メモ

第2次世界大戦の時期に台頭したファシズムや独裁主義に科学者はデータ駆動型の分析で戦った

By Lisandro M. Enrique

現代まで幾度となく戦争や紛争を繰り返してきた人類の歴史は、自分たちとは異なる他者と対立し、排斥する行為の繰り返しだったと捉えることができます。社会が不安定になり、人々の間で不安が広がる時期には社会の中に「内向き」のベクトルが生まれ、他者を排除する空気が強まります。ファシズムや独裁主義が台頭した1900年台前半もそのような空気が広がったわけですが、そんな時代において人々の心を科学的に捉え、データをもとにその本質を科学的に理解しようとする科学者の試みが行われていました。

How World War II scientists invented a data-driven approach to fighting fascism | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2016/06/how-world-war-ii-scientists-invented-a-data-driven-approach-to-fighting-fascism/

複数の質問に答えることでその人の性格や人格をはかることができる「人格テスト」はかつて、ある人物が権威に服従する権威主義者であるかどうか、そしてナチズムに傾倒する志向があるかどうかを判断するために用いられていました。1943年、カリフォルニア大学バークレー校の3人の心理学者は第二次世界大戦の勃発と時を同じくして始まったユダヤ人の大量虐殺「ホロコースト」を理解するために苦労を重ねていました。その謎を解き明かし、ナチズムの台頭を阻止するために、ダニエル・レビンソン氏、ネビット・サンフォード氏、そしてエルツ・フレンケル・ブランズウィック氏の3人の科学者は「科学的合理性」の考え方を用いる方針を打ち立てました。

3人は、人々が潜在的に持っている権威主義者の志向を特定することができるとされた「Fスケール」と呼ばれる人格テストを生み出したのですが、これは「悪者を見つけ出すため」のものではなく、なぜ一部の人々がアドルフ・ヒトラーのような政治家に魅了されてしまうのかを理解し、さらには若者がそのような思想に感化されることがないように教育システムを改善させることが目的でした。

By WWIIHITLERTHIRDREICHHISTORY

研究計画を練り上げるにあたり、3人の科学者は「人格が離散的な性格に分解される可能性がある」という心理学でも議論のある考え方を用いることにしました。19世紀後半から20世紀前半にかけて広く支持され、後にナチス政権による人種政策へとつながった優生学の第一人者である人類学者フランシス・ゴルトンらの科学者は、人間の性格を「犬の性格テスト」と同じように測定できると考えていました。この考え方は社会からの関心を集め、アメリカ軍も高いストレスを受けることで軍の兵士が心理的障害を負う「シェル・ショック」に対する耐性を判断するための人格テストを世界で初めて作り上げました。

そして、このテストが後に、反ユダヤ主義と独裁者に従う権威主義者である傾向をはかるための人格テストとして応用されることへとなります。前述のレビンソン氏、サンフォード氏、フレンケル・ブランズウィック氏の科学者チームは1943年、バークレー校の心理学部から500ドルの助成金を得ることに成功し、この人格テストの策定に乗り出しました。チームはバークレー校の学生に対して徹底的な個人面談と筆記による人格テストを実施。その結果、ビジネスを学ぶ学生からの「多様な労働力を雇入れ、世界中の人々と働きたい」といった、民主的価値が反映された意見を述べられた一方で、法学部を学ぶ学生から「私はユダヤ人を見分けることができる」「アメリカは他の国での不適格者が集まるという重荷を背負っている」といった差別的な返答が得られたことも明らかになっています。

By Micha? Gorecki

この研究は後に、アメリカユダヤ人委員会の理事会にいた著名な社会科学者、マックス・ホークハイマー氏の目を引くことになり、さらに多くの資金を獲得することにつながります。これにより、チームは研究対象を広げてそれまでの定量的な枠組みに「質的分析」を持ち込むことで、後の「Fスケール」テストが完成することとなりました。

科学者チームが記した書籍「The Authoritarian Personality」によると、チームは数多くの面談を行う中で人格テストの対象を反ユダヤ人主義から黒人やフィリピン人、移民を排除する思想を持つ人へと方向転換することになったとのこと。その結果、権威主義者であると高く判断された人に共通するものが、自分とは異なる「奇妙な人」に対する一般化した嫌悪感であることを見出しました。また、「反ユダヤ主義志向を持つ権威主義者ではない(=反ユダヤ主義者である)」という項目で高い点数を示した人は、「自らとは別の部外者グループに対する憎しみを持つ」という項目においても高い点数を示すこともわかったとのこと。

By D.E. HannaH

もう一つの発見は、権威主義者は科学に不信を抱き、想像力を使って問題を解決するという考えを強く嫌っていたことです。権威主義者は社会を組織化するための方法として、すでに実証済みで伝統的な方法に固執する傾向にありました。彼らは「戦争は人間の本質的な派生物なので、武力は紛争に対処する最善の方法である」と信じていました。また、同性愛に強く反対し、同性愛者を殺したり、少なくとも刑務所に収容したりしなければならないとも主張しました。しかしより一般的に見ると、彼らは他の人々の性生活を規制することに魅了されていました。とりわけ、芸術家や弱い政治家、少数民族などによる「自由奔放な性生活」がその念頭にあったとのこと。

総合的に科学者チームは、権威主義者は「力の強い者が弱者を支配する」「権力側にいるのがベストな選択」のような「シニカル」、つまり他者を見下したような態度を持つ人たちであるとの説明にたどり着きました。これらの知見の結果として、Fスケールは最終的に、権威主義者に魅了されてしまう人格を形成する要素として、民族主義、迷信、侵略、冷笑、保守主義、および独占的な性生活への過度の関心といった要素を測定することを目的とするようになりました。科学者チームはその後、オレゴン大学やジョージ・ワシントン大学の学生、組合員、戦争獣医、サン・クエンティン刑務所の受刑者、精神科医の患者など幅広い人を対象にFスケールのデータを収拾していきました。

以下のリンクでは、実際に実施されたFスケールの再現版を体験することができます。本来は「強く同意する」から「強く反対する」までの段階的な選択肢がありましたが、ここでは「同意する」と「同意しない」の2択に単純化されています。また、設問は1940年台後半に作られたものであるため、古さを感じさせる部分もあるとのこと。結果の判定は「同意する」を選択した回数によって行われ、回数が多いほど権威主義者的志向が強いことを意味します。

Where do you fall on the F-Scale? | Page 1 of 1 | Polldaddy.com
https://arstechnica.polldaddy.com/s/where-do-you-fall-on-f-scale


上記のように、このテストの構造は単純なものであるため、いくつかの問題をはらんでいます。ミネソタ大学の政治心理学者、クリストファー・フェデリコ氏は、「黙従バイアス」と呼ばれる心理学的現象が結果に影響を与えることを指摘しています。人々の中には他人が言うことに同意することを好む人がいるため、得点の高い人は独裁的な傾向がある可能性がある一方で、黙従バイアスから深刻な影響を受ける可能性も残ります。

ハーバードの政治学者、ピッパ・ノリス氏は科学者チームの功績について「彼らは完全なテスト構造を作り出すことはほとんどできませんでしたが、今日の権威主義を学ぶ学者が適切と考える良質なデータを集めることができました。社会心理学の分野でパラダイムを設定しました」と評価しています。

その後の21世紀の心理学では、潜在的な独裁的傾向を明らかにするためのテストの完成度が高められています。ほとんどのテストではFスケールと同じような「右翼的志向のある権威主義者は、伝統を重んじるがあまり、想像力のある解決策を妨げる」「多様性への適合性を優先させる」といった仮定が行われているとのこと。現代の権威主義に関する最も一般的なテストは、政治学者のカレン・ステナー氏が作成したもので、特定のグループや偏見を参照することなく、多くの形で権威主義を捉えるのに十分な幅広い質問が行われます。その例は以下のようなものです。

1.子どもが持つべき重要なものは次のどちらですか?:「独立性」「年配者に対する尊敬」
2.子どもが持つべき重要なものは次のどちらですか?:「忠実さ」「自立」
3.子どもが持つべき重要なものは次のどちらですか?:「思慮深さ」「礼儀正しさ」
4.子どもが持つべき重要なものは次のどちらですか?:「好奇心」「マナーの良さ」

この設問に対して権威主義者は、子供たちが尊敬や服従、礼儀正しさ、良いマナーを持つべきだと答えるとのこと。しかし、「従順な子ども」を重視する人が、時に大虐殺や人種暴動を起こす側に加わるようになる仕組みは一体どのようなものなのでしょうか。前述のステナー氏は2005年に出版した著書「Authoritarian Dynamic」の中で、権威主義者が持つ深い偏見のある信念はある「トリガー」によって活性化されて表面化することを示しています。前述のフェデリコ氏は「権威主義者は基本的に、外から脅かされた時にのみ不寛容になります」「特に『社会常識が変化する』『社会が多様化していく』という特定の脅威がその要因となります」と述べています。

フェデリコ氏は、世界のさまざまな場所でプーチン大統領やトランプ大統領といった過激なリーダーが人気を得て、権威主義が台頭する状況をステナー氏の活性化理論が説明できると考えています。「権威主義者は、黒人の大統領、平等な結婚の広がり、『アメリカの非白人化』のような変化する社会人口統計など、目に見える社会変化によって活性化されています」とフェデリコ氏は指摘。カリフォルニア州の人口の過半数は今や白人ではなく、ラテン系アメリカ人へと変化しています。この状況に対し、1940年台に排斥運動を起こした人々の孫の世代が一周巡って同様の排斥運動を行っているというのが、ステナー氏やフェデリコ氏の分析です。

By IoSonoUnaFotoCamera

この社会の流れは、ファシズムの台頭と捉えることができます。果たしてファシズムを科学で抑えることができるのかという点が注目されることになりますが、それは容易ではないという見方が存在します。バークレー校のマーティン・ジェイ氏は「ファシズムに直面する方法は、議論でどうにかなるレベルにはなく、無意識の動機の部分に働きかける必要があります。議論が通用しない相手にどのように対処すれば良いのでしょうか?」と、その難しさを語ります。

権威主義者の社会クラスターは、かつてラジオや映画がプロパガンダの道具として使われたように、インターネットのような現代のメディアをうまく活用することでその考えを広く拡散しています。そしてこれは、アメリカで「地球平面論」のような非科学的な考えが支持されるに至ったり、他者を排斥する志向の強い考え方が浸透したりすることにつながっています。

フレンケル・ブランズウィック氏が示す、心の中の「自己欺瞞の仕組み」と呼ぶものを理解するまで、人々が非合理的な偏見を形成するのを防ぐ絶対的な方法を手にすることはできません。しかし、フレンケル・ブランズウィック氏は「The Authoritarian Personality」の文末で「寛容性が人の基本的欲求をより多く満たすと考えるに足る理由が存在します。寛容性を示す人は、社会の流れに反する考えを示す必要があるために罪悪感を感じることもある反面で、偏見を持つ人と比較してより強く幸福を感じます。『恐怖』と『破壊』がファシズムの主要な感情的源泉であるとすれば、民主主義のそれは無償の愛を意味する『エロス』であるからです」と締めくくっています。

・関連記事
「人類はかつてないほど危険な時期を迎えている」とホーキング博士が警告 - GIGAZINE

350年前の「相手に考えを変えさせる方法」が効果的と現代の心理学者が支持 - GIGAZINE

不平等は「暴力」によって解消される - GIGAZINE

「共感」が物事や世界を悪化させる理由 - GIGAZINE

貧困は経済的に間違った意思決定を招くことが世界開発報告書で明らかに - GIGAZINE

in メモ, Posted by logx_tm