なぜ人は「被害者意識」をもつのか?
2020年はジョージ・フロイド氏が警察官による拘束を受けて死亡した一件を機に、アメリカではミネアポリスを中心に大規模な抗議運動が広まりました。このジョージ・フロイド事件に代表されるように、近年では被害者を賞賛するような扱いや報道が盛んです。こうした風潮に見られる「被害者意識」について、専門家のラハブ・ギャベイ氏が解説しています。
Why People Feel Like Victims - Issue 99: Universality - Nautilus
https://nautil.us/issue/99/universality/why-people-feel-like-victims
イスラエルのテルアヒブ大学で心理学について研究を行うギャベイ氏は、「自分は対人関係における犠牲者だ」という感覚をどれくらい長く保持し続けるかに関する性格特性「Tendency toward Interpersonal Victimhood(対人関係における被害者意識に対する傾向、TIV)」と呼ばれる概念について研究を行う人物。TIVという性向について、ギャベイ氏は「4つの要素がある」と解説します。
1つ目の要素は「被害者が加害者だけでなく社会全体に認知されることを執拗に求める」という点で、2つ目は「被害者が道徳的に優位であり、被害者以外の人間は道徳的に劣っていると見なす」という点、3つ目は「被害者は自分勝手な行動をとる権利があると考える共感性の欠如」、4つ目は「自尊心を傷つけられたエピソードについて延々考え込んでしまう後ろ向きな傾向」です。
ギャベイ氏は「仕事の同僚からネガティブなフィードバックを受け取った際にどう考えるのか」という調査を実施し、被験者のTIVと復讐心についての関係性も調べています。この調査によると、TIVが高い(=被害者意識が強い)人ほど復讐心が強いだけでなく、「許そうとしない気持ち」まで強かったとのこと。
ギャベイ氏によると、非常に高いTIVを有する人物は、基本的にはPTSDのようなトラウマを経験した人物です。一連の研究からギャベイ氏は、被害者意識の強さと心理学における「Anxious Attachment Style(不安型愛着スタイル)」という概念に相関関係があることも発見しています。不安型愛着スタイルとは、両親などの幼少期に世話をした人物が「行動に一貫性がなかった/ケアが必要なときに気づいてくれなかった/非常に攻撃的な態度を取った」などの結果、通常ならば自然と学ぶべき「自分で自分をなだめる方法」を学べなかった状態とのこと。不安型愛着スタイルを抱える人物は、攻撃に関連した否定的感情を引きずり続けるそうです。
一方でギャベイ氏は「国や社会」がTIVに与える影響が大きいと指摘します。ギャベイ氏が個人的に旅行したネパールでは人々が怒りを示して互いを責める傾向がなく、「怒りを示すというのは幼稚である」という概念が存在したそうです。また、ギャベイ氏は「リーダーが被害者のように振る舞うと、人々は攻撃的になっても構わない、他人を責めても構わない、他人を傷つけても責任を取らなくても構わないと学ぶ」と述べ、「被害者意識には国や社会によって非常に大きな違いがある」と説明しています。
ギャベイ氏はTIVが日常生活にすら影響を与えると述べつつ、対処法については「子どもの教育が最重要」と一言。子どもの教育以外では、TIVの4要素について良く学び、被害者意識に基づく行動を意識することで「自分の意図」「自分の動機」について理解を深めることこそが、被害者のような振る舞いを減らすことに役立つと述べています。
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