技術革新が世界にもたらす危機とは?
1918年11月11日、およそ4年間続いた人類史上最大規模の戦争が終わりを迎えました。この戦争では第二次産業革命によって発達した科学技術が数多く使われており、この戦争そのものも科学技術を発展させる大きなきっかけの一つとなりました。この戦争は現代と比較すると古くさく、過去のものだと捉えられがちですが、「技術革新という面でみると実は現代で我々が置かれている状況と似通っている」とニューヨーク・カーネギー財団が解説しています。
What the History of World War I Can Teach Us About Misjudging Technological and Social Change | Emerging Global Order | Carnegie Corporation of New York
https://www.carnegie.org/topics/topic-articles/emerging-global-order/1920-2020-what-the-history-of-world-war-1-can-teach-us-about-misjudging-tech-social-change/
19世紀、各国の指導者たちが社会的・技術的なネットワークを構築しようとあらゆる場所に鉄道を敷いたように、現代では衛星や通信網、交通網が世界各地に張り巡らされています。今日、一部の学者は「衛星および通信技術への過度の依存は、軍事計画立案者に奇襲や先制攻撃を仕掛けることなどの魅力的な誘惑を提示し続けることに他ならない」と警鐘を鳴らしています。
現代に存在するリスクが100年前と違う点は、戦争が起こるきっかけが必ずしも目に見えるものとは限らないという点です。我々のはるか上空で周回している衛星はミサイルなどで物理的に無効化することが可能ですが、ハッキングを受け遠隔操作されてしまうことも十分に考えられます。悪意のある人物が乗っ取った衛星あるいは通信を使用し、どこかの国家に偽装した情報を送信することで、国家間の危機を引き起こすことも可能です。
各国は自国のサイバーセキュリティを保護することに絶対的な重心を置いているため、情報においては、各国が協力関係を築くことは困難です。しかし各国がお互いの情勢を推し量るための手段は数多くあると、ニューヨーク・カーネギー財団は述べます。
例えば国家間の軍備強化をお互いに制限する軍備管理は効率的に機能し、各国は軍事資産を積極的に開示しています。また領空解放条約を結ぶことによって、相手国の上空で定期的に監視飛行を行えるようにもなっています。かつてロナルド・レーガンが述べた「Trust, but verify(信ぜよ、されど確認せよ)」という言葉が当然に実行される時代となりました。
by NIH Image Gallery
一方、サイバー戦争では信頼も信ぴょう性もありません。アメリカは情報通信上の危機があるとして徹底的に中国製品を国内から排除しようと試みています。しかしアメリカが各国に中国の通信インフラの導入を取りやめるよう散々警告を発したにもかかわらず、インドネシアやイスラエルなど、少なくとも16カ国が中国の「デジタルシルクロード戦略」に合意したとされています。しかし増え続ける各国での通信インフラ需要をまかなえる企業は、国家レベルで助成を受けている中国企業「Huawei」に取って代われるものはないとニューヨーク・カーネギー財団は指摘しています。
中国が世界各国の経済やインフラに侵入しセキュリティ上の脅威が迫っていると警告 - GIGAZINE
19世紀後半から20世紀初頭に起こった巨大な変革が社会規範を崩壊させ、国の統治者に新たな政治的対応が求められました。現代の容赦ない技術革新も同様に社会的、政治的な不安を引き起こしており、古い政治体制や国際条約が崩壊しつつあります。ニューヨーク・カーネギーは「進行する大規模な変革は我々の想像を上回るものであり、それに対応する政治的側面にも注意を払う必要がある」と締めくくっています。
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