「雇用不安」が人間の性格を変えてしまうとの研究結果
新型コロナウイルスのパンデミックに伴って多くの業種に影響が及んでおり、「失業するかもしれない」という悩みを抱える人も増えています。そんな「雇用に対する不安」が、人々の性格を変えてしまうと研究者らが指摘しています。
Effects of chronic job insecurity on Big Five personality change. - PsycNET
https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2Fapl0000488
More neurotic, less agreeable, less conscientious: how job insecurity shapes your personality
https://theconversation.com/more-neurotic-less-agreeable-less-conscientious-how-job-insecurity-shapes-your-personality-146019
失業がメンタルヘルスや肉体に与える影響については数多くの研究が行われており、104個の研究についてメタアナリシス分析した2005年の研究では、失業とメンタルヘルスとの間にある因果関係を強固に支持する証拠が発見されました。その一方で、実際に失業には至らないものの雇用が不安定である「雇用不安」の影響については、あまり研究されていないそうです。
リーズ大学の組織心理学教授であるChia-Huei Wu氏らの研究チームは、人工知能や自動化の波が雇用不安を拡大する一因となっており、特にインターネット経由で単発の仕事を請け負うギグ・エコノミーの労働者にとって、雇用不安が長期的な問題と化していると推測しました。
そこでWu氏らは、「雇用不安が人々の性格にどのような影響を与えるのか」についての研究を行いました。人の性格は変わらないものと思われがちですが、近年では時間と共に人々の性格が変化することを示す研究結果が多く発表されています。2008年の研究では、自信や人当たりのよさ、自制心、感情の安定性などが加齢と共に増加する傾向があり、変化量が大きいのは20歳~40歳の間であることが示されています。
仕事の経験が人々の性格に影響を与える影響は以前から研究されており、2015年の論文では仕事における自律性が高まると、新たな予測不可能な状況に対処する能力が上がることが示されています。2016年の研究では、忙しくてストレスの多い仕事をする人は、性格がより神経症的になり、良心が少なくなることが判明したとのこと。
Wu氏らの研究チームは、オーストラリアで実施されている大規模な社会調査プロジェクト「Household, Income and Labour Dynamics in Australia Survey(HILDA Survey/オーストラリアにおける家計、所得、労働力に関する調査)」のデータをもとに、さまざまな職場や職業で働く1046人のオーストラリア人が9年間継続的に回答した、「自分の仕事がどれほど安定していると感じるか」といった雇用の安定性に関するアンケートの結果について分析しました。
また、HILDA Surveyでは雇用の安定性に関する質問に加えて、性格に関する質問を1年目・5年目・9年目に実施しており、「開放性」「勤勉性」「外向性」「協調性」「神経症的傾向」という5つの因子を用いて個性を分析する「ビッグファイブ」に基づいて、調査した年における性格が調査されたそうです。
研究チームはアンケートの結果を基にして、「1年目~4年目」または「5年目~8年目」における対象者の「雇用に対する不安」が、1年目・5年目・9年目における性格の違いに与えた影響について評価しました。また、仕事の内容が性格に影響を及ぼす可能性もあるため、仕事の自律性や忙しさなども考慮して分析を行ったとのこと。
分析の結果、数年間にわたる慢性的な雇用の不安が、以下のような変化をもたらすことがわかったと研究チームは述べています。
◆1:感情の安定性の低下
慢性的に雇用が不安定だと、人々は緊張し、不安になり、イライラしてしまう可能性があります。この状態が長く続くとより神経症的になって感情の安定性が低下し、人間関係や仕事自体に悪影響が及ぶかもしれません。
◆2:協調性の低下
協調性が高い人は誰かと協力したり助けたりすることに大きな関心を持っており、調和のとれた人間関係を築くことができます。しかし、慢性的な雇用不安は人の関心を他者ではなく自分自身に向け、協調性が低下する可能性があるとのこと。
◆3:誠実性の低下
慢性的な雇用不安にさらされている人は、目標を設定して達成に向けて努力したり、誠実な方法で目標を達成したりする意欲が低下する可能性があります。これは労働者本人だけでなく、従業員の生産性とモチベーションを維持したいマネージャーにとっても大きな課題といえます。
慢性的な雇用不安によって深刻な影響を受ける「感情的な安定性」「協調性」「誠実性」といった3つの特性は、いずれも「年をとって成熟するにつれて成長する」とされているものです。今回の研究結果は、雇用不安が健全な人格の形成をさまたげる危険性があることを示唆しています。
研究チームは雇用不安による性格の変化を抑えるため、以下のようなアドバイスを送っています。
・不確実性を受け入れる
自分自身を受け入れ、人生には落とし穴があることを認識する。変化や新しい機会に対してオープンなマインドセットを築く。
・視点を変える
自分がコントロールできない状況ではなく、コントロール可能なものに目を向ける。問題そのものにこだわり過ぎず、解決策を探す。
・不安解消に向けて動く
新しいスキルの習得、キャリアプランの立案、アドバイスをもらう相手の選定、将来に向けた同僚や上司との話し合いなど、自分のキャリアを管理することに取り組む。
・人々との関係を築く
同僚や家族、友人からのサポートを受けることは、回復力や自信を得るのに役立ち、雇用不安による性格の変化を緩和する。
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