サイエンス

日本のコウモリから新型コロナウイルスの近縁種が何年も前に発見されていたことが判明


2020年に世界中で猛威を奮った新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の近縁種がキクガシラコウモリ属のコウモリから、日本では2013年に、カンボジアでは2010年に検出されていたという研究結果が報告されました。SARS-CoV-2はキクガシラコウモリ由来のウイルスであるという可能性がかなり高くなったと大手学術誌のNatureが報じています。

Detection and Characterization of Bat Sarbecovirus Phylogenetically Related to SARS-CoV-2, Japan - Volume 26, Number 12—December 2020 - Emerging Infectious Diseases journal - CDC
https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/26/12/20-3386_article

日本のコウモリから新型コロナウイルスと遺伝的に近縁なウイルスを検出 | 東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20201104-2.html

Coronaviruses closely related to the pandemic virus discovered in Japan and Cambodia
https://www.nature.com/articles/d41586-020-03217-0

何年も前にSARS-CoV-2の近縁種がキクガシラコウモリ属のコウモリから発見されていたという報告が、カンボジアの研究チームと日本の研究チームのそれぞれからもたらされました。カンボジアのプノンペンにあるパスツール研究所のチームは「2010年にカンボジア北部で捕獲された2匹のシャメルキクガシラコウモリから近縁種が見つかっていた」と報告、日本の東京大学大学院農学生命科学研究科のチームは「2013年に岩手県の洞窟で捕獲されたコキクガシラコウモリから近縁種が見つかっていた」と報告しました。岩手県で発見された近縁種は研究チームによって「Rc-o319」と名付けられています。

東京大学大学院農学生命科学研究科のチームはRc-o319についてウイルスゲノム全長の配列決定と進化系統樹解析を行うことで、Rc-o319がSARS-CoV-2と遺伝的に特に近縁であることを確認しています。Rc-o319とSARS-CoV-2を進化系統樹で図示したものが以下で、これらの近縁種にはコウモリから発見されたウイルス(黄色のコウモリアイコン)とセンザンコウから発見されたウイルス(緑色のトカゲのようなアイコン)が多いことも判明しています。


また、Rc-o319がヒトに感染するかどうかに関する検証も東京大学大学院農学生命科学研究科のチームは実施。その結果、Rc-o319は宿主であるコキクガシラコウモリの細胞には感染しましたが、ヒトの細胞には感染しないことが明らかになりました。

東京大学大学院農学生命科学研究科の研究チームは「Rc-o319はヒトに感染する可能性は極めて低い」と結論付けており、世界で猛威を奮うSARS-CoV-2がヒトに感染するように変異する可能性を考察するため、「中間宿主」となる存在について調査を実施するべきだとしています。


今回発表された日本とカンボジアの近縁種の他にも、中国ではSARS-CoV-2に最も遺伝子的な関連性が高いとみられる「RaTG13」が発見されています。RaTG13はSARS-CoV-2に変異したウイルスではないそうですが、ゲノムの差がわずか4%しかないことから「共通の祖先を有している」と考えられているとのこと。細胞レベルでの実験では、RaTG13がヒトに感染する可能性も示唆されています。

カンボジアと日本からの報告について、中国の浙江大学に所属するコウモリ由来の感染症の専門家であるアーロン・アーヴィング氏は「SARS-CoV-2の近縁種がまだまだ研究室の冷凍庫に保管されている可能性があります」とコメント。カンボジアの研究チームに携わったカリフォルニア大学デービス校のトレーシー・ゴールドスタイン氏は「SARS-CoV-2は突如として現れたウイルスではありません。SARS-CoV-2の近縁種は我々が意識するはるか以前から存在していました」と語っています。

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in サイエンス,   生き物, Posted by darkhorse_log

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