サイエンス

ビタミンDが新型コロナの重症度に影響を与える証拠はないとの主張


これまでに発表された多くの研究により、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症患者はビタミンD不足である」ということや、「ビタミンDがCOVID-19の重症度を低下させる」ことが分かったと報告されています。しかし、遺伝的な差異に着目した新たな研究では、少なくともヨーロッパ系の人々においては、「ビタミンDがCOVID-19の重症度を左右するという証拠はない」との結果が示されました。

No evidence that vitamin D is able to prevent or affect the severity of COVID-19 in individuals with European ancestry: a Mendelian randomisation study of open data | BMJ Nutrition, Prevention & Health
https://nutrition.bmj.com/content/early/2021/01/07/bmjnph-2020-000151

No evidence vitamin D affects COVID severity in people of European ancestry: new study
https://medicalxpress.com/news/2021-01-evidence-vitamin-d-affects-covid.html

COVID-19とビタミンDの関係についてさまざまな議論がなされる中、医師や科学者ら合計200人が2020年12月に「少なくともビタミンDの濃度が低いとCOVID-19に感染しやすくなり、重症化もしやすくなることは確かである」として、ビタミンDの摂取量をすみやかに増やすよう求める公開書簡を連名で発表しました。

新型コロナウイルス対策のためビタミンD摂取量を増やすよう200人以上の科学者・医師が要望 - GIGAZINE


しかし、COVID-19へのビタミンDの有効性を訴える主張に対して、一部の専門家からはビタミンDの過剰摂取がもたらす副作用を懸念する声が挙がっているほか、「ビタミンDを摂取すれば病気を防げるわけではない」としてビタミンDの有効性を疑問視する意見も出ています。

「ビタミンDを摂取すれば病気を防げるわけではない」と医師が指摘 - GIGAZINE


イギリス・ブルネル大学のHasnat A Amin氏とFotios Drenos氏も、ビタミンDの有効性に疑念を抱いている研究者です。Drenos氏はこれまでの研究について、「ビタミンDとCOVID-19に関する研究の多くは『相関関係』のみを見ています。例えば、『COVID-19で亡くなる人はビタミンDのレベルが低い』というのは事実には違いありませんが、COVID-19で亡くなるリスクが高い高齢者は家の中で過ごすことが多いことから、日光を浴びる機会が少なく、結果的にビタミンDのレベルが低いと考えることができます」と指摘しました。

COVID-19とビタミンDに関する研究で主流の「無作為化比較試験(RCT)」は、研究対象を2つのグループに分けて、片方にはビタミンDを与え、もう一方には偽薬を与えるという手法で行われています。


しかし、こうした研究では「相関関係」を示すことはできても「因果関係」を理解することはできないと考えたAmin氏らは、「メンデル無作為化(MR)」という手法に着目しました。MRとは、遺伝子学の分野で因果関係を導き出すために用いられる手法で、遺伝的多様性に応じてグループ分けをするという点で、無作為にグループ分けをするRCTと異なっています。

Amin氏らは、研究を始めるにあたり世界で最も大規模なバイオバンクとされるUKバイオバンクと、COVID-19の症状と人の遺伝子の関係を調べる国際プロジェクトであるCOVID-19 Host Genetics Initiativeから公開データを取得。「ビタミンDレベルが高い遺伝子」と「低い遺伝子」を持つ人をグループ分けしてから、MRで各グループにおけるCOVID-19の重症度を分析しました。

その結果、「ビタミンDの欠乏がCOVID-19の重症度に影響を与える」ことを示す因果関係は見られませんでした。このことから、Amin・Drenos両氏は論文の中で「ビタミンDが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への感染や、COVID-19の重症化を予防するというエビデンスは見つかりませんでした」と結論付けました。これについてAmin氏は「ビタミンDのレベルが高い遺伝子を持つグループと、レベルが低い遺伝子を持つグループを比べて、両者の重症度に違いがあれば『因果関係がある』と言えるでしょう。ところが、違いはありませんでした」と説明しています。


今回の研究で用いられたデータは、いずれもヨーロッパ系の人々に著しく偏っていることから、Amin氏は「肌の色や文化などが日光を浴びる効果などに大きな影響を与えるため、今回の研究結果が非ヨーロッパ系の人も当てはまるかどうかは分かりません」と認めています。

その上でDrenos氏は「ビタミンDのサプリを服用したからといってCOVID-19から守られるという証拠はないため、今後も既知の衛生対策を守り続けるべきです」と述べて、引き続き社会的距離を取ることや手洗いを徹底することなどが重要であるとの見方を示しました。

Amin氏らの論文を取り上げたオンライン掲示板のHacker Newsのスレッドには、「この研究は、実際にビタミンDのレベルを測定したデータを調べたものではないということに注意が必要です。私が言いたいのは、この研究が間違っているかどうかではなく、この論文は『決定的な研究ではない』ということです」というコメントや……


「この研究に、より内容に忠実なタイトルをつけるとすると、『ビタミンDレベルの高低に関する遺伝的要因はCOVID-19の重症度に関連していないように思われる』という風になると私は理解しています」といったコメントが投稿されていました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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