サイエンス

新型コロナウイルス感染症の「2つの変異株」に同時に感染する事例が発生、一体何が起きたのか?


新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株である「B.1.1.28」の感染拡大が懸念されているブラジルで、B.1.1.28および「B.1.1.28とは別の系統に属する新しい変異株」の両方に感染した事例が報告されました。異なるSARS-CoV-2の変異株に同時に感染するという、これまでほとんど発生したことがない感染症例が見つかったことから、専門家が過去の事例などを元に「1人の患者が同じウイルスの別々の変異株に同時感染するというのは一体どういうことなのか?」を解説しました。

Pervasive transmission of E484K and emergence of VUI-NP13L with evidence of SARS-CoV-2 co-infection events by two different lineages in Rio Grande do Sul, Brazil - Abstract - Europe PMC
https://europepmc.org/article/ppr/ppr273817

Coronavirus: what happens when a person is simultaneously infected with two variants?
https://theconversation.com/coronavirus-what-happens-when-a-person-is-simultaneously-infected-with-two-variants-154748

ブラジルの研究者らは2021年1月26日に、リオグランデ・ド・スル州で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症例について、「2人の患者が、異なる系統に属するSARS-CoV-2の変異株に同時に感染していた」と報告しました。これにより特定された新しい変異株に対し、研究者らは詳細が判明するまでの仮称として「VUI-NP13L」と名付けました。

2つの変異株に同時に感染していた患者は両方とも30代で、1人は「入院の必要なし」と診断され、すぐに完全に回復したことが確認されました。また、もう1人も頭痛・せき・喉の痛みといった症状を呈したものの、重症化に至ることなく治癒しています。


イギリスのデ・モントフォート大学で分子生物学を教えているMaitreyi Shivkumar氏によると、ウイルスは遺伝子配列を絶えず変化させて突然変異を繰り返すものですが、SARS-CoV-2は突然変異の発生率が他のRNAウイルスに比べて非常に低いとのこと。これは、SARS-CoV-2には自己複製の際に発生したエラーを校正するシステムが備わっているからだとされています。

SARS-CoV-2の突然変異率が低いにかかわらず、ブラジルでは異なる変異株に同時感染する事例が見られました。「重感染」と呼ばれるこの現象には、「患者の体内でウイルスが変異した」というパターンと、「異なる変異株に同時に感染した」というパターンの2つが考えられますが、「B.1.1.28」と「VUI-NP13L」は系統が異なっていることから、ブラジルの感染症例は後者のパターンではないかと、Shivkumar氏は考えています。

SARS-CoV-2の重感染が確認されたことの重大性について、Shivkumar氏は「ブラジルからの報告により、SARS-CoV-2がさらに急速に新しい突然変異を起こすのではないかという懸念が浮上してきました。個別のウイルスが同じ細胞に感染すると、ゲノムが互いに入れ替わって新しい遺伝子配列になることがあります。遺伝子再集合と呼ばれているこの現象が、SARS-CoV-2でも発生するおそれが出てきたからです」と述べています。


実際に、遺伝子再集合でウイルスが突然変異を起こし、重大な事態になったという事例が過去にも発生しています。2009年から発生している、H1N1亜型のインフルエンザウイルスによるパンデミック、通称「新型インフルエンザ」もその1つ。Shivkumar氏によると、新型インフルエンザもヒト、トリ、ブタのインフルエンザウイルスが遺伝子再集合したことで発生したものだとのこと。またSARS-CoV-2も、動物の間でまん延していたコロナウイルスが、遺伝子の組み換えによりヒトへの感染性を獲得したものではないかと推測されています。

Shivkumar氏は、ブラジルで発生した感染症例について「これまでのところ、2つの変異株に同時に感染することが重症化を招くという証拠は見つかっていません。また、このような重感染の事例の報告自体も非常にまれなのが現状です。それでも、今後発生することが懸念されている新たな変異株の出現や、それらに対するワクチンの有効性について確認するために、科学者らにはブラジルのような事例を注意深く監視していくことが求められるでしょう」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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