「100年に1度の異常気象」が第一次世界大戦やスペインかぜの死者を増加させたとの指摘
1914年から1918年にかけてヨーロッパを中心に繰り広げられた第一次世界大戦は、なんと1600万人もの犠牲者を出した悲惨な戦争でした。また、1918年から流行したスペインかぜでも数千万人が死亡するなど、この時期は世界的に多くの死者が出ましたが、この背景に「100年に1度の異常気象」があったとの研究結果が報告されています。
The Impact of a Six‐Year Climate Anomaly on the “Spanish Flu” Pandemic and WWI - More - 2020 - GeoHealth - Wiley Online Library
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2020GH000277
Unusual climate conditions influenced WWI mortality and subsequent Spanish flu pandemic - AGU Newsroom
https://news.agu.org/press-release/unusual-climate-conditions-influenced-wwi-mortality-and-subsequent-spanish-flu-pandemic
A Once-in-a-Century Climate 'Anomaly' Might Have Made World War I Even Deadlier
https://www.sciencealert.com/a-once-in-a-century-climate-anomaly-may-have-made-wwi-and-the-1918-flu-deadlier
第一次世界大戦の悲惨さを訴える文章などで繰り返し触れられているのが、西部戦線において繰り広げられた塹壕(ざんごう)戦です。塹壕に立てこもった兵士たちは、降雨による水たまりや泥に長時間つかることを余儀なくされ、気温が下がれば体温低下や凍傷といった危険にさらされました。
塹壕戦の惨状については広く知られている一方で、当時のヨーロッパを襲った気象条件については、これまで深く研究されていなかったとのこと。そこで、ハーバード大学で気候の変化が歴史に及ぼした影響を研究するアレクサンダー・モア氏らの研究チームは、アルプス山脈で採取した氷床コアのデータを使用し、第一次世界大戦中のヨーロッパにおける気象条件を再構築しました。
研究チームが氷床コアに閉じ込められた海水由来の塩分などを分析した結果、1915年・1916年・1918年の冬には、大西洋の空気が非常に多くヨーロッパへ流れ込んでいたことが判明。この例年では見られない異常な空気の流れにより、当時のヨーロッパでは降雨量が増えて寒さが厳しくなったとのこと。
モア氏は、「大気の循環が変化したことで、ヨーロッパの全土で6年間にわたり例年よりはるかに多くの雨が降り、より寒い気候になりました。この特別な気候は100年に1度の異常事態でした」とコメント。異常気象による降雨量の増加と寒さの強まりが、第一次世界大戦における死者数に影響を与えたと研究チームは主張しています。
また、研究チームは当時の異常気象がスペインかぜの流行を引き起こした要因の一つだった可能性も指摘しています。スペインかぜとはH1N1亜型インフルエンザの通称であり、このウイルスの主要な宿主であるマガモは気候の変化に敏感な鳥です。
マガモの移動パターンは気候の異常にとても敏感であるため、1918年はマガモたちが例年通りにロシア方面へ向かわず、西ヨーロッパにとどまり続けたかもしれないと研究チームは指摘。戦時下で非衛生的な環境に置かれた軍人や民間人がマガモと接触しやすい状況が生まれた結果、マガモのインフルエンザウイルスが人間に感染し、致死性の強いインフルエンザが流行した可能性があるとのこと。
モア氏は、「大気の異常は私たちの移動、利用可能な水の量、周囲の動物に影響を与えます。動物たちは移動の中で自らが持つ病気を広めますが、動物の移動は周辺環境の変化に左右されます」とコメント。今回の研究には参加していないボストン大学のPhilip Landrigan氏は、科学誌AGU Newsroomの取材に対し「非常に激しい降雨がウイルスの拡散を加速させた可能性があると考えるのは興味深いことです」「今回の研究は、感染症と環境の相互作用について新たな方法で考えさせる、非常に信頼できる刺激的な研究だと思います」と述べました。
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