中国のネット工作部隊が実行した「コロナ禍の秘密作戦」が流出文書から判明
公益を目的とした非営利の報道機関プロパブリカが、中国当局が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関してネット工作部隊に命じた指令文書を入手したとして、その詳細について解説しています。
Leaked Documents Show How China’s Army of Paid Internet Trolls Helped Censor the Coronavirus — ProPublica
https://www.propublica.org/article/leaked-documents-show-how-chinas-army-of-paid-internet-trolls-helped-censor-the-coronavirus
2020年1月、中国の武漢市でCOVID-19が大流行しました。同市は1月23日に都市封鎖を宣言し、バス・地下鉄・フェリー・航空機の運航を停止。広がる感染に対して、厳しい措置を講じました。
しかし、中国政府がCOVID-19の存在を隠匿しようとした形跡があることもわかっています。2019年12月30日、武漢市中心医院に勤務していた眼科医の李文亮氏が「アウトブレイクが起きている」と警告するメッセージを同僚に送信したところ、公安局から「社会の秩序を著しく乱した」「インターネット上に虚偽の内容を掲載した」として訓戒処分を受ける事件が発生しました。
新型ウイルス、早期に警告しようとして口止めされた中国人医師 - BBCニュース
https://www.bbc.com/japanese/51366940
武漢中心医院ではその後も感染が多発し、李文亮氏も2月7日に死去。このニュースはSNSなどを介して中国全土を駆け巡り、パンデミックについて最も早期に警鐘を鳴らしていたのにもかかわらず黙殺された事例として、中国国民からの大きな注目を集めました。
プロパブリカの報告は、この李文亮氏の一件に関して中国当局の「ネット工作部隊」が暗躍していたというもの。サイバースペース管理局から漏えいした3200件を超える指示書と1800件を超えるメモなどによると、李文亮氏が死去したという報道は予期できない結果を生みかねない「前例のない挑戦」と位置づけられており、不都合なニュースの抑制とストーリーの再建に取りかかれという指示が記されているとのこと。
具体的な指示としては、ニュースサイトに対する「李文亮氏の死去を知らせるプッシュ通知を送信するな」という指示やソーシャルプラットフォームに対する「李文亮氏関連の投稿をトレンドトピックから削除せよ」という指示などがあったそうです。この2つの指示の後、当局はコメント投稿部隊を投入し、無関係な話題に関するコメントなどを大量に投稿する指示を出したとプロパブリカは解説しています。
中国当局が「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がヒトからヒトに感染することを確認した」と発表したのは現地時間1月20日のことでしたが、文書によるとCOVID-19に関する情報規制は「1月初旬」からスタートしていたことも明らかになっています。ニュースサイトに対する当時の指令文書には、世界保健機関が重症急性呼吸器症候群(SARS)とCOVID-19の共通点について発表した(PDFファイル)資料を無視し、中国政府が発行した資料のみを採用せよという指示や、2002年に広東省を中心に流行したSARSの流行とCOVID-19の流行の類似点を報じるなという指示が記されているとのこと。
2月にはこうした情報統制に加えて、「国際世論に影響を与えよ」という指示も出され、地方のニュースサイトには「どの記事をトップページに表示すべきか」「何時間記事を公開し続けるべきか」「どの見出しを太字で強調するべきか」に関する細かい指示や、「パニックを避けるため、『不治』や『致命的』などの見出しを控えよ」という具体的な指示も出されたとのこと。また、海外からの医薬品を購入したり、寄付を受けたりといった情報も「海外からの反発を引き起こしたり、膨大な量の医療用保護具を提供する中国の努力を台無しにしたりする」という理由で規制されています。
3月5日には亡くなった李文亮氏が「新型肺炎の抑制に模範的な役割を果たした」として中国政府から表彰されましたが、この表彰も中国政府の「国際世論に影響を与えよ」という指示を受けてのものだとみられています。こうしたネット工作にどれだけの人員が割かれているかは明らかになっていませんが、「何十万人もの人々がパートタイムでコメントを投稿している可能性がある」とプロパブリカは報じています。
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