サイエンス

ゴルフ場を悩ます雑草が「芝刈りされた記憶」を子孫に伝えると判明


芝草の1種であるスズメノカタビラは非常に生命力が強く除草が難しい種であり、ゴルフ場では抜いても抜いても生えてくる雑草として忌み嫌われる存在です。アメリカでは、スズメノカタビラを除去せずに共生を図るゴルフ場も多く、グリーンに最適なスズメノカタビラの品種開発も研究されています。そんなスズメノカタビラは「芝刈りされた記憶」を子々孫々に継いでいくことが、10年以上にわたる研究によって明らかになりました。

Golf course turfgrass species 'remembers' if it was mowed, develops differently | Penn State University
https://news.psu.edu/story/655239/2021/04/19/research/golf-course-turfgrass-species-remembers-if-it-was-mowed-develops


スズメノカタビラは多年生あるいは一年生の草種で、繁殖力が強いため、南極大陸を含む地球上の7大陸すべてで植生が確認されています。また、スズメノカタビラは他の芝生を圧倒するほど丈夫かつ広範囲にわたって育つので、正確なパッティングを要求されるゴルフ場のグリーンに凹凸を生んでしまい、ゴルフ場を悩ませる雑草として忌み嫌われてきました。

しかし、近年ではその生命力を逆に利用し、「スズメノカタビラでグリーンを構成することで、パッティングに影響が出にくいグリーンが作れるのではないか」というアイデアが注目され、グリーンに適したスズメノカタビラの品種開発が検討されています。


ペンシルバニア州立大学農業科学部のジョゼフ・E・バレンタイン芝草研究センターで芝草の遺伝について研究しているデビッド・ハフ教授は、全米ゴルフ協会の援助の下で1994年から10年間にわたり、ゴルフコースのグリーンに最適なスズメノカタビラの品種開発を行っていました。

研究開始から10年後、ハフ教授はグリーンに求められるような、葉が丈夫で非常に短い品種を12種類も開発し、ついにその種子生産の段階まで進みました。しかし、どの品種でもグリーンへの適性が見られるのは2~3世代までで、それ以降の世代では短かった草の丈が伸びてしまい、グリーン向けではなくなってしまったとのこと。以下の画像の左がグリーン適性の高いスズメノカタビラで、右がその数世代後のスズメノカタビラです。


最初は「雑草と交雑してしまうのではないか」と思われましたが、ハフ教授が何度試しても、数世代を経るとスズメノカタビラは高く伸びる雑草になってしまいました。そこでハフ教授は、大学院生をプロジェクトに参加させて研究を重ね、「芝刈りで草の丈を一定の短さにされることによって受けるストレス」がスズメノカタビラの生長に影響を与えることを突き止めました。

ハフ教授は、「スズメノカタビラは芝刈りをされると、そのストレスによってDNAのメチル化が進み、芝刈りによる影響を子孫に伝えることができるということがわかりました。環境の変化に適応するための能力である『可塑性』は、遺伝子の機能を変更して発現に影響を与えるエピジェネティックなメカニズムによってもたらされています」と述べています。

DNAのメチル化とは、DNAを構成する核酸塩基の炭素原子にメチル基がつく反応のことで、遺伝子の発現を抑制します。例えば、草食動物がいる環境にスズメノカタビラが育った場合、草の丈が高くなると食べられやすくなってしまいます。すると、食べられたストレスでDNAがメチル化され、草の丈がなるべく伸びないように適応していくというわけです。

しかし、実験室で育てられたスズメノカタビラは草刈りもされず草食動物にも食べられなかったため、ストレスを受けませんでした。その結果、DNAのメチル化が行われず、数世代を経るとスズメノカタビラの丈が高くなってしまったとハフ教授は考えています。

ハフ教授の研究チームに属する博士課程のクリス・ベンソン氏は「芝刈りによるストレスを受けないことで、スズメノカタビラはエピジェネティックなストレスの記憶が減衰していったと考えられます。このように世代を越えたエピジェネティックな記憶は、芝刈りによるストレスが続けば定着し、逆にストレスがなくなれば失われていくのでしょう。この知見を利用すれば、遺伝を克服して安定した品種を開発することができると考えられます」とコメントしました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
子どもの頃の環境が「遺伝子の働き」を変えてその後の人生に影響を及ぼしているとの研究結果 - GIGAZINE

犬の年齢を人間に換算する新しい公式が登場、1歳の犬は人間でいうと何歳なのか? - GIGAZINE

宇宙と地上に分かれて1年間過ごした双子の宇宙飛行士の体にはどんな違いが出るのか - GIGAZINE

文化的・社会的な違いが遺伝情報の1つとしてDNAに刻まれている可能性が判明 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1i_yk

You can read the machine translated English article here.