サイエンス

アルツハイマー病に関連するタンパク質が概日リズムによって調節されていることが判明


認知症の一種であるアルツハイマー病は睡眠不足との関連が指摘されており、アルツハイマー病の患者は睡眠に問題を抱えるケースが多いことも知られています。ワシントン大学の研究チームが行った新たな研究では、アルツハイマー病のバイオマーカーであるCHI3L1(YKL-40)体内時計(概日リズム)との関係や、YKL-40がアルツハイマー病の症状に及ぼす影響について明らかにされました。

Chi3l1/YKL-40 is controlled by the astrocyte circadian clock and regulates neuroinflammation and Alzheimer’s disease pathogenesis | Science Translational Medicine
https://stm.sciencemag.org/content/12/574/eaax3519


Protein involved in removing Alzheimer’s buildup linked to circadian rhythm – Washington University School of Medicine in St. Louis
https://medicine.wustl.edu/news/protein-involved-in-removing-alzheimers-buildup-linked-to-circadian-rhythm/

Biomarker of Alzheimer's found to be regulated by sleep cycles
https://newatlas.com/medical/biomarker-alzheimers-protein-sleep-cycles-rhythm/

人間の体は体内の概日リズムに大きな影響を受けており、糖の吸収や体温調節、免疫反応、炎症反応といったさまざまな生物学的プロセスが概日リズムによって制御されているとのこと。そのため、概日リズムの乱れはさまざまな健康問題や病気の原因となるとされています。


アルツハイマー病についても、患者が睡眠に問題を抱えるケースが多いことや、睡眠障害の患者はアルツハイマー病を発症しやすいといった点から、睡眠習慣や概日リズムの乱れがアルツハイマー病と関連していると多くの研究者は考えています。2019年の研究では「質の高い睡眠が脳脊髄液の流量増加を促してアルツハイマー病に関連する老廃物を洗い流し、アルツハイマー病のリスクを軽減する可能性がある」と示されました。

質の高い睡眠がアルツハイマー病のリスク低減に役立つ可能性 - GIGAZINE


以前からアルツハイマー病と睡眠習慣の関連について調査してきたワシントン大学の研究チームは、2018年の研究で睡眠サイクルの混乱がアルツハイマー病の初期における兆候である可能性を指摘しました。研究チームは概日リズムが乱れることにより、アルツハイマー病患者の脳に多く見られるアミロイドβというタンパク質の蓄積が加速すると報告しています。

新たな研究では、概日リズムの乱れがアミロイドβの蓄積を加速させるメカニズムを理解するため、YKL-40というタンパク質に着目しました。YKL-40はアルツハイマー病患者の脳脊髄液に高レベルで含まれており、病気の進行によって含まれる量が増加することから、アルツハイマー病のバイオマーカーとして知られているとのこと。

研究チームのErik Musiek准教授は「YKL-40は概日リズムを司る時計遺伝子によって高度に制御されていました」と述べ、アルツハイマー病のバイオマーカーであるYKL-40と概日リズムとの関連に注目しました。

YKL-40と概日リズムとの関連を調査したところ、YKL-40の生成量が概日リズムによって調節されていたことが判明。「朝に炎症があるとYKL-40の量が増える可能性があります。時間が変わって夕方に炎症を起こすと、YKL-40の量は少なくなる可能性があります」とMusiek氏は述べました。


次に研究チームは、アミロイドβを蓄積しやすいアルツハイマー病のマウスを使い、一部のマウスの遺伝子を操作してYKL-40を生成する遺伝子を欠如させました。生後8カ月の老齢になったマウスの脳を調査したところ、YKL-40を生成しないマウスでは、通常通りYKL-40を生成するマウスと比較してアミロイドβの蓄積量が約半分ほどだったそうです。

アミロイドβの除去には小膠細胞(ミクログリア)という免疫細胞が関わっており、YKL-40を生成しないマウスではミクログリアの量が多かったとのこと。この点からMusiek氏は、「YKL-40タンパク質はおそらく、脳内のミクログリア活性化の調整装置として機能します」と述べ、YKL-40が取り除かれるとミクログリアがより活性化されるようだと主張しています。

さらに研究チームは778人のアルツハイマー病患者のデータを分析し、YKL-40とアルツハイマー病との関連を調べました。患者のうち26%がYKL-40タンパク質の量が少なくなる遺伝子変異を持っており、この遺伝子変異を持つ人はそうでない人と比較して認知能力の低下が16%遅かったそうです。

Musiek氏は、「人々は数年前から脳脊髄液中のYKL-40を測定してきましたが、その機能がよい物か悪い物なのかについて確信が持てませんでした。私たちのデータは、アルツハイマー病に関してはYKL-40が悪い結果をもたらし、YKL-40が少ない人の方が症状が軽いことを示唆しています」と述べ、将来的にYKL-40を標的とした治療法が設計される可能性があると主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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