggest Mysteries in the Universe - YouTube


銀河の中心部に位置する宇宙で最も神秘的な存在が、超大質量ブラックホールです。


太陽の数百万~数十億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールは、高エネルギーのプラズマジェットを噴射しています。これは、物理学で知られる中で最も高いエネルギーを持つ現象だとのこと。


2019年4月、EHTはM87の姿を捉えた画像を公開しました。長らく理論上の存在だったブラックホールの姿を、CGやシミュレーションではなく実際の観測結果として撮像したのは画期的なことでした。


そして2021年3月、EHTはM87の新たな画像を公開。この画像こそが、天文学者らが「ブラックホールが放出するジェット噴射のエネルギー源」を理解する手がかりになるそうです。


「クエーサーはほとんどの銀河の核にあるブラックホールです」と述べるのは……


スタンフォード大学の天体物理学教授であるロジャー・ブランドフォード氏。「クエーサーは私たちの太陽系よりも小さいですが、さまざまなメカニズムを通じて銀河全体を輝かせることができます。非常に小さいですが、とても強力なエンジンです」とブランドフォード氏はコメントしています。


クエーサーの中心にある超大質量ブラックホールは非常に大きな質量を持っていることが特徴ですが……


それと同時に「高速で回転している」という点も重要な特徴だとのこと。


ブランドフォード氏がローマン・ナエク氏と共同で1977年に提唱した「ブランドフォード・ナエク機構」という理論では、ブラックホールの回転によってプラズマが引き寄せられられることで磁場が生まれ、数千光年先まで届くジェット噴射を放出しているとされています。つまり、ブラックホールの回転による磁場が強力なジェット噴射のエネルギー源であるという仮説です。


ブランドフォード氏は、「ジェット自体は非常に高温のガスで構成されており、磁場と共に光速に近いスピードで移動します」と述べ、放射線がビームのように宇宙空間へ発射されると解説しています。


初めて銀河の中心から延びる宇宙ジェットを発見したのはアメリカの天文学者であるヒーバー・カーチス氏で、1918年のことでした。このジェット噴射は後にM87からのものであったことがわかっています。


ブランドフォード氏がケンブリッジ大学の学生だった1970年代初頭は、「ブラックホール研究のゴールデンタイム」だったとのこと。同時期にスティーヴン・ホーキング氏もケンブリッジ大学で研究を行っていた他、ロンドンではロジャー・ペンローズ氏がブラックホールの研究を行っていました。


そんな中、ブランドフォード氏は友人だったローマン・ナエク氏と共に、ブランドフォード・ナエク機構を発表しました。


ブランドフォード・ナエク機構は、ブラックホールの回転からエネルギーを取り出すことが可能であり、それがジェット噴射のエネルギー源になっていると主張するものでした。


ブランドフォード・ナエク機構によると、回転するブラックホールが磁場をねじ曲げてらせん状にすると……


電子と陽子が磁場のらせんを通ってブラックホールの両方向から噴射され、プラズマジェットとなるとされていました。


これはあくまでも理論に過ぎませんでしたが、2021年3月にEHTが発表した画像には電波がらせん形に偏光している姿が写されていました。


オランダ・ラドバウド大学の天体物理学者でありEHTのプロジェクトメンバーであるサラ・イサウン氏は、「この画像は磁場がらせん状であることを教えてくれます。ブランドフォード・ナエク機構には、まさに私たちが見ているような秩序だった磁場が必要です」とコメント。


このらせん状の構造は、ブランドフォード・ナエク機構が予測する通りに、ブラックホールの非常に近くにガスを押し出す磁力があることを意味しているとのこと。


イサウン氏らは、この磁力が超大質量ブラックホールが放出するジェット噴射のエネルギー源であると考えています。


ブランドフォード氏は、超大質量ブラックホールは非常に小さな天体でありながらも、銀河において重要なビッグプレイヤーであると述べました。

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in サイエンス,   動画, Posted by log1h_ik

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