新型コロナへの政府の対応は政治家の利益のために腐敗しているという科学誌の指摘
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)についての議論は「科学と政治の区別がなくなっている」とかねてから指摘されてきました。本来であれば科学が主導すべきところを政治や政治家の利益をもとに決断がなされるために、社会に不平等が生まれ、人を危険にさらしていると、イギリスの医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)編集長のカムラン・アッバース氏が記事を公開しています。
Covid-19: politicisation, “corruption,” and suppression of science | The BMJ
https://www.bmj.com/content/371/bmj.m4425
Covid-19: politicisation, “corruption,” and suppression of science
(PDFファイル)https://www.bmj.com/content/bmj/371/bmj.m4425.full.pdf
BMJ lashes out at 'state corruption' and 'suppression of science' in UK | The National
https://www.thenational.scot/news/18876154.bmj-lashes-state-corruption-suppression-science-uk/
アッバース氏は「イギリスのパンデミックに対する反応は、少なくとも4つの科学・科学者の抑圧を示す例を含みます」と述べ、具体的に科学がどのように抑圧されているのかについて言及しました。
まず、緊急時にイギリスの中央政府に助言を行う科学諮問機関「Scientific Advisory Group for Emergencies」(SAGE)の会員選別基準、研究内容、審議内容などが、メディアから透明性を求められるまで秘匿されていたことをアッバース氏は挙げました。また、イギリスのメディアによって諮問委員として不適切な人物が含まれていることや、公衆衛生・臨床ケア・女性・少数民族が過小評価されていたことも指摘しています。
次に、COVID-19に関するイギリス公衆衛生サービスのレポートにも不平等が現れていたとアッバース氏は指摘。このレポートは当初、少数民族についての内容が含まれず、保健省によって公開が延期されました。その後、フォローアップレポートが公開されましたが、その際にイギリス公衆衛生サービスの担当者はメディアとの対話を禁じられたとのこと。
そして、2020年10月15日、医学誌Lancetの編集者が「論文の著者であるイギリス政府の科学者は『複雑な政治情勢のため』メディアと話すことを政府から禁じられています」とTwitterで漏らしたこともアッバース氏は抑圧例としました。
UK govt scientists are being blocked from speaking to media because of what is being called the “difficult political landscape.” One contributor to research we are publishing tonight was banned from speaking to a journalist this morning. Welcome to the totalitarian state of GB.
— richard horton (@richardhorton1) October 15, 2020
そして最後に、アッバース氏は政府の実施した大規模な抗体検査の精度が、製造業者の主張を大きく下回ったことについて言及しました。政府が何百万という検査キットを購入する前に、イギリス公衆衛生サービスの研究者は、その精度についての研究結果を発表しようとしましたが、保健省や首相官邸に阻止されたとアッバース氏は主張しています。
政治と科学のよりよい関係は、科学情報を与えられ科学に導かれた「意志決定者」を公的に指名することですが、その前提として「科学的証拠が精査されること」「科学が政治介入されないこと」「システムが透明であること」「利権に影響を受けないこと」が必須とのこと。
科学が政治によって妨害されることは新しいニュースではありませんが、COVID-19への対応は、検査・治療・ワクチン製造など多くの場面で、利益の競合が懸念されている科学者や政府関係者の影響を多く受けているとアッバース氏。このような状況を改善し、科学を保護するためには、まず政府・政治家・科学顧問・意思決定者といった人々の利益相反の状態を公開し、意志決定システムとそのプロセスについて透明性を確保する必要があります。
そして、透明性と説明責任が確立された上で、政府に雇用されている人物は競合する利益とは関係ない分野でのみ働くべきだとアッバース氏は主張しています。このような措置を厳密に行うことが困難な場合、少なくとも競合する利害関係を持つ人々が、その金銭的利害の関わるポリシーなどの決定に関与すべきないという考えをアッバース氏は明らかにしました。
なお、この記事は財務省財務長官の妻であり、実務経験がないにも関わらずCOVID-19のタスクフォースとして起用されたケイト・ビンガム氏についての汚職が報じられる中で公開されたもの。BMJの記事に対しイギリス政府は「我々のパンデミックに対する対応は最高の科学アドバイスに導かれ続け、透明性を維持しています」と述べ、抗体検査はあくまで研究目的のものであり、政府が意図的に論文の発表を遅らせたとするのは正確ではないと反論しています。
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