サイエンス

新型コロナウイルスの重要なタンパク質構造が特定される、新たな治療薬の標的となる可能性も


世界中で感染拡大が続いている新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の「エンベロープタンパク質E」というタンパク質の構造を、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが特定しました。エンベロープタンパク質EはSARS-CoV-2が自身を複製し、感染した細胞の炎症反応を刺激する上で重要な役割を果たすとのことで、このタンパク質を標的にする薬剤が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療に役立つ可能性があると研究チームは述べています。

Structure and drug binding of the SARS-CoV-2 envelope protein transmembrane domain in lipid bilayers | Nature Structural & Molecular Biology
https://www.nature.com/articles/s41594-020-00536-8

Chemists discover the structure of a key coronavirus protein | MIT News | Massachusetts Institute of Technology
https://news.mit.edu/2020/chemists-discover-structure-key-coronavirus-protein-1112

Structure of a protein that helps coronavirus replicate: which drugs can block it? | Explained News,The Indian Express
https://indianexpress.com/article/explained/structure-of-a-protein-that-helps-coronavirus-replicate-which-drugs-can-block-it/


論文の筆頭著者であるMITのメイ・ホン教授の研究室は、細胞膜に埋め込まれているタンパク質構造の研究を専門としています。細胞膜の基本構造である脂質二重層の影響により、細胞膜に埋め込まれているタンパク質の分析を行うことは困難だそうですが、ホン氏らは核磁気共鳴分光法を用いてタンパク質構造を分析する手法を過去に開発しています。

2020年にSARS-CoV-2のパンデミックが起きたことを受けて、ホン氏の研究チームはSARS-CoV-2のタンパク質構造についての研究をスタートしました。ホン氏は、かつて研究したインフルエンザウイルスの表面にあるM2タンパク質と類似していることから、SARS-CoV-2のエンベロープタンパク質Eに焦点を当てることにしたとのこと。

ホン氏は、「1年半にわたるハードワークにより、私たちはB型インフルエンザウイルスにおけるM2タンパク質の構造を決定しました」とコメント。インフルエンザウイルスを対象にした研究の中で、ウイルス膜タンパク質のクローンを作成・精製し、核磁気共鳴分光法で分析するノウハウがすでに得られていたと説明しています。

エンベロープタンパク質EはM2タンパク質と同様に、らせん状になったタンパク質の束で構成されており、受動的にイオンを透過させるイオンチャネルとして機能します。SARS-CoV-2の複製や細胞の炎症反応を刺激する能力において、エンベロープタンパク質Eは重要な役割を果たしているそうです。


2カ月半でSARS-CoV-2のエンベロープタンパク質Eのクローンを作成・精製した研究チームは、エンベロープタンパク質Eを脂質二重層に埋め込んで、核磁気共鳴分光法による分析を行いました。研究チームはMITにある最先端の核磁気共鳴装置を含む複数の装置を用いて、エンベロープタンパク質Eの分析を約2カ月にわたってノンストップで続けたとのこと。

その結果、エンベロープタンパク質Eの一部が5本のらせん状の束になって集まっており、この部分がタイトなイオンチャネルを形成していることが判明。イオンチャネルの一端では、カルシウムイオンなどを引きつける可能性があるアミノ酸も特定されており、研究チームが観察した状態はイオンチャネルが閉じた状態だと見られています。このイオンチャネルが開閉することでSARS-CoV-2の機能に影響が及ぶと考えられており、イオンチャネルが開いた状態の構造を今後の研究で特定することを研究チームは望んでいます。


また、研究チームはインフルエンザの治療薬であるアマンタジンや高血圧の治療薬に使われるヘキサメチレンアミロライドが、エンベロープタンパク質Eのイオンチャネルをふさぐ可能性があることも突き止めました。しかし、これらの薬はエンベロープタンパク質Eとの結合が弱いため、より強力な阻害薬の開発がCOVID-19の治療に役立つかもしれないとのこと。

ホン氏は今回の研究について、基礎的な科学研究が医学的問題の解決に重要な貢献できることを示したと指摘。「パンデミックが終わった後でも、私たちの社会がウイルスまたは細菌のタンパク質について基本的な科学的研究を精力的に続ける必要があると認識し、覚えていることが重要です。研究を行えばパンデミックに先んじることができますが、研究を行わないことによる人的・経済コストは大きすぎます」とホン氏は述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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