「他人の糞便を移植すること」が免疫療法の効果がないがん患者の治療に役立つ可能性
2021年2月4日、ピッツバーグ大学のハッサン・ザルール教授らは、免疫療法の薬の効果が表れない患者に対し適切な腸内細菌を投与することで、免疫療法に対する患者の免疫反応を改善し、病状の安定や腫瘍の縮小が認められたとの研究論文を発表しました。
Fecal microbiota transplant overcomes resistance to anti–PD-1 therapy in melanoma patients | Science
https://science.sciencemag.org/content/371/6529/595
Cancer patients weren't responding to therapy. Then they got a poop transplant. | Live Science
https://www.livescience.com/poop-transplants-melanoma-immunotherapy.html
人体の免疫を利用してがん細胞を排除する免疫療法の薬には、全てのがん患者が有効な反応を示すわけではありません。ザルール氏らは免疫療法によく反応する患者とそうでない患者の違いを特定しようと、患者の腸内細菌に目をつけました。
ザルール氏らは免疫療法によく反応した悪性黒色腫の患者から便を集め、今まで薬に反応したことがない15人の患者の腸に便を移植したところ、移植を受けた15人のうちの6人が初めて薬に反応し、1年以上変化のなかった腫瘍の縮小または疾患の安定化が見られました。便の移植を行ったことで血液中の免疫細胞と抗体の数が増加し、ザルール氏らは「腸内細菌の変化は腫瘍の変化と免疫システムの変化に関連付けられる」と考えています。
薬に反応した6人の血液と腫瘍の細胞を収集して分析したところ、移植した便に付着した細菌の抗体が作られ始めると、患者の体内で腫瘍に対する免疫反応が確認されたとのこと。移植した細菌は6人全員の腸にすぐに定着し、6人のうち2人に腫瘍の縮小がみられ、1人は腫瘍が完全に検出されなくなったといいます。
しかしザルール氏は一部の患者は移植による効果を得られず、すべての患者を助けるとは限らないと語り、移植後に症状が改善した人と改善しなかった人の違いを観察しました。
研究チームによれば、症状が改善した6人は症状の改善が見られなかった患者と比較して、免疫を抑制する細胞を腫瘍部位に呼び寄せるタンパク質「インターロイキン-8(IL-8)」が減少していたとのこと。また症状が改善しなかった9人には移植した細菌の定着も見られなかったとのことです。
ザルール氏は「腸内細菌の違いは体が免疫療法に反応しない理由の一つに過ぎず、将来的にはこの治療法を悪性黒色腫だけではなく、他のがん患者でも検証する必要がある」と語っています。ニューヨーク大学で悪性黒色腫を研究するジェフリー・ウェーバー医師は「腸に細菌を運ぶためには糞便を移植するよりも経口摂取する方が効率的かもしれない」と語り、将来的には内服薬として開発される可能性があると述べています。
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