中国の半導体メーカーが約2兆円超の負債を抱えたまま操業前に破綻、巨額詐欺の実態とは？

by Amy Cheng/NPR

アメリカと中国の貿易摩擦を背景に、中国の半導体メーカー・武漢弘芯半導体(Wuhan Hongxin Semiconductor Manufacturing：HSMC)が工場の操業を開始する前に倒産しました。巨額の資金が投じられたにもかかわらず、半導体チップを1つも生産することなくHSMCが撤退した経緯について、海外ニュースメディア・NPRの北京特派員であるエミリー・フェン氏が伝えています。

A Cautionary Tale For China's Ambitious Chipmakers : NPR
https://www.npr.org/2021/03/25/980305760/a-cautionary-tale-for-chinas-ambitious-chipmakers

HSMCは、武漢市の東西湖区政府と北京光量藍図科技(Beijing Guangliang Lantu Technology)という企業の合弁事業として、2017年11月にプロジェクトを開始しました。かねてから、半導体が重要な戦略物資となりつつあったことから、政府肝いりの官民プロジェクトとして華々しいスタートを切ったHSMCですが、設立当初からすでに多数の問題を抱えていたことが分かっています。

中国の技術系ニュースメディア・36Krの報道によると、北京光量藍図科技の共同設立者の1人であるCao Shan氏は最終学歴が小学校卒で、「Cao Shan」という名前も偽名でした。また、もう1人の共同設立者であるLi Xueyen氏という人物も、アルコールの販売や漢方薬の転売などを仕事にしていた人物で、半導体の知識は持っていませんでした。

ノウハウの不足を取り繕うため、HSMCの設立者らは著名な半導体技術者であるChiang Shangyi氏を役員として迎え入れました。しかし、2019年の就任から間もない2020年6月に、Shangyi氏はHSMCを退職。同年のうちに中国の大手半導体ファウンドリである中芯国際集成電路製造(SMIC)の副会長に就任しました。同氏は香港の日刊紙・South China Morning Postの取材に対し、「HSMCで過ごした時間は悪夢だった」と語っています。

HSMCはShangyi氏の引き留めに失敗しましたが、短期間ながら同氏が在籍した事実は大きな武器でした。アメリカから「中国に半導体製造装置を売らないように」と強く要望されたにもかかわらず、半導体製造装置世界大手のオランダ企業・ASMLがHSMCに中古の露光装置を売り渡してしまった背景には、Shangyi氏のネームバリューがあったからだといわれています。

ASMLからの半導体製造装置購入に成功したことで、HSMCは中国国内で大きな称賛を集めましたが、2019年末には資金繰りが悪化し工場建設事業者への支払いが滞るようになっていました。フェン氏が入手した2019年12月付けの通信記録によると、HSMCの請負業者は「4カ月ほど前から、(HSMCからの)支払いが不足し始めていて、今では滞納額が1800万元(約3億円)に膨れあがってしまった」と別の請負業者に話していたとのこと。

HSMCの資金難については、以下の記事を読むと良く分かります。

中国の半導体製造業が資金不足により苦境に立たされている - GIGAZINE

資金繰りの悪化により、HSMCは2021年2月に全従業員を解雇し、事実上倒産しました。裁判資料によると、武漢市政府は推定1280億元(約2兆1600億円)の負債を回収するため、HSMCの土地約300エーカー(約1.2平方キロメートル)やASML製の半導体製造装置を差し押さえたとのこと。

HSMCのような失敗があったにもかかわらず、中国では2020年だけで2万社以上の半導体製造業者が新しく発足しており、半導体ブームが終わる兆しは見られません。こうした事態に対し、中国の国家発展改革委員会の広報担当者であるMeng Wei氏は2020年10月に、「このままでは、製造分野が重複した低レベルな半導体チップ製造工場が乱立するおそれがある」と述べて、危機感を示しました。